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魔王城での生活が始まってから、数週間が経った。
当初の不安はどこへやら、私の毎日は驚くほど穏やかで、そして温かいものに変わりつつあった。
「オーロラ様、今日もありがとうございます! おかげで翼の付け根がすっかり軽くなりました」
「お役に立てて良かったです。でも、あまり無理はしないでくださいね?」
中庭で治療を終えると、ガーゴイルの門番が嬉しそうに翼をはためかせた。
最初は私を珍しそうに見ていた魔物たちも、今では「聖女の奥様」と呼び
道ですれ違うたびに自慢の獲物や魔界の珍しいお菓子を分けてくれるようになった。
誰かに必要とされる。その事実が、私の心を少しずつ、けれど確実に癒していた。
そんなある日の午後、ディアヴィル様が不意に私の部屋を訪れた。
「オーロラ。今日は公務を早めに切り上げた。気分転換に、魔界の市場へ行くぞ」
「えっ、市場……ですか?」
「ああ。妻が城に籠りきりでは、領民に顔が立たんからな。……まあ、俺がただお前を連れ出したかっただけだが」
最後の一言を、彼はそっぽを向きながら小さく付け足した。
無愛想に見えて、彼はいつも私のことを気にかけてくれる。
その不器用な優しさが、最近の私にはたまらなく愛おしく感じられていた。
魔界の市場は、下界のそれとは全く違う、混沌とした活気に満ち溢れていた。
色とりどりの怪しい煙が立ち込める屋台や、宙を舞う不思議な生き物。
ディアヴィル様は目立たないようにマントを深く被っていたけれど
それでも滲み出る威圧感のせいで、周囲の魔物たちが「あ、魔王様だ」と気づいて道を開けていく。
「オーロラ、あれを見ろ。あそこは魔法薬の老舗だ」
彼に促されて覗いた店先には、瓶に詰められた怪しげな液体や、パチパチと音を立てる飴玉が所狭しと並んでいた。
「これ、なんですか……? 『種族変換キャンディ』?」
「舐めている間だけ、自分の声が特定の魔物の鳴き声に変わる遊び道具だ。護身用にも使われるが、大抵は子供の玩具だな」
他にも、髪や角に塗ると周囲の魔力に反応してネオンのようにチカチカ光る【瞬間・発光ワックス】や
可愛らしい猫のラベルが貼られた【キャット・ウィスパーティー】というお茶など、下界では考えられないような遊び心に溢れた品ばかり。
「面白いですね……。ディアヴィル様、これ、買ってみてもいいですか?」
「ああ。好きにしろ」
私はわくわくしながら、いくつかのおかしな薬を買い込んだ。
また、彼も同じく魔法薬を買ったらしく
「ほら、お前に似合いそうだ」
「それって…」
「瞬間発光ワックスだ」
ディアヴィル様はその缶を開けると、中のクリームを手に取り、私の髪に指先でちょこんと触れた。
その瞬間
私の長い髪が聖女の魔力に過剰反応したのか
まるで神々しい後光のように、透き通ったプラチナ色にチカチカと輝き出したのだ。
「わっ……! なんですかこれっ……!?私の髪…すごく輝いてます…!」
「ほう……聖女の魔力は、魔界のワックスを通すとこうなるのか。まるで、夜空の星を頭に載せているみたいだな」