続きが出したくなって書きました。
今回もアメ日+中日(微)&キス・監禁・拘束描写・背後表現有です。地雷は回れ右!!
WW2の話がちらりと出てきます。原爆の話も出てきます。
※政治的意図、戦争賛辞は一切含まれておりません。あくまで妄想級の作品としてご覧ください。
ちなみに、ちゃっかり10,000文字超えてます。
では、どうぞ~
「うぅぅ……これ、どうしましょう……」
日本は悩んでいた。
ベッドの上に広げられているのは明らかに日本のサイズとは合わないぶかぶかなTシャツ。
先日、アメリカの家に泊まった時に貸してくれた着替えだ。
『うーん、日本に合うサイズは無いな……これでいいか?』
適当に渡されたのは何の変哲もない黒の長袖Tシャツ。
だが、いつも着ているのを見るだけに、日本にはそれが特別なもののように感じられた。
『うっわ、いくら何でもぶかぶかすぎじゃね……?』
そう笑われて怒ってしまった。普段はなるべく穏便に、怒らないように気を付けているのに、何故かアメリカの前だと制御が利かない。
まあ、事実、自分でも思うほどぶかぶかだった。首元は広すぎて胸が殆どさらけ出されていたし、手は袖の半分ほどにしかなっていない。丈も長すぎて、ズボンを履く必要もないほどだった。そもそも、ズボンも大きすぎて入らなかったのだ。
「洗濯はしましたが……」
返す、返さないの問題ではない。
いつ返すか、である。
会議の時などに渡すのは絶対に各国から変な目で見られる。絶対だめだ。「HENTAIJAPAN」などと守護者の方まで言われるのは流石に勘弁してほしい。
かといって機会を見て渡すためにずっと鞄の中に入れておくわけにもいかない。かさばるし、何よりこれも見つかったら変質者としか思われないので。
悩んでいる日本の鼻に、アメリカの匂いがふわりとやって来る。
洗濯したはずなのに、と思いつつTシャツに近づくと、あの日のことを思い出した。
『HAHA……Japanが可愛い反応するからいけないんだよ……』
「ッ?!?!」
思い出すだけで頬に熱が集まる。
それと同時に、思わず魅入ってしまうあの瞳も思い出した。
「っ、はぁ~……」
顔から湯気が立ち上りそうな程の日本は、床にへたり込んで、しばらく動けなかったのであった。
「ふー……」
アメリカは息を吐くと、額の汗を拭った。
たった今、部屋の大掃除が終わったところであった。
普段掃除などめったにやらないアメリカが唐突に大掛かりな掃除をしたのには、訳があった。
「これで、いつ日本が来ても大丈夫だな!」
アメリカはこの前の日本の発言を覚えていた。
『ぜ、是非……機会があれば……?』
そこで、次日本が来た時のために、基、日本に褒めてもらうために、家中をピカピカにしたのであった。
「あ、そういやTシャツ貸したまんまだったな。」
あの夜は本当に理性がはち切れそうになった。朝も堪えるのにかなり苦労したものだ。
「まあいいか!」
アメリカは手早く身支度を整えると、玄関のドアを開け放って外へと踏み出した。
「お、Japan! How are you?(調子はどうだ?)」
「え、あ、あいむふぁいんせんきゅー…?」
たどたどしい日本の英語にもアメリカは白い歯を見せて笑った。
「HAHA!日本語で大丈夫だぜ!」
「あ、ありがとうございます……守護者として英語は話せるようにしたいのですが……難しく……」
「日本語と英語は文の並びが違うから日本がそう感じるのも無理ないアル。……まあ、中国語もそうアルけどな……」
そこに入ってきたのは中国。彼もまた、此度の会議に参加する守護者の一人であった。
「中国さん!にーはおです!」
「你好、日本……発音、もう少し何とかするよろし……」
「ですよね……」
「おいコミーチャイナ!Japanが落ち込んだだろうが!」
「指摘しないと変わらないアルよ!」
中国の一言にアメリカが震える。
「oh……China、そんなまともなこと言えたんだな……?I was scared……(ビビったぜ……)」
「嘈杂(うるさいアル)!我をお前と一緒にすんじゃないアル!」
「あ、あの……」
日本が声を掛けると二人が同時に此方を向いた。
若干タジタジになりながらも日本は自分の左腕に巻かれている腕時計を指し示した。
「もう、時間が……」
その後、猛ダッシュで会議室へ向かう三人の姿があったそうな。
「__________で、ここは_________」
(やばい……)
一昨日、昨日と徹夜したせいで頭がぼんやりしている。疲労感もひとしおだし、軽く眩暈もしている。
それに、これは……
(貧血か……)
今までの症状を総合すると、そうなった。
(でも、まだ何とかなってるし大丈夫……)
「では______日本さん」
「はい」
呼ばれて立ち上がった瞬間、立ち眩みに襲われる。
「ッ!」
次いで視界がチカチカと点滅し始め、目の前も見えない。
「っぁ……」
「どうかしたのですか?」
イギリスが声を掛けてくれるが、返事をする余裕もない。
「え、親父が気を遣ってる?他国に?!」
そんなアメリカの声が聞こえた気がしたが、それを脳で理解することもままならない。
(あ、これ、ダメなやつだ________)
足の力が抜け、倒れるような感覚がした。机に頭をぶつけたりはしていないらしいので、そこは助かったというべきか。
思考もまとまらないまま、日本の意識は途絶えた。
「Japan?!」
立ち上がった日本が急に倒れるのを受け止めたのはアメリカ。
青白い顔で絶え絶えに息をしている日本を見て、アメリカは迷わずこう叫んだ。
「Call a doctor(医者を呼べ)!」
「貧血と過労ですね。目の下に隈も出来ていますし、恐らく連日徹夜でもなさったんじゃないでしょうか。」
「Japan……!」
あれだけ無理をするなと日頃から言っているのに、自分の与り知らぬところで体を削っている日本を知り、信じられない気持ちだった。と同時に、それに気づけなかった自分に腹が立った。
「この調子だと治ってもまた無理をするでしょうし……暫くは誰かが見張り…見守っておいてあげてください」
そう言って医者は退出して行った。
「アメリカ、面倒見てやったらどうアル?」
最初に口を開いたのは中国。
「この前、日本を寝かしつけられたらしいアルな。」
「何故Chinaがそれを知っている?」
「お前の父親からの情報アルよ」
中国が肩をすくめてイギリスの方を流し見る。イギリスは目を逸らした。
「親父!!」
「まあ、それはそれとして、クソ息子に任せた方がよさそうですね」
「クソは余計だ!!」
言い合いが続いたのち、特に反対意見もなかったのでアメリカが日本を暫くの間泊めることになった。
水の中にいるようなふわふわとした感覚がする。
(あれ……私……)
遠くで誰かの声が聞こえる。
「……n!」
その声は段々近づいてきて……
「Japan!」
自分を呼んでいるのだと気づいた瞬間、水から引き上げられるように一気に日本の意識は覚醒した。
「っ……?!」
起き上がろうとするが身体が重くて伏したままになってしまった。
「Are you ok(大丈夫か?調子は)?!」
「あ……ぅ」
声が掠れて上手く出ない。それを悟ったのか、アメリカは優しく日本の額を撫でた。
「Ok. You don’t have to force yourself to talk.(分かった。無理に話さなくていい)」
「あ…りがと、ござい、ます……」
その姿が、幼い頃に見た父と重なる。
病弱だったせいで、殆ど布団の中にいた。
熱を出した私の額を撫でてくれる父様の手はひんやりとしていて気持ちが良かった。
『安心しなさい、直ぐに良くなるからねぇ……ゆっくりお休み……』
そう言って子守唄を歌ってくれた思い出がある。
『夕焼け小焼けの赤とんぼ…負われてみたのはいつの日か…』
「Please take a good rest. good night.(ゆっくり休んでくれ。おやすみ。)」
目を閉じると、懐かしいあの歌が聞こえて来た。
「ゆうや~けこやけ~のあかと~ん~ぼ……」
金色の稲穂の上を赤とんぼがすいと飛ぶ。
日は傾いて空は優しい橙に染まっている。
子守娘が眠る子供を抱きかかえて家路を辿る……
(ずっと、こんな風景を、守りたかったんだっけ……)
満ち足りて日本は意識を手放した。
頭の奥では、ずっと、「赤とんぼ」が聞こえていた。
「……日本」
すやすやと眠っている日本は、子供のように見える。
しかし、長い苦労の証は濃く目の下についている。いや、目の下だけではない。全体的に、やつれたような感じがしていた。
それでも、今目の前には、幸せそうな顔で夢の世界にいる愛しい人がいた。
寝顔は、今も昔も変わらない。
『ねれないの?』
『いや……そんなことはない……』
日本の土地に原子爆弾を落としたその日。
戦争を終わらせるためとはいえ、とんでもないことをしてしまったと罪悪感で手が震えていた俺の様子を見に来てくれたのが、連合国側に保護されていた、まだ幼い日本だった。
『ほら、そこに横になって!』
妙に張り切った様子で俺を布団に寝かせ、母親然としていたのを覚えている。
『こもりうた、うたってあげる』
そう言って、俺の隣に座って、幼い綺麗な声でこの歌を歌ってくれたのだった。
『ゆうや~けこやけ~のあかと~ん~ぼ~…おわれ~てみたの~は~いつの~ひ~か~……♪』
聞いているうちに、日本の景色が浮かび上がる気がして、思い出した。
自分は、もう一度この幸せを取り戻すためにここに立っているのだと。
そのためにも。新しい平和な世界にするためにも、逃げてはならないのだと。
「……今日は、月が綺麗だといいな」
カーテンの隙間から覗く空は茜色に染まっている。
アメリカは、そっと日本を抱き寄せ、頭を撫でながら、自身も目を閉じた。
アメリカは、油断していた。
男である日本を好きになるようなもの好きなんて自分くらいしかいないだろうと。
想いを寄せる人を横からかっさらうような輩はいないだろうと……
「ふふ……ようやく日本が我のものになるアルね……♥」
「ん……」
日本の意識は緩やかに浮上した。
しかし、見ていた景色が今までと全く違うことに驚きを覚え、結果的に飛び起きた。
と同時に、金属の擦れ合う音が響く。
「え……?!」
音のした手元を見ると、まるで誂えたかのようにぴったりな銀の腕輪が両の腕に嵌っていて、鎖で繋がれていた。
よく見ると足首にも同じものが嵌まっていて、鎖の長さに余裕はあるが到底ここからは逃げ出せないようなものだった。
「起きたアルね、日本……♥」
自分の状況を確認していると、ドアの開く音がして入ってきたのは中国。会議の時とは一変した異様な雰囲気を漂わせていた。
「中国さんっ?!これは一体……?」
日本が質問するが中国は答えず、黙って日本に近付いてくる。
その顔に恍惚とした表情が浮かんでいるのを見て、日本はゾッとした。
(一体、何をする気で……?)
「嗚呼、危なかったアル……あと少しで日本があのクソリカに奪われるところだったアルね……」
呆然としている日本を抱き締めて無言で頬ずりをしてくる。
「~♥」
(いや、本当に何してるの……?)
しかも少しずつ日本に密着してきているらしい。ベッドのスプリングが軋んでギシギシと音を立てていた。
「ちゅ、中国さん……?」
中国の背中や肩を叩いてみるが返事はない。
「あの……聞こえてますか?……え、うわっ!?」
今度はいきなり押し倒された。
中国は日本の腹の辺りに跨ってネクタイを解き始める。
「ちょっと!やめてくださいよ!」
慌てて日本は後ずさるが、大した距離は稼げなかった。
「日本……なんでそんなに我を拒絶するアル?我はこんなに日本のことが大好きで、クソリカからも守ってあげているアルよ?」
心から困惑したような表情を浮かべる中国。しかし、次の瞬間には先程の笑みを浮かべていた。
「ああ、緊張しているアルか!日本はツンデレアルねぇ……そんなに怯えなくても、我がしっかりリードしてやるアル!」
勝手に自己完結された挙句、全く異なる解釈に日本は唖然とする。
(ヤンデレだ……にゃぽん、これが俗に言う”ヤンデレ”なんだな?!)
なんでこんなものに巻き込まれるのかと泣きたい気持ちで一杯の日本。
しかし相手は超大国、中国。ここで無理に抵抗すれば自国にも影響が及ぶやも知れぬ。
それを考えると、容易に抵抗はできなかった。
(ここが何処かも分からないし……)
と、そこで日本にもっともな疑問が浮かぶ。
「あの……私はいつここに……?」
そう、日本はアメリカの家で眠りについたはずなのだ。いつからここに居たのか。
「ここは我のもう一つの家アルよ♪…こっそりクソリカの家から直接ここに繋がる通路を造って、油断している隙に日本を助けられたアル!……あ、もう通路は埋めたから心配はいらないアルよ♥」
滔々と自身の策略について語って聞かせる中国。聞けば、アメリカに日本を介抱するよう進言するところから作戦だったという。裏をかくような何とも狡猾な手段に日本は身震いした。
「そうそう、ついでにあのアメカスに一発お見舞いしてやったアル!……銃弾でね♥」
「___________?!」
日本の体から血の気が引いた。
(まさか、アメリカさんを……?!)
中国がそんなことをするなんて、考えてもみなかった。しかも、これは守護者法に違反する。
守護者は審判の付いた決闘でしか相手を攻撃してはならないはずだ。違反すれば相当な罰を受ける……
(とにかく、安否を確認して病院に運ばないと……!)
ベッドから降りようとした日本は、鎖の音で我に返る。
「あ………」
「逃げようとするなんて、日本は悪い子アルね……?」
眼前には最早正気を失った中国の顔があった。
「やっぱり鎖で繋いでおいてよかったアル。日本はお人好しアルからね……」
腹の辺りに跨られ、退路を塞がれる。
「ふふ……♥悪い子には、お仕置き、アルね?」
「ひっ……や、やめてください……」
これから何が行われるか、日頃見ている流れから想像できてしまった日本はカタカタと体を震わせる。
「日本……我爱你(愛してるアル)……♥」
(っ……武力行使も止む無しか……?!)
日本が決断しかけたその時。
轟音と共にドアが破壊されていた。
「Japan!!」
そこにいたのは______
「アメリカさん……!」
「チッ……」
銃で撃たれたはずの、アメリカであった。
「……やはり、殺せていなかったアルか……」
「いきなり撃たれるとは思ってもみなかったよ……日頃から防弾チョッキを着ていたお陰だな」
「心臓を撃ったのが失敗だったアルね……脳天にしておけばよかったアル」
(ってことは、アメリカさん、無傷……?)
「…でも、無傷ってわけじゃないみたいアルね?」
「はぁ……目敏くて困るよ、China……」
アメリカは肩を竦めて乾いた笑いを見せる。
中国はずっと動かずだらりと垂れ下がっているアメリカの左腕を見つめ、目を細めた。
「……まあ、丁度いいアル。ここで貴様を殺したら、日本にも、頼れるのが我だけだとよく分かってもらえるだろうアルからね!」
俊敏な動きでベッドから飛び降りた中国は、袖から一本の棒を取り出し、手にした。
「そ、それ……!」
日本が目を丸くする。アメリカは分かっていないようだったが、日本はその正体が分かったようだ。
「日本には分かるアルね……これは、如意棒アルよ」
「Huh?なんだそれ」
中国は二ッと口角を上げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「これは……」
伸縮自在の鉄の塊が、アメリカに迫る。
「こうやって使うアルよ!!」
辛くも避けたアメリカだったが、掠っただけの壁にヒビが入っているのを見て舌打ちをする。
(なんだこれ……俺たちの使う剣より重いんじゃないか?)
思考する間もなく追撃が繰り出される。
「ッ!」
紙一重で避けているアメリカだったが、掠ったことによる傷は容赦なくアメリカを蝕んでいた。
「アメリカさん!」
日本の悲痛な声が中国の背後から響いてくる。
(クソ……まさかChinaがここまで強かったとは…..)
第二次世界大戦後、守護者法が施行されてからは戦う必要もなかったため、体力維持のための簡単な運動のみを行う国が殆どとなった。アメリカも例に漏れず、実践訓練など久しくやっていなかった。
「どうするアル?逃げなかったら楽に殺してやるアルよ…..?」
それに比べ、中国は明らかに戦闘技術が高い。おそらく各国が戦闘訓練を止めてからも、相当な時間をそれに費やしてきたのだろう。
「HAHA……面白い冗談だな、China?」
アメリカは既に満身創痍。
(打開策はないのか……?!)
「まあ、今まで攻撃もしてこなかったアルし、これで脳天ブチ抜くくらいにしといてやるアル」
如意棒の先端がアメリカの額に当たる。
「っ……」
「再见(さようなら)、美国(クソリカ)」
中国が如意棒を振りかぶったその時。
「止めて下さい!!」
振りかぶった如意棒を掴んで止める、日本の姿があった。
「……何するアル、日本」
「先程から止めて下さいと何度もっ、申し上げていたでしょうがっ……!」
中国の力で振り下ろされそうになっている如意棒を必死で止める日本。
しかし、その努力も甲斐なく、如意棒は日本の手から離れてしまった。
「あ……!」
「ふぅ……これは、バカリカを殺したら徹底的にお仕置きアルねぇ?日本……」
中国の言葉に応じることなく黙って俯いている日本。
「はぁ、これは使いたくなかったのですが……止むを得ない、ですよね……」
そんなことを呟いたが、中国には聞こえていない様子で、再度アメリカに狙いを定めていた。
「今度こそ、終わりアルね。」
避けようとするアメリカに詰め寄り、至近距離で如意棒を振り下ろす________
「今すぐそれを降ろしてください。さもなければ斬りますよ」
はずだった。
「……一体、何の真似アル……?冗談きついアルよ、日本……?」
首筋に当たる、ぞっとするほど冷酷な金属の感触さえなければ。
それは、カーテンの隙間から差し込む僅かな月明かりを反射して鈍く銀に光っていた。
それを握る真白な腕は、紛れもなく自分が愛してやまない彼のもの。
「さて、守護者法は御存じですね?」
日本は凪いだ声でゆっくりと噛んで含めるように話し始めた。
「この法律は幼い守護者でも確実に理解できるよう、一つ一つを非常に簡潔にまとめています。」
アメリカの背筋が粟立った。
(……キレてるな、Japan……)
「第二条『守護者は決闘を除き、他の守護者を傷つけてはならない。』
……さて、守護者法の中で最も重要視されている第二条……当然、御存じですよね?」
中国は後ろを振り向いて凍り付いた。
日本の目は、いつもと変わらぬ優しい弧を描いていたが、全く笑っていない。
見えない何かに射抜かれた様に感じ、中国は反射的に胸元を押さえた。
「お答え下さい、”中華人民共和国”殿」
(…wow)
日本が近しい相手に対してフルネームを使用するのはごく僅かだ。
それも、大抵は、公的な場である、という理由。
私的な場で、初対面でもないのにフルネーム呼びをする、その意味……
「………..ッ!」
「如何なさいました?」
日本の眼光が鋭くなる。
「口が利けないわけでは御座いませんよね?
…先程まで、大した詭弁でしたものね?」
日本による容赦ない口撃により、中国は物理的には傷を負っていないのにも関わらず満身創痍。
「………し、知っている、アル……」
どう足掻いても意味がないと悟った中国は恐る恐る答えた。
「そうですか……」
日本は目を伏せた。その儚げな姿に、中国は一瞬どきりとする。
しかし、それは、直ぐに、深い絶望へと変わった。
「では、取り決め通り、守護者裁判に出頭して頂きましょうか。」
「なっ……」
守護者裁判は、二度目の世界大戦の後、枢軸国を裁く時に使われたきり、開かれていない。
そもそも取り決められたのも二度の世界大戦の後だ。
「まっ、待つアル、日本!日本は我を……」
「”日本”?」
想像より低い声に、中国の喉からヒュッと音が鳴る。
「そんなに親しみを込めて呼んで頂かなくて結構です、中華人民共和国殿。…ここはどうぞ、”日本国”と。
敬称はつけていただかなくても結構ですがね。」
淡々と言い放つ日本の目には、もう中国など映ってはいない。
「今から国連さんを呼びますから、この期に及んで抵抗などなさらないように。」
中国は動く気力も起きなかった。
まさか、自分が守ろうと息巻いていた人物その人にとどめを刺されるとは。
そんな事より……
(あれは全部、嘘だったアルか……?)
中国は歴代の守護者たちの記憶を引き継いでいる。
その記憶で見る日本は、中国を好き、文化を学ぼうと健気に努力している姿ばかりだった。
その中には、明らかに中国に好意を抱いているものもあった。
(全部、演技だったアルか……?)
それだけははっきりさせておきたくて、中国は確実に返答を貰えるように呼び掛けた。
「……日本、国」
「どうされました?」
「昔の姿は全部……偽りだったアルか……?」
「………」
日本はその問いに、僅かながら憐憫の思いを抱く。
中国は代変わりするたびに先代の記憶を受け継ぐが、他の国はそうではない。
つまり、中国の記憶の中にいた日本と、今の日本は全くの別人である。
きっと、それに気付くことが出来なかったのが、中国の最大の失態なのであろう。
「…それは、旧国街にいる私の先祖に確認してみないと、分かりませんね。」
先程とは打って変わった、花が綻ぶような優しい声音。
「……そう、アルか……」
漸く中国は悟った。自分の愚かな勘違いを。
しかしながら、もう遅い話。
「失礼します。日本国、連行するのはこちらの中華人民共和国でよろしいですね?」
「…はい、お願いします。」
(嗚呼、我は、大変な過ちを…………………でも)
「失敗は成功の母……」
「…?どうか、しましたか、中華人民共和国。」
「………いや、何でもないアル」
どうせ、何百年と生きるのだ。どこに飛ばされても結局、この記憶は次に引き継がれる。死ぬに死ねないだろうし……
(そろそろ隠居しても、良いアルよね……)
月を仰ぎ見て、中国は静かに目を閉じた。
「……あの、国連さん」
「?」
「中国さんは……どうなりますか?」
「彼か……」
国連は少しの間、考え込んだ後、顔を上げた。
「聴取の態度にもよるけれど、恐らくは…異界送りになると思う。」
「そうですか……」
異界とは、大罪を犯した守護者が送られる危険な場所である。
この世とはどこか一線を画していて、人ならざる者が辺りを闊歩しているという噂だ。
過去に送られたのは、大英帝国とソビエト連邦、ナチスドイツの三人のみ。しかも、その内のソビエト連邦とナチスドイツに関しては、江戸の封印が解けるのと同じタイミングでこの世に戻ることを許されている。戻る際に相当ないざこざがあったのはまた別の話だ。
彼ら曰く、「刺激さえしなければ問題はない」とのことだったが……
(自分でやったこととはいえ、心配になる……)
「安心しなよ、彼も自衛くらいはできるはずだ。」
「……はい」
「そんな事より、アメリカ合衆国、放っておいて大丈夫なのかい?」
「そうでした!私としたことが……!」
急に慌てふためく日本。振り向くがそこにアメリカはいなかった。
「えっ?!どこ行ったんでしょう……?!怪我人なのに!」
「さあ、どこだろうね?それじゃ、僕は失礼するよ」
国連はおどけた様子でクリップボードを胸に抱え、小声で「頑張って」と訳の分からないことを言って立ち去った。
「えっと、取り敢えずアメリカさんの応急処置に使えるものを……」
「その必要はないぜ、Japan」
急に後ろから抱き締められ、振り返るとそこにいるのはアメリカであった。
「アメリカさん!どこに行ってたんですか?!」
「ずっとこの部屋にいたぞ?」
「え”っ」
気がつけなかった日本は顔を赤くする。
「とっ、取り敢えず!」
照れ隠しで日本は大きい声を出した。
「怪我をした箇所見せてください……!簡単な処置なら出来ますから……」
「だから、心配ないって言ってるだろ?怪我なんかしてないからな?」
「そんなはず……」
アメリカは先程まで垂れ下がって動いていなかった腕をぶんぶん振り回して快活に笑った。
「Chinaが何かしてくるのは、Koreaと親父の情報で分かっていたからな!」
日本は唖然としてぐるぐると回転するアメリカの左手を目で追った。
「…..もう、どんでん返し過ぎて訳が分かりません……」
感情の乱高下を繰り返した日本は安堵でその場にへたり込んでしまう。
「おっと、大丈夫か?」
寧ろ撃たれたはずのアメリカの方が元気な有様。
(情けない……)
「すみません……」
日本は手で顔を覆った。
(穴があったら入りたい……!)
「HAHA、まあ気にするなって!」
「気にするのが日本人なんですよ……」
アメリカはため息を吐く日本の肩を叩いた。
「まあ、外の空気でも吸いに行こうぜ!」
アメリカに支えられて立ちあがった日本は、初めてそこにバルコニーと接続されている硝子戸があったことに気が付いた。
今までは厚いカーテンに遮られて確認できなかったのだが、中国の振り回した如意棒の衝撃で破れるなどしたのか、今は白い半透明のレースカーテンが風に吹かれて舞っているのみ。
夜風に嬲られた日本はぶるりと体を震わせる。
それを見咎めたアメリカは黙って自分の羽織っていたジャケットを日本の肩から着せた。
「えっ、え?!」
アメリカの方が冷えてしまうだろうと日本はアメリカにジャケットを返そうとするが、アメリカの手がやんわりとそれを制止する。
「HAHA,安心しろよ、白人の体温は高いんだ。」
そういえば白人の体温は平均が37.0~37.5程だったと思い当たる日本。
(いや、でも……っ!)
ジャケットからは、アメリカの温もりと爽やかな香りがひしひしと伝わってくる。
(恥ずかしいっ……!!)
熱くなる頬を隠そうとジャケットに顔を埋めるものの、鼻を抜けるアメリカの香りを感じてまた顔が熱くなる…という循環に陥っていた。
「………….Japan」
不意に、アメリカが口を開いた。
穏やかな凪いだ声に日本の肩の力が抜ける。
「これは大事な話だから、よく聞いてほしい」
月の光に照らされてアメリカの瞳が輝く。
日本は、深さと煌めきを持ったその瞳に吸い寄せられた。
「____________俺は、日本のことが好きだ」
「Hey, Japan!」
「わっ、もう、急に来ないでくださいよ!びっくりするじゃないですか…..」
その反応が可愛いからやっているのに、気が付かない辺りが本当に可愛らしい。今日もスーツはピシッとアイロンが入っていて綺麗だ。脱がせたくなる。
結果的に、俺たちは恋人になれた。年が明けたら同棲するつもりでもいる。
周りに報告したら、「やっとか」という反応ばかり返ってきた。どうやら、互いの好意に気付いていないのは俺たちだけだったらしい。
まあ、一回あのクソコミーに横取りされたが、両想いだったしハッピーエンドだよな?
それともう一つ。俺は本当に堪え性がないらしい。
「…………今日もシような」
「っ!?……..きょ、今日で何日連続なんですか?!いい加減にしてくださいよ!」
小声で抗議されたが知らないフリをする。因みに、一週間連続だぞ。
「________日本が可愛いのがイケナイんだろう?」
「~~~っ!!」
耳元で囁いたら分かりやすいほどに顔を赤くしていた。俺としては、その顔は俺だけに見せてほしいと思うのだが……まあ、周りは見なかったことにしてくれているし、いいだろう。
そういえば、一つ気になっていたことがあった。距離が近づいたし、ここいらで聞いてみることにしよう。
「ところで、最近、大日本帝国の兄弟二人の姿が見えないんだが、一体どうしたんだ?」
コメント
10件
文才ありすぎるうううううああああああああああ 神です!!ありがとうございます!!😭 最後の意味深なのはなんなんだあああああああああああああ
フォローしますした! 続きすごい気になります!
フォローしました!続き楽しみです!