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ディアヴィル様は、私の光り輝く髪を珍しそうに見つめて、満足そうに口端を上げた。
そんな彼の顔が、いつもより少しだけ幼く見えて胸がトクンと鳴る。
「じゃあ……お返しです、ディアヴィル様。喉が渇いたでしょう?」
私はイタズラっぽく微笑んで、彼に【キャット・ウィスパーティー】を差し出した。
彼は疑うこともなく、それを一気に飲み干す。
「……ふむ、味は悪くない。さて、次は───」
そこで彼はピタリと止まった。
「……あっちの宝飾店に行くニャ」
「…………えっ?」
ディアヴィル様が、凍りついた。
あの、魔界を統べる冷徹で冷酷と言われていた魔王様が、今、ハッキリと。
「ディアヴィル様、今、なんて……?」
「き、聞き間違いだ。俺はただ、行こうと言っただけニャ」
顔を真っ赤にして口を覆うディアヴィル様。
けれど、一度出始めた語尾は止まらない。
「お、お前……!俺に何を飲ませたのニャ! 早く解毒薬を出すニャ!」
「ふふっ……ふふふっ! ごめんなさい、でも、可愛くて……!」
「笑うな!俺は真剣で……っ!威厳が台無しだニャ!」
鋭い眼光で、今にも雷を落としそうな迫力で怒っているはずなのに。
言葉の最後に必ず付いてくる「ニャ」の破壊力のせいで、一ミリも怖くない。
むしろ、一生懸命に背中を丸めて威嚇している仔猫のように見えて、私はとうとう堪えきれずにお腹を抱えて笑い転げてしまった。
「あははは! 大丈夫ですって、ほんの一時間で解けますし……! ディアヴィル様、もう一度、もう一度だけ何かおっしゃってください!」
「ふざけるなニャ! 城に帰ったら覚えておけニャ!」
憤慨しながらも、最後の一言まで完璧に「ニャ」が決まり、私は再び笑いの渦に沈んだ。
周囲の魔物たちも、必死に笑いを堪えて肩を震わせている。
市場全体が、かつてないほど奇妙で幸せな空気に包まれていた。
◆◇◆◇
帰宅後───…
魔王城の広い廊下を歩きながらも、私の肩はまだ小刻みに揺れていた。
「ふふ……っ、くす、くすくす……」
「……いつまで笑っている。もうその辺にしておけ」
ディアヴィル様は、市場での騒動がよほどこたえたのか、苦虫を噛み潰したような顔で前を歩いている。
お城の玄関をくぐったあたりで、ようやく語尾の魔法が解けたようだ。
聞こえてくるのは、いつもの低くて威厳のある
冷徹な魔王様のものに戻っていた。
けれど、自室の前に辿り着いた瞬間
ディアヴィル様がピタリと足を止め、くるりと私の方を振り返った。
「……おいオーロラ。公共の面前で、この俺にこれ以上ないほどの恥をかかせたんだ」
彼はドンッ、と壁に手を突き、私を腕の中に閉じ込める。
いわゆる「壁ドン」という格好だ。
彼の大きな影が私を覆い、鋭い赤い瞳が至近距離から私を射抜いた。
低い声が廊下に低く響き、空気がピリリと緊張する。
「……覚悟はできているだろうな?」
その迫力に一瞬たじろいだけれど、今の私は出会った頃の
ただ震えるだけの「身代わり聖女」ではなかった。