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急な魔族の襲来に戸惑いながらも、レオの統率により、その日の闘技場は解散させられた。
結果としては、『リーダーである風紀委員長 カナリアが洗脳されていた』ことにより、無効試合となった。
生徒が粗方帰宅した後、魔族 セノ=リュークと交戦した、DIVERSITV、KINGS、風紀委員、そして、ソル率いるSHOWTIMEが自然と残っていた。
「流石は、王族のレオ様、ルーク様、リオン様、そして風紀委員の皆さんがいると、撤収も楽で助かりますね」
ニコッと笑うと、ソルは全員に向き合った。
「貴様、魔族やカナリアの件、どこで知った……? 私は王家の跡取りとして、貴族院の話やカナリアの最近の不穏な変化などを聞き、その上で戦闘を踏まえてようやく魔族の可能性に辿り着いた…………」
微笑むソルに向け、レオは睨むように言葉を返す。
「アハハ、険悪になるのはやめましょう。そうですね、我々は確かに、隠し種の多い、まだまだ公に晒していない魔法を数多く持っていますが…………疑惑を晴らす為に、ひとつだけお教えします」
そう言いながら、ソルは手を上空に仰ぐと、眩しい光が手のひらに小さく集められた。
「それは……魔法なのか……?」
「これは、“光魔法” の欠片です。当然、僕には光魔法なんて扱うことは出来ませんが、聖職者である母、ミネルヴァ・アトランジェの祈祷に幼い頃より参列し続け、僕にも少しだけ “光” を集めることが出来るようになりました」
未だ不審な目を向けるレオに、ソルは言及する。
「光魔法は、魔族を滅ぼせる唯一の属性魔法。しかし、残念ながら長年聖職者を続けている者でも、長寿族のエルフでも、はたまた、異世界からの降臨者たちでも、光魔法をしっかり扱える者は現れなかった。だから、その存在は公にはされていません。しかし、欠片でもこのように扱うことができれば、魔族がいるかいないかの判別くらいは出来た、と言うわけです」
「貴様の母が、現国内最強パーティの聖職者、ミネルヴァ・アトランジェであり、その影響で光魔法が多少扱えた為、魔族の存在を知った。分が悪い…………いや、貴様らは、『本来の力をまだ隠したかったから棄権した』だろ……?」
ソルは光を消し、薄暗い影でニタリと笑う。
「その通りですよ、聡明な王子様……。我々は、三年のこの公式戦まで、最強パーティと言われながらも、その本来の力を巧妙に隠し、まるで皆さんにショーを見てもらうかのように華麗に戦ってきた……。それも、公式戦で選抜隊に選ばれる為にです……!」
「何故そこまでのことを……?」
レオの汗が滲む質問に、ソルの笑みは消えた。
「当たり前じゃないですか……。魔族を……一人として余すことなく殺す為ですよ…………」
その眼に映るのは憎悪か、SHOWTIMEの全員の目付きが変わっていた。
「レオ様は、その魔法の使えない彼と何やら競っているご様子ですが、炎魔剣と強力な洗脳魔法を使える風紀委員も含め全てを蹴散らし、貴族院のみの我々が、公式戦では頂点を勝ち取ります。その時には、我々の全ての力をお見せしましょう……。お忘れなきように……」
そう言うと、颯爽とソルたちは去って行った。
ソルたちが立ち去ってすぐに、グラム、ファイ、リゲル、シャマの四人は、突如として膝から崩れ落ちた。
「ど、どうした!?」
ヒノトの咄嗟な声掛けに、グラムは苦い顔を浮かべながらも応えた。
「あの四人の気力に当てられた……。恐らく、貴族院でも上位の魔力がなければ耐えられないだろう……」
カナリアに支えられながら、シャマ・グレアも「貴族ながら不甲斐ないです……」と声を漏らしていた。
しかし、そうなると問題は……
「どうして……ヒノトくんは何ともないんだい……?」
「あ、ああ……。理屈が貴族以上の魔力なら……俺も倒れても仕方ないのか……。なんでだろ……」
そこに、レオが割って入る。
「認めたくはないが、貴様の父は現国王最強パーティの一角だろう。それに、魔族との戦闘もした。魔力だけが全てと言うわけではない。あれ程の気迫に耐え得るだけの底力が備わっていると言う話だ」
そして、ファイを抱えながら、レオたちも背を向ける。
「ふん、ソルに言われるまでもない。私は、愚民の処罰だけではなく、一国の王の跡取りとして、立ち塞がる全ての相手を蹴散らし、全ての上に君臨するまでだ」
そう言いながら、ヒノトとリゲルを見遣る。
「魔族がたまたま雷シールドで、私は加勢できなかっただけで、決して自惚れるなよ。風紀委員よりも、貴様ら愚民よりも、我々の方が遥かに強い」
そして、レオたちもその場を後にした。
「相変わらず口の減らねぇ奴だなあ。まあ、実力があるから何も言えねぇんだけど…………。でさ、リゲルはどうすんの? そのまま風紀委員に残んの?」
公式戦前、最後の難問である。
カナリアは、自分の行いのせいで魔族を招いてしまった自責の念から何も言えないでいたが、事実としてリゲルに洗脳を掛けて利用していたことに違いはない。
少しとは言え、自らの力で炎魔剣を扱えるようになったリゲルが、このまま風紀委員に居続ける理由はなかった。
「君が決めるんだ……。僕は確かに、理想を語り、君を手足のように使ったことに間違いはない…………」
カナリアの言葉に、リゲルは俯く。
そんなリゲルの前に、リリムは腰に手を当てて出張る。
「な〜〜〜に、しょぼくれてんのよ!!」
「リリム……?」
「ただヒノトに着いてきただけかも知れない……。それでも、アンタだって私を助けようと、王城にまで乗り込んで来てくれた勇気のある男なんでしょ!?」
その言葉に、ようやく立てたグラムも並ぶ。
「俺もだ。ヒノトに誘われたから、ヒノトのパーティに参加することを決めたが、それでも、ヒノトと同じように、魔族みたいだと恐れず、俺のことを友人として、変わらずに接してくれた」
「僕もだよ、リゲルくん。カナリアのこともあるが、魔族討伐の際、君はレオの剣から僕を守ってくれた。君への恩義を忘れたことはない」
そして、リリムは強引に涙が溢れるリゲルの顔を掴み、自分たちに強引に向き合わせた。
「ヒノトに着いて行っただけ……なんて言わせない。アンタは、アンタの意志で、私たちみんなのことを守ってくれたこと、忘れないで!! 私たちDIVERSITYは、全員アンタに借りがあんのよ!!」
そんなリリムの顔にも、涙が溢れていた。
「ヒノト…………俺…………本当は…………」
ヒノトは、何も言わずに見つめ続ける。
「ヒノトに学寮の前で声を掛けたのも、馬車で来た奴は貴族院の出じゃないって分かってたから、平民の奴と友好関係を築いて、この炎魔剣を使わずに、平穏に過ごせる為の隠れ蓑にしようと思ってたんだ……」
「おう」
「ヒノトが、勇者になるって言うたびに、俺も幼い頃に憧れた格好いい勇者のことを思い出して……俺にも何か出来るんじゃないかって思ったりして……でも俺には魔族の力があるからそんなことは無理だって分かってるのに、どっち付かずでヒノトと離れることができなかった……」
「おう」
「そんな俺でも……これから先……戦って……」
「いいに決まってる!!」
そして、ヒノトは剣先をリゲルに向けた。
「俺は、お前にも負けねぇ…………! リゲル……!!」
「ヒノト…………」
そのまま、ヒノトたちは何も言わず、去って行った。
「カナリア先輩…………」
「あ、あぁ…………」
「僕を……風紀委員に参加させてください」
リゲルの眼は、涙の中で、紅く輝いていた。