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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。無事に黄昏の街へ戻れたのは良かったのですが、どうにも気分が昂ってしまってルイを誘ったのが運の尽き。
もちろん嫌ではないのですが、最近何かと忙しくてご無沙汰だったこともあり歯止めが利かず結果一日ダウンすると言う醜態を晒してしまいました。
この件でルイを咎めるつもりはありません。誘ったのは私ですし、何だかんだで後悔はしていません。
ただ、先に事後処理の進捗状況や正確な被害の情報を手に入れる為に控えるべきだったなと反省しています。
これらの情報は昼過ぎに部屋を訪れてくれたレイミが現時点の情報として教えてくれました。有り難いことです。
「体調に問題はありませんか?レイミ」
「数日経てば万全となりますよ、お姉さま。ご一緒出来ず残念です」
ベッドで横になる私の隣に椅子を持ってきて座ったレイミが残念そうにしています。
私としては妹を危険から遠ざけられたのでむしろ嬉しいことなのですが、本人は一緒に行きたかった様子。難しいものですね。
「今回はすぐに移動する必要がありましたから、皆に貴女の事を任せたのです。時間に余裕があったならレイミを連れていきましたよ」
これは本音です。『ロウェルの森』での戦いも、レイミが居ればどれだけ楽になったか。
それでも急がなきゃいけませんでした。そしてその勘は当たっていたんです。マリアだけでは獣王を倒せたか疑問ですからね。
「兵は拙速を尊ぶ、ですね?」
「初めて聞きますが、良い言葉ですね」
状況次第ですが、迅速な行動は大抵の場合有利に働きます。
……さて、レイミの持ってきてくれた資料を見るに……この被害は……。
「現時点で死者は百三十名ですか……」
「更に増えると予想されています。医療班が懸命に治療を施していますが……」
確かに薬草を使うにしても限界はあります。万能薬ではないので。
しかし、戦死者の名簿を読む限り古参の警備兵が多い。
おそらく新人の隊員たちを鼓舞するため自ら前に出るしかなかったのかもしれません。
私の大切なものが、またたくさん奪われた。力が足りないからこんな結果になる。
……何度経験しても、この感覚は馴れません。胸が締め付けられて何もかもを失うような、この感覚は……。
「お姉さま……」
っと、いけない。レイミが心配してる。
「心配させてしまいましたね、大丈夫です。人的損失は分かりました。次は物的、金銭的な損失を見てみましょうか」
それらはマーサさんが纏めてくれた報告書に目を通します。
弾薬の消耗が激しい。それに、破壊された武器も少なくない。当分大きな戦いは起こせませんね。
そして金銭的な損失は……貯蓄の八割を失う!?
「えっ、こんなに?」
「はい、お姉さま。どうやら、『ライデン社』との取引で足元を見られたようです。見てください」
弾薬が平均して五倍から八倍!?需要に対して値を吊り上げるのは商人として当たり前ですから、咎めるつもりはありません。
でもこれは……限度がある。
なるほど、だから新規に機関銃や野砲を購入できなかったのか。マーサさんが頑張ってくれたから、何とか弾薬だけは揃えられたと。
……野砲と機関銃の値段は十倍ですか。そうですか。
「『ライデン社』は敵ですね」
潰そう。
「お待ちを、お姉さま。『ライデン社』の技術はまだまだ有益です。潰してしまうのは時期尚早でしょう。私からもライデン会長に警告しておきますので、今回はご容赦を」
ふむ。『ライデン社』を潰せば技術を得られなくなる。それは手痛いか。
それに、レイミはライデン会長と親しい様子。同郷だとか言ってましたから、帝都出身なのかな。潰したい気持ちはありますが、ここは我慢するべきなのでしょうね。
「分かりました。今回は問いません。ただし、石油の販売金額を上げるようにマーサさんに伝えます」
「それで宜しいかと。他に油田が見付かっていない以上、『ライデン社』はお姉さまから石油を買うしかありません。今回の件で値を吊り上げたのは彼方ですからね。文句も言えないでしょう」
意趣返しとも言えますが、先ずは財政の建て直しを図る必要があります。先立つものがなければ、軍備を強化することも出来ません。
「早急な財政の建て直しを図る必要がありますね。簡単なのは貿易ですが」
「お姉さま、今海賊衆を手離すのはリスクが高過ぎます」
そうなのです。我が『暁』戦闘部隊は甚大な被害を受けました。私の感情を抜きにして組織的に見ても、古参の損失は痛い。
何せ彼らは軍で言う下士官の役割を担っていましたからね。中堅指揮官を多数失ったことで戦闘部隊としての質は低下しています。
この状況下でエレノアさん率いる手練れの海賊衆を手離すのは悪手です。
「となれば、他の案ですか。農作物や紙、石鹸などの輸出を増やさねばなりませんね」
ただ、市場に出回る数が増えれば単価も下がる。数を出さねば利益も減ってしまいます。ですが、背に腹は代えられませんからね。
「植物紙の売り込みを増やせば、羊皮紙ギルドを更に刺激する結果になりますが」
「何れは叩かねばならない組織ですからね、今更です。『オータムリゾート』との交易も増やしたいのですが」
「リースさんに相談してみますが、大規模な交易にはならないと思います。うちの主体はカジノですから」
食べ物の需要はそこまで高くないんですよねぇ。
「無いよりはマシですよ。ロウ達に頑張って貰って、収穫量を増やして交易に回します。少しは財政も改善するはず」
紙や石鹸は模造品が出回り始めたと耳にしましたが、農作物だけは唯一無二ですからね。
或いは、ドルマンさん達が気晴らしに作り上げている刀剣類がかなりの数になってきたので、市場に流してみようかな。銃ほどでは無いにしても、それなりに需要はあるはず。もちろん売り物は厳選しますけどね。
「財政の建て直しと平行して戦力の建て直しも進めなければいけませんね」
幸いなのは特別な技能が必要で高価な装備を持つ戦車隊、砲兵隊、機関銃隊が無傷であることです。
「人員については、今回参加した自警団を活用してはどうでしょう?練度に問題はありますが、勇敢でした」
「そうですね、希望者を募ることにしましょう。住人からも募集するつもりです。必要ならば傭兵も検討します」
ただ問題があるとするなら、今回の戦いで自警団にも大きな被害が出たこでしょうか。これに関係する後始末などを考えると今から頭が痛いですね。
「『オータムリゾート』は兵を出さないでしょう。独自の戦力を持っていますが、六番街と十六番街の警備で手一杯のはずです。何らかの資金援助は行われると思いますよ」
「その時はお義姉様に直接お礼を言わなければいけませんね」
やはり身内は頼りになります。得難い存在です。『海狼の牙』は……サリアさんの性格から考えても自主的な支援は期待できませんね。
考えることがたくさんありますが、弱味を見せてはいけません。明日から頑張って対策しないと。