テラーノベル
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その夜吉田は自分の家に帰った。今回はマネージャーに送って貰って。
明かりのついてない部屋、冷えきった空間に寂しさを覚える。本当に佐野は帰ってこないのか。こんなに寒いのにどこで夜を明かすのか。
風邪、引かないといいけど。
吉田はどこまでも佐野を愛していた。どれだけ酷いことを言われても、されても。吉田は佐野を心の底から愛し、帰ってくるのを待っていた。
暗い廊下を通り過ぎ、リビングに入る。真っ暗な部屋の明かりをつけると最後に佐野と過ごした、あの甘い朝の時間を思い出させるソファが目に入った。飲みっぱなしだったコーヒーカップが無造作にローテーブルに置いてある。エアコンのリモコンを操作し、温風が吹き始めたのを確認すると、カバンとコートを片付け、吉田は腕をまくった。
マネージャーに用意して貰ったダンボールをひとつ組み立てる。どこから片付けようか悩んでとりあえず寝室に向かった。脱ぎ捨てられた佐野のパジャマを拾い、ゆっくり丁寧に畳む。お揃いのものは全部捨ててしまおうと思っていたが、佐野が悩みに悩んで決めたいいパジャマだったため、残しておくことにした。ふわりと香る佐野の人としての匂いに涙が溢れそうになる。頭をぶんぶん振り、グッとこらえる。2つ綺麗に並べられた枕も片方持ち上げ、ダンボールに詰める。クローゼットを開け、中にある佐野の私服を1枚ずつ思い出を振り返るように見つめ、畳むを繰り返す。
1枚のニットを取り出した時に吉田の動きは止まった。そのニットは2人きりで遊園地に行った時に佐野が着ていたものだった。その日のために何日もかけて選んだのだと吉田に自慢げに見せてきたのを昨日の事のように思い出す。
吉田はニットを片手にクローゼットから離れ、ベットの横にあるサイドチェストの1番上の引き出しを開ける。そこには佐野と二人で撮った写真が沢山しまわれていた。忙しい今、写真を1枚ずつアルバムに入れれるようなまとまった時間が無いため、とりあえずここにしまっている。
その中から一枚の写真を取り出すと、吉田は静かに微笑んだ。写真の中にうつっているのは悪ノリで変顔をしてる佐野と吉田だった。遊園地のキャラクターでも、綺麗な景色でもない、ただ佐野だけを見つめていたあの遊園地の思い出。
もうあの幸せな時間は戻ってこない。
捨ててしまおうか。そう思ったが脳が本能的に拒否する。丁寧に写真を引き出しにしまうとクローゼットへ戻り、作業の続きをした。
寝室から佐野のものが一切なくなった。2人分のものが一気に1人分になるとただでさえ静かな部屋に更なる静寂が訪れる。吉田の冷えた心をさらに冷やすには十分すぎた。
作業が終わると時刻はもう日付を周ってから1時間たっていた。急いでシャワーだけを隣の部屋に響かないよう静かに浴び、寝る支度をする。
ベッドに入り、明日は残りの作業をやらないと。と冷静に考える。ほかのお揃いのものをどうするか、何があったかを考えていたらいつの間にか吉田は眠りに落ちていた。ここ2日でたまりにたまったストレスが吉田を眠りにつかせてくれたのだった。
翌日、吉田は目覚ましよりも早く起きてしまった。だるさで身体が上手く動かないが、ムチを打ち無理やり動く。スリッパを履き、寒い廊下を歩く。朝ごはんを考えながら、一昨日残しておいた食パンの存在を思い出し小さくため息をつく。
消費期限、過ぎちゃったな…。
申し訳なく思いながらそれをゴミ箱に捨てると、何も食べる気にならなくなってしまった。
仕事に行く準備だけ終わらせ、テレビをつけニュース番組を見る。テレビに出る以上、ある程度の時事ネタは把握しておかなければいけないのだ。
するといつも見てる朝番組に佐野が出ていた。今共演している女優も一緒だ。佐野はいつも通りの笑顔で元気よく話している。テレビの中の佐野が言う。
「毎朝見させてもらってます!」
それは吉田とだった。毎朝朝食を食べながらこの番組を見るのを日課にしていた。吉田の存在を公表してる訳では無いが、その事実を佐野が話してくれたことに吉田は少し嬉しくなった。
あんなに酷いこと言われたのに、俺も馬鹿だな。
吉田は自分を笑った。ここまで人を愛せるのは最初で最後だと思った。何があっても、どんな時でも佐野がいれば幸せだった。永遠の愛を確信していた。
つい2日前までは。
吉田が愛していた佐野はもういない。別人になってしまった。いや、最初からずっと違ったのかもしれない。この3年、幸せに過ごした日々は全てガラクタで、表面上のものだったのかもしれない。
画面越しの佐野はキラキラ輝いていて、同じグループのはずなのにまるで別世界の人間みたいだった。アナウンサーが言った冗談に身振り手振りでリアクションをしながら笑っている。
ふと思う。女優との距離が近い気がする。今まで佐野はファンや週刊誌、何より吉田に勘違いされたくないため一定の距離を女性と保っていた。なのに今はどうだ。画面に映る2人の距離感はいつもなら考えられないものだった。肩がもう触れそうなくらいに近い。女優の方は何かと佐野にボディタッチしてるではないか。
吉田は察した。佐野の態度が急に変わった理由。きっとこの女優と付き合ったのだろう。そう思った。思ってしまった。吉田の心はさらに冷える。もう温めることは誰にもできないほどに。
マネージャーからの連絡を受け、テレビの電源を切る。真っ黒になった画面に吉田が映る。隣に佐野はいない。実際隣にいないのだから当たり前なことなのに改めて見て自覚する。部屋に再び静寂が訪れた。
吉田は決意した。もう佐野を好きでいるのはやめよう。佐野のために、チームのために。だが、何年も抱えた恋心をすぐに切り替えるなんてできっこない。だから演じるのだ。平気なフリをしろ。何も気にしてない。佐野のこともただのチームのメンバーだと思え。
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みえりな@多忙の為あまり居ない
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そう自分に言い聞かせ、冷えた部屋を後にした。
コメント
1件
のりもちさん、第11話読ませていただきました。吉田さんがひとつひとつの物に触れながら思い出をたどる動作が丁寧で、胸が締めつけられました。特に「脳が本能的に拒否する」という表現に、恋しさの深さが滲んでいて…。最後の「演じる」という決意も、まだ整理しきれない感情がにじんでいて切なかったです。続きがとても気になります。素敵な作品をありがとうございます🌷