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王都セラフィナ。
七つの煌塔(きらめきとう)に囲まれた、世界の心臓。
その中心にそびえる「聖煌宮(せいこうきゅう)」の最上階――そこは、誰もが一生に一度は憧れる、そして決して近づけない場所だった。
煌王アリア・レグリス・セラフィーナ。
この世界で最も美しく、最も純粋な“煌”を持つ存在。
彼女が静かに、白銀の王座に腰を下ろしていた。
透き通るような肌。
背中まで流れる真白の髪。
星を閉じ込めたような、静かで深い瞳。
その姿だけで、誰もが口をつぐみ、膝を折る。
けれど――
「……今日も、同じだわ」
アリアは、静かに呟いた。
声には、まるで風のような儚さがあった。
何も変わらない。
今日も、明日も。
誰もが彼女を「陛下」と呼び、遠くから見つめ、決して手を伸ばそうとしない。
煌が全てを照らす世界で、彼女だけが“ひとり”だった。
そこへ、扉が音もなく開いた。
「アリア様、お迎えに上がりました」
黒衣の男。
全身を漆黒のマントで覆い、顔の半分は仮面に隠されている。
彼の名は――レイヴン。
アリアの“近衛騎士”であり、唯一彼女の私室まで立ち入ることを許された存在。
「……レイヴン。今日の議会も、“崇拝と嘆願”ばかりでしょう?」
「……はい。“あなたの煌を分け与えてほしい”という声が、また増えております」
アリアは、微かに笑った。
けれど、それはあまりにも寂しい笑みだった。
「煌は命と同じ。“与える”ものではなく、“目覚めさせる”ものよ……」
レイヴンは黙ってアリアを見つめていた。
彼の仮面の奥の瞳は、決して冷たくない。
むしろ、どこか…悲しみに似たものを抱いていた。
その時――
ズシンッ……!!!
聖煌宮が、かすかに揺れた。
煌塔が鳴動し、警報の煌火が天に昇る。
「ッ……これは……!」
「“影の煌”です」
レイヴンがすぐに答えた。
「北の封印区画で、反応がありました。未分類の波長……おそらく、何かが“目を覚ました”」
アリアは立ち上がる。
白のドレスが空気を撫で、部屋に光が満ちた。
「行きましょう、レイヴン。私たちで確認を」
「ですが、陛下……!」
「世界は、私の煌で守る。それが煌王の役目でしょ?」
レイヴンは一瞬だけ目を伏せ、
次の瞬間、剣を抜いて膝をついた。
「――御意」
***
北の封印区画は、王宮の地下最深部。
その扉は“存在しない”はずの魔力を封じるため、
100年に渡って閉ざされてきた場所。
二人がその部屋に足を踏み入れたとき――
「っ……何、この……冷たさ……!」
アリアの煌が、まるで“逃げる”ように体から離れかけた。
空気が重く、息が苦しい。
それは、“煌”ではない。
“影”だった。
「……ようこそ、煌王」
低く、低く、這うような声。
その中心に、赤黒く光る“瞳”が浮かび上がる。
それは――人ではなかった。
でも、かつて人だった何か。
煌を持たず、闇に囚われ、名前を捨てた存在。
「私を……また、閉じ込めるのか。煌王よ」
アリアは剣を抜いた。
その刃は、煌を纏い、虹色の光を放つ。
「あなたは、誰……?」
「私は、かつてこの世界に“美しさ”を与えられなかった者。
この世界が切り捨てた、“醜さ”そのもの」
レイヴンがアリアの前に立つ。
「陛下、ここは危険です。私が――」
「だめよ、レイヴン。これは私の戦い」
アリアは、静かに微笑んだ。
その瞳には、ほんの少しだけ“感情”が宿っていた。
「あなたがこの世界に忘れられていたなら……私が、覚えておくわ」
「……ッ、煌王よ……!」
影が叫び、世界が悲鳴を上げる。
そして、始まった。
七色の煌と、黒の“影”の、最初の戦いが。
***
その夜、王都の空に、一筋の光が走った。
閉じたはずの空が、一瞬だけ――揺れた。
そしてその日を境に、
王都では奇妙な噂が囁かれるようになる。
「煌王様が……“笑った”らしいよ」
その噂は、瞬く間に国中に広がった。
誰もが知らなかった。
その“微笑み”が、後に世界を分断する“戦乱”の始まりだったことを――
👑To be continued…👑