テラーノベル
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デート当日。
待ち合わせの三十分前。
佐野勇斗は駅前をぐるぐる歩き回っていた。
「やばい……早く着きすぎた……」
落ち着かない。
服変じゃないか。
髪大丈夫か。
匂いきつくないか。
スマホのインカメを確認してはため息をつく。
その時。
「勇斗」
後ろから名前を呼ばれた。
振り向いた瞬間、勇斗は固まる。
「……え」
吉田仁人が、少し眠そうな顔で立っていた。
シンプルな黒パーカーだった。
それだけなのに異常にかっこいい。
「なんでそんな顔してんの」
「いや……」
「?」
「ビジュいいなって思って」
「朝から素直すぎ」
仁人が笑う。
その笑顔にまた心臓がやられる。
「勇斗も似合ってる」
「っ……」
「そのニット好き」
「……ありがとう」
だめだ。
今日ずっとこんな調子な気がする。
仁人は自然に勇斗の隣に並んだ。
「水族館、電車?」
「おう」
「混んでるかな」
「休日だしなー」
話しながら歩き出す。
でも数歩進んだところで、仁人がふっと小さく笑った。
「何?」
「いや」
「だから何」
「勇斗、めちゃくちゃ緊張してる」
図星だった。
「……してないし」
「嘘。歩き方変」
「見んな!」
「見ちゃうよ、彼氏だし」
さらっと言われて、勇斗は黙る。
仁人は時々こういう不意打ちをしてくる。
しかも本人は無自覚っぽいから余計たちが悪い。
電車に乗っても、勇斗はそわそわしていた。
休日の車内はそこそこ混んでいる。
ドア横に並んで立ちながら、勇斗は視線を泳がせた。
「……」
「……」
「……仁人」
「ん?」
「近くない?」
「混んでるから」
確かに。
でも肩が完全に触れてる。
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揺れるたびに腕も当たる。
心臓に悪い。
「顔赤い」
「仁人のせい!」
「俺?」
「距離!!」
「やだ」
「は!?」
仁人は少し意地悪そうに笑った。
「だって勇斗かわいいから」
「かわいくない!!」
声が少し大きくなってしまい、近くの乗客がちらっとこちらを見る。
勇斗は慌てて口を押さえた。
仁人が肩を震わせる。
「笑うなって……」
「ごめん、ごめん」
全然反省してない顔だった。
ようやく水族館に着く頃には、勇斗のHPはかなり削られていた。
「人多っ」
「人気なんだね」
館内はカップルや家族連れで賑わっている。
薄暗い照明の中、青い光が揺れていた。
「うわ……綺麗」
勇斗が水槽に近づく。
大きな魚がゆっくり泳いでいく。
隣に立った仁人が小さく笑った。
「勇斗、水族館来ると子供みたいになるよね」
「え、そう?」
「顔に全部出てる」
「楽しいんだから仕方ないだろ」
「うん、見てて楽しい」
「……」
「何」
「またそういうこと言う」
仁人は首を傾げる。
本当に天然なんだなって思う。
ペンギンエリアでは、勇斗のテンションが完全に上がっていた。
「見て仁人!! あいつ絶対俺のことす き!!」
「どれ」
「このペンギン!」
「勇斗に似てる」
「え?」
「落ち着きない感じ」
「悪口?」
「褒めてる」
「絶対違う!」
そんなやり取りをしているうちに、気づけばかなり自然に笑えていた。
付き合ってから、恋人って意識しすぎていたのかもしれない。
こうして一緒にいるだけで楽しい。
それだけで十分なのに。
クラゲエリアに入ると、人が少なくなった。
静かな青い空間。
幻想的な光が、仁人の横顔を照らす。
勇斗は思わず見惚れた。
「……」
「どうした?」
「いや……」
言えない。
かっこいい、なんて。
でも仁人はじっと勇斗を見る。
「勇斗」
「ん?」
「手、繋ぐ?」
一瞬、呼吸が止まる。
「……ここで?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど……」
周りに人は少ない。
でもゼロじゃない。
勇斗が迷っていると、仁人は少しだけ寂しそうに笑った。
「そっか」
「あ、違っ」
その顔を見た瞬間、勇斗は反射的に仁人の手を掴んでいた。
「……!」
「その顔ずるい!」
「どの顔」
「今の!!」
仁人は目を丸くしたあと、ふっと笑った。
そして今度はしっかり指を絡めてくる。
恋人繋ぎ。
「っ……」
「勇斗、手汗すごい」
「うるさい!!」
「緊張しすぎ」
「仁人が平気すぎんだよ!」
「平気じゃない」
「え?」
仁人は少しだけ視線を逸らした。
「……俺も、かなりやばい」
その声が思ったより小さくて。
勇斗の胸がぎゅっとなる。
「あのさ」
「ん?」
「今日……泊まるの、やっぱやめる?」
勇斗は目を瞬いた。
「なんで」
「勇斗、無理してそうだから」
「してない」
「でも緊張してる」
「それはしてる」
「どっち」
「……でも」
勇斗は繋いだ手を少し強く握った。
「泊まりたい」
仁人がゆっくり目を見開く。
「……ほんと?」
「うん」
「後悔しない?」
「しない」
すると仁人は少し困ったみたいに笑った。
「……俺、今日たぶん寝れない」
「奇遇だな、俺も」
二人で顔を見合わせて笑う。
その時だった
「……あれ、勇ちゃん?」
突然後ろから聞こえた声に、二人同時に固まった。
しかも。
まだ、手を繋いだままだった。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
コメント
1件
第2話、読み終えたよ〜! デートの緊張感がめっちゃ伝わってきて、こっちまでドキドキした……! 仁人の「彼氏だし」は不意打ちすぎて反則だと思う(笑) 水族館のクラゲエリアで手繋ぐシーン、すごく好き。 仁人が「俺もかなりやばい」って小さく言うとこ、胸がぎゅっとなった😢 最後の「勇ちゃん?」で終わるのずるすぎるよ!続き早く読みたい……! 藍月。さん、素敵な作品ありがとうございます🤍