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8月6日
照りつける太陽の眩しさから地面を見つめる人しかいない街で、唯一少女は空を見上げていた。少女は目が見えなかった。縁側で太陽を顔いっぱいに浴びながら鼻歌を口ずさむ。いつからかルーティーンとなったこの僅かな幸せを、少女は大切にしていた。やがて微かな足音が聞こえてきた。人が来たのだ。少女は人が来ると決まって鼻歌を中止していた。聞かれることに僅かな恥ずかしさがあったのだ。そうして人が去っていくと同時にまた口ずさむ。少女のルーティーンには、たとえ糸通しを使っても、糸を通せないほどに穴がなかった。完璧なルーティーンだった。例に漏れず少女は鼻歌をやめた。足音が消えるのを待つ。やがて足音が消えた頃、縁側に少女の姿はなかった。それから少女が鼻歌を口ずさむことは唯の一度もなかった。空を見上げる人間はもうこの街にはいない。ルーティーンは音もなく崩れ去った。