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8月5日
あまりの暑さに蝉が叫びを上げる街の中、両手不自由な少女は、母親と映画館からの道を歩いていた。映画の余韻に浸るこの時間が、少女は好きだった。母親も同じなのだろう。と少女は子供ながらに確信があった。映画を観終わってから、家までの帰る道の途中、頭の中で二周目を上映する。そうして家に帰るまで互いに無言で、家に帰って生き返るような冷たさのジュースを飲み、感想を語り合う。何よりも幸せな時間だった。他の全てがどうでも良くなるような、余計な雑念など微塵もない幸せな時間。その時間を楽しみに二周目を観ている少女の横を耳のない男が通り過ぎた。映画に夢中になっていた少女は、その存在すらも認識できていなかった。家に着くなり少女は母親のポケットから鍵を出し、勢いよくドアを開けて麦茶を一杯、乾いた体に流し込んだ。玄関に立ち尽くす母親に少女は疑問符いっぱいに尋ねた。「今日の夕飯はなに?」