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不快な湿り気を帯びた夜風が、頬を撫でた。
「……う、うう……。頭、痛い……」
胃の奥からせり上がってくる吐き気と、ぐわんぐわんと波打つ頭痛。
ここはどこ? 会社の飲み会で、レモンサワーを飲みすぎたのは覚えている。でも、どうして私は外にいるの?
焦点の合わない視界に飛び込んできたのは、どぎついピンクや紫のネオン。等間隔で並ぶ、ラブホテルの看板。
私は、誰かの肩に担がれるようにして、その一軒の自動ドアを潜ろうとしていた。
隣を見ると、営業部でも手癖の悪さで有名な木島が、獲物を仕留めた動物のような卑しい笑みを浮かべていた。
(これは……やばい!!)
脳内に警報が鳴り響く。意識に靄をかけていたアルコールが恐怖によって急速に晴れていく。
「……待って。離して。私、帰ります」
呂律はまだ怪しいけれど、拒絶の意志ははっきり示さないと。私は彼の腕をすり抜けようと身をよじる。
けれど、さっきまでの「親切な同僚のふり」をかなぐり捨てた木島の指が、私の手首をぎゅっと掴んだ。
「今さら清純ぶっちゃってさ。何言ってんの。あんた、見た目とは違ってエロ女なんだろ。前に忘年会でぶっちちゃけてたらしいじゃん」
「……いいから、中入ってゆっくりしようよ。オタクの春川より経験豊富な俺の方が、何倍も気持ちよくしてあげるからさ」
気持ち悪くギラついた木島の目が怖い。
陽一さんに選ばれなかったことが悲しくてヤケ酒したけれど、こんなのは、私の望んだ結末じゃない。
私は、大好きな人とだけ、触れ合いたいのに。
「助けて、陽一さん……」
……あぁ、でも。陽一さんは今頃、妊娠中の彼女さんのそばにいるんだよね。私を助けてくれる人なんて、この世界のどこにもいない。 絶望が、私の視界を暗く染めようとした、その時だった。
「――その汚い手を、彼女から離せ」
空気を切り裂くような、鋭く、そして氷のように冷たい声だった。