テラーノベル
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(さあ……)
胸の奥が、静かに高鳴る。
待つつもりはない。
運に任せる気もない。
これは、ダフネ自身が用意したきっかけだ。
しばらくして、門の向こうがざわついた。
使用人が慌ただしく行き来し、誰かに声を掛けている様子が見える。
やがて――。
淡い色のドレスを身にまとった可憐な少女が、屋敷の中から姿を現した。
まだ準備の途中なのだろう。
装いは整って見えるのに、どこか落ち着かない。
(……来た)
まんまとお目当てのリリアンナがおびき出されてくれたことに、思わず口元が緩みそうになる。それをダフネは懸命にこらえた。
だが――。
「――っ!」
リリアンナの姿がはっきりと見えるようになった瞬間、思わず漏れそうになった声を、懸命に堪える羽目になった。
(あれが、本当にあの小汚かったリリアンナお義姉さまだって言うの?)
ここで感嘆の声を上げてしまっては、〝負けた〟気がして悔しいではないか。
ダフネの記憶の中のリリアンナはもっと痩せていて、貧相な体つきをしたガリガリの少女だった。
だが、今や遠目に見ても分かる。
肌艶のよい薔薇色の頬。
ウェーブが掛かっていても、綺麗に櫛けずられてハーフアップに結い上げられた暗紅色の赤毛は、陽光を受けてきらきらと輝いて見えた。
今だってとても綺麗に見えるのに、髪に装飾品が何ひとつ飾られていないことから判ずるに、まだ髪結いの途中らしい。
(完成したら……どれだけ煌びやかになるの!?)
それが、何とも言えず腹立たしい。
エメラルドが嵌め込まれたような、マラカイトグリーンの瞳が、きょろきょろとあたりを見回している。
イスグラン帝国人特有のストレートの黒髪と赤目のほうが断然美しいと思っていたのに、その気持ちがぐらつきそうになっているのを感じて、思わず花かごを持つ手に力がこもった。
装いも、悔しいけれど今ダフネが身にまとっているドレスよりはるかに上等のものだと分かる。
淡い象牙色を基調としたそのドレスは、胸元と袖口に細やかな刺繍が施されているらしく、リリアンナが動くたびに柔らかな光を含んで揺れた。
派手さはないのに、生地の質と仕立ての良さだけで、誰の目にも彼女こそが今日の〝主役〟だと一目で分かってしまう。
装飾品を身に着ける前の完成前でさえこれほどなのだから、――王城に出向く頃にはどれほど美しく着飾らされているだろう。
その風格は、間違いなくウールウォード伯爵令嬢で、皆に囲われ、守られ、飾り立てられている貴族令嬢そのものだ。
その足が、今――、花屋に導かれてダフネのほうへ向かっている。
その姿を見ながら、転べばいいのに……と思ってしまったダフネだ。
でも、そう都合よくいくはずがない。
確かな足取りでこちらへ向かってくるリリアンナを見て、ダフネは舌打ちしたくなるのを懸命に我慢した。
そんなことをしてしまえば、敗北を受け入れたようで悔しいからだ。
ダフネは小さく吐息を落とすと、背筋を伸ばして気持ちを切り替えた。そうして、貴族然とした、美しい微笑みを整える。
これから交わす言葉が、彼女の心に確かな影を落とす。そう信じていなければ、今すぐ背を向けてしまいそうだった――。
コメント
2件
何企んでるの!?
まあ、そうだろうけど😔