ジミンside
保健室で休ませてもらっていたら、もうすぐお昼の時間。
「ジミナ〜せっかくだから給食食べてかない?僕自分の分運んでくるからさ、ジミナの教室で一緒に食べようよ!」
「え、いいよ…他のクラスに移動するの、ダメなんじゃないの?」
「先生に言ったら絶対いいって言ってくれるよ。僕聞いてくる!」
「ちょ!待って〜。…特別扱いはやだもん。給食ぐらい1人で食べれるからぁ…。」
すぐにも保健室を飛び出して行こうとしたテヒョンを、僕は慌てて止めた。
テヒョンに甲斐甲斐しく世話してもらって食べてるのを、クラスのみんなに見られるのは気が進まなかった。
「そう?ジミナ本当に大丈夫?じゃあ食べ終わる頃にお薬もってくよ。それならいいでしょう?」
(もうっテヒョンて本当に過保護なんだからぁ…。)
テヒョンは車椅子を押して、僕の教室まで連れて行ってくれた。
教室に入ると、僕の机には給食トレーが置かれてた。みんなもう、食べ始めてる。
テヒョンは鞄から、僕がいつも使ってるスプーンとフォークを取り出した。
「あ!ジミナの好きなプリンがあるよ〜良かったねぇ。」
テヒョンはそう言うと、僕の代わりにプリンの蓋も剥がしてくれた。
それからコップに、持って来たストローもさしてくれて…
「…あとは、大丈夫そ?」
「だいじょぶ…ありがと…」
「じゃあねジミナ、後でお薬持ってくるから。なんか困ったら、隣の子にお願いしな〜。」
テヒョンは多分わざと周りに聞こえるようにそう言うと、教室を出て行ってしまった。
みんなお友達とお喋りしながら食べていて、教室はワイワイガヤガヤ賑やかだった。
机をくっつけて何人かでキャアキャア盛り上がっているグループの、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
…なんだか、僕だけが…離れ小島にいるみたい。
気にしない、気にしない…。
僕は周りを見ないように下を向いて、食べることに集中しようと思った。
僕のトレーの上にあるのは、不自然に柄が太くてくにゅりと曲がったスプーンと、フォーク。
輪っかに手を入れれば持てるようになっていて、手が麻痺している僕でも使えるやつ。
いつも病院食も、これを使って自分で食べてるんだ。
だから、大丈夫。
いつもと、おんなじ…。
…けど僕は内心、周りの目が気になって仕方なかった。
(こんな…いかにも障害者みたいなカトラリー…泣)
こぼさないように、汚さないように、気をつけなくちゃ。
なるべく目立たないように。
みんなと同じように、難なく普通に食べてるみたいに…。
スプーンの輪っかに手を入れて、注意深くごはんをすくう。手はカタカタと震えて、なかなか上手に口に入らなかった。
落ち着いて、落ち着いて…。
おかずには魚の煮物があったんだけど、骨があるから難しいなぁ。
フォークに持ち替えて、身だけを取ろうとしたけれど、なかなかうまくいかない…(汗)
何度も何度もやって苦労して、やっと、ほんの小さな身を口に入れた。
野菜のスープは具が小さくてスプーンですくいやすくて、僕はホッとする。
でもやっぱりこぼしたりして、僕の給食トレーはどんどん汚れていった。
あ、服にも垂らしちゃったぁ(泣)
情けなくって恥ずかしくて、惨めで…。
泣きそうになるのを堪えて、僕は涙目で口の中の食べ物を黙々と咀嚼し、ごっくんと飲み込んだ。
さっきから隣の席の女の子がこちらをチラチラ見ているような気がしたけれど、僕はそれに気づかないふりをしていた。
突然、ガシャーンと、すごい音がして…
あっ!と思った瞬間、僕のスープカップが床に落ちて、中身が辺りに派手に飛び散っていた。
わ…僕が、腕を引っ掛けてしまったんだ…。
クラス中のみんなが、一斉にこちらを振り返る。
あ、あ…やっちゃった…どうしよう……。
僕はサーっと血の気が引いて、固まってしまった。
その時、隣の席の女の子がサッと席から立ち上がったと思うと…
「ジミンくん大丈夫!?熱いのかからなかった?」
タオルで僕の服を拭いてくれた。
僕はびっくりして…
「だいじょぶ…あ、ありがとう…」
小さい声でそう言うのが精一杯だった。
それをきっかけに、周りの子たちが次々に立ち上がって、食器を拾ってくれたり、床を拭いたり…
「ご、ごめんなさい…ありがと…」
周りにペコペコ謝る僕に、みんなは口々に声を掛けてくれた。
「大丈夫だよ〜」
「ジミナ気にしないで!」
あっという間に片づいてみんなが元の席に戻ると、隣の女の子が僕に話しかけてきた。
「ねぇジミン君…手、どうしたの?…ごめんね、さっきから、給食食べるの大変そうだなって…隣だったし、つい気になってしまって…。」
「うん…あのね、入院中に、病気で動かなくなっちゃったの。」
「そっかそっか。大変だったんだね。ジミン君…理科の授業来てなかったでしょ?もしかして…1人で来られなくて困ってた…?」
「あ、うん…そうだよ(汗)僕、前みたいに車椅子、自分で動かせなくなっちゃったんだ…。」
「やっぱそうだったんだ…。ごめんね、私…手伝いたかったのに、何て言ったらいいか分からなくて…迷ってるうちに友達に誘われて、そのまま行ってしまった…。本当に本当にごめんなさい。その後ジミン君が理科室に来ないから、ずっとずっと気になってたんだ。」
「ううん。すぐテヒョンが来てくれたから大丈夫だよ。気にしてくれてありがとね!」
あ、僕…透明人間じゃなかったんだ。
クラスの中に、ちゃんと僕のことを見て、話を聞いてくれる人がいた。
みんなだって僕と同じで、話しかける勇気が無かっただけなんだ。
いつの間にか僕の緊張はほどけていて…
残りの給食の時間、僕はお喋りしながら楽しくごはんを食べることが出来た。
食べ終わった頃、ガラガラッと扉を開けて、テヒョンが入ってきた。
「ジミナ〜食べれた?お薬持って来たよ〜。」
テヒョンは、隣の女の子と笑って喋っていた僕を見て、内心びっくりしたみたい!
「ジミナ、もしあれだったら、保健室行ってお薬飲む?」
テヒョンが気を遣って小声でそう言ってくれた。
「だいじょぶ。ここで飲めるよ。」
「そう?じゃあ用意しちゃうね。」
テヒョンが僕のお薬ポーチから、沢山の錠剤を取り出して開けて行く。
「あれ〜ジミナ、今日ちょっとお薬多いねぇ。外出だからかなぁ?」
「そ、そうかも…(汗)」
テヒョンが錠剤を僕の口に運んで、お水を飲ませてくれた。
ちょっと前だったら、クラスのみんながいるところで沢山の薬を飲むなんてすっごく嫌だったと思う。
だけど、僕はもう、気にしない。
周りは敵じゃないんだ。怖くないんだ。
大丈夫だって、僕は思った。
コメント
5件
以前からお話を楽しませてもらっていて、今更ながら初コメです…(汗) ジミンちゃんがテヒョンくん以外の子と話しているのを見て、物凄くほっとしました…。 こんな暖かいお話に出会えて嬉しいです…!!
更新ありがとうございます。 気にしてくれるクラスの子がいて、本当に良かった。なんだか、動画みてるみたいに、どんどん様子が想像できてしまうんですよね。 ヒヨコさん、やっぱりすごいです🥺