テラーノベル
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空が閉じられて、もう500年が経とうとしている。
かつては無限に広がる蒼の空があった。
月が、星が、太陽が、自由に瞬いていた。
けれど今、空は黒く、重く、沈黙している。
世界は「煌(きらめき)」によって動いていた。
それは、人が生まれながらに持つ“魂の光”。
嘘をつけない光。誤魔化せない、美の本質。
煌の強さは、力であり、
煌の純度は、美しさであり、
煌の色は、その人の感情を映す。
真白は「慈愛」、蒼は「叡智」、紅は「情熱」、紫は「孤高」、 そして黒は、「死」。
この世界で、唯一「七色の煌」を持つ者がいた。
彼女の名は――
アリア・レグリス・セラフィーナ。
彼女が生まれた瞬間、世界中の煌が震えた。
胎児のころから、煌の測定器を破壊するほどの力を放ち、
その誕生の朝には、閉じた空の雲が一時晴れ、
“白の雨”と呼ばれる純粋な煌結晶が地上に降り注いだ。
その瞳は、まるで宇宙を内包しているようだった。
その肌は、光そのものだった。
誰もが彼女を神と呼び、
誰もが彼女の前に跪いた。
だが――アリアは、笑わなかった。
「……どうして、私はこの世に生まれたの?」
その問いに、誰も答えられなかった。
王宮の深奥に建てられた聖煌塔(せいこうとう)の頂上。
誰も届かないその場所に、アリアは住まわされた。
“守るため”と人は言った。
けれど、それはまるで“幽閉”だった。
彼女は一人きりで、煌の学びと、儀式と、記録と、訓練に明け暮れた。
王としての器を育てるため。
戦うため。
奪われないため。
そして18歳の夜。
アリアは煌王に即位した。
彼女が王座についた瞬間、七つの国の煌が一斉に共鳴し、
世界中の“霞”の子どもたちが、一晩だけ煌を発した。
それは、祝福の奇跡だった。
それなのに。
アリアの瞳は、どこか遠くを見つめていた。
「……煌を持たない人々に、私は何を与えられるのだろう」
彼女はすべてを持っていた。
美貌も、力も、永遠も。
けれど、彼女が欲しかったものは――誰かの“ぬくもり”だった。
そんな彼女の前に、ただ一人、膝をつかなかった男が現れる。
彼の名はまだ明かされない。
黒衣を纏い、影のように静かで、目を合わせようとしない男。
彼は、アリアの護衛として選ばれた異端の騎士。
初めて彼がアリアに剣を捧げたとき、
世界中の煌が一瞬だけ揺れた。
“運命が、交差した”瞬間だった。
その日から、彼だけはアリアに名を呼ばれ、
アリアだけは彼に、夜空の話をした。
そして――ある夜。
誰もいない王座の間で、彼は問う。
「――陛下。あなたは、本当に……幸せなのですか?」
その言葉に、アリアの煌が涙のように零れる。
それは“感情”ではない。
それは“呪い”だった。
封じられた煌。隠された神。忘れられた闇。
全てが、その問いをきっかけに――目を覚ます。
世界の均衡が崩れ始める。
煌が暴走し、霞が怒り、影が笑う。
だが、それは始まりにすぎない。
これは、“美しき王”が初めて流す涙から始まる、
この世界で一番美しい、そして一番悲しい、戦いの物語。
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👑――聖煌歴一九年。世界は、再び運命を選び始めた。👑
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