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挨拶回りで二手に別れたミンドリー、さぶ郎、ぺいん。
ぺいんは配達用のバイクで救急隊の本拠地である病院にやって来た。
メインロビーては何人かの救急隊員が談笑しており、その輪に向けてぺいんは話しかけた。
「こんにちはー」
「はーい。どうされましたか?」
「あの、昨日移住して来て、今日この後に中華料理店をオープンするので挨拶回りできました」
「あらあら。わざわざご丁寧にありがとうございます」
「僕、伊藤ぺいんと言います。怪我とかしたらこちらにお世話になると思いますので、よろしくお願いします」
しばらく店のメニューや街の話をしていると、入口から一人の救急隊員がやってきた。
「院長ー。患者さん?お客さん?」
聞いた事があるような声にぺいんが振り返ると、思いがけない人物がそこにいた。
「え?ズズじゃん?こんなとこで何してんの?」
「は?ぺいん?いや、それこっちのセリフな?お前こそなんでおんの?」
「昨日移住してきて、この後ミンドリーとさぶ郎とミンミンボウを開くんだよ。ズズは?」
「あー。話すと長くなるからこっち来てくんない?」
ズズに促され、ぺいんは病院横の駐車場の隅に移動した。ズズから「小声でな」と言われ、小さな声で会話が始まった。
「で、ズズはなんでいるの?」
「まぁ、ぺいんには話してもええか」
そう言うと、ズズはボソボソと身の上話を始めた。
「俺さ、本性としてはお笑い芸人なのよ。あの街でも、街のみんなに笑いを届けようと頑張っていたわけ。だけどな?人付き合いというかしがらみでやりたい事がやれなくてな。俺、この先どうしようかなって」
「あー。お前、GBCだもんな。現場とか捕まってるの見たもん」
「それな。人数足りないからとかヘリがいるとか言われて、頼みこまれると断りきれなくてな」
「まぁ、大型とお笑いは正味、真逆だもんな」
「そう。マックさんが色々理由つけているけど、犯罪する事はお笑いと真逆に感じる訳よ。だから最近シマ取りにも参加してなかったしな」
「なるほどなぁ」
「そんなことしてたら仲間から距離あるように感じてな。もう、訳分からんくなったから頭冷やそ思てこの街に来たんよ」
「あーね」
ズズから一通り話を聞いた後、ぺいんは居住まいを正し、改めてズズに向き合った。
「ズズはこの街で救急隊してるの?」
「そうよ。患者助けるために東奔西走しとるわ」
「救急隊やりながら、ズズのやりたい事やれてる?」
「救助や治療の合間にギャグやってんけど、まぁまぁウケるのよ。患者おらん時はミニライブみたいになるしな」
「楽しい?」
「楽しいのもあるんやけどな。救急隊って人を助ける仕事やんか。治療した後な『ありがとう』って言われんのよ。当たり前のことかもしれんけど、あの街でこういう感謝は貰った事ないのよ」
ズズは一息ついて、さらに続けた。
「それがなぁ、嬉しかったんよ。これ知ったらなぁ。色々思うところはある訳よ」
「………。もう一度聞くけど、ズズはこの街ではやりたい事ができてる?」
「………。まぁな」
「あの街に戻ってもチャレンジしてみる?」
「お前がそれを言う?茨の道やぞ」
「少なくともGBCのサーカスの方とは完全に縁を切らないといけない。周りの目を考えるとカンパニーとの関係も注意しないといけない。さらに犯罪を1ヶ月しないでやっと白市民パス、免許の再取得」
「やっぱ茨の道やん」
ぺいんはさらに続ける。
「確かにそうだけど、ギャングやめた人が白市民パスを取った前例がない訳じゃない」
「………」
「一人でやれって言っている訳じゃない。『伊藤ぺいん』としてできることは限られるかもだけど、相談して?手伝わせてよ」
「………」
しばらく黙り込んでいたズズが、つぶやくような声で話し始めた。
「ぺいんがあの街で慕われてるの、ちょっと分かったわ。最初からぺいんに相談しとけば良かったなぁ」
「もう、誰かに話してみた?」
「………竹井とボイラ」
「あー。それについては共有受けてないし、なんとも言えんわ」
ズズは背伸びを一つするとあらためてぺいんと向き合った。
「話、聞いてくれてありがとな。俺。もうちょい頑張ってみるわ」
「無理すんなよ」
「お礼にこの街の事、俺が感じた範囲で教えたるわ」
「この街は犯罪が多く命が軽い。あと、法を守ろうとしているのは一部の警察と救急隊だけや。法の存在が軽い。半グレもギャングも警察もやりたい放題や。ミンミンボウしかやらんのなら、それが正解や」
ズズと立ち話のつもりが長くなってしまったため、あらためて救急隊にミンミンボウの宣伝と暇の挨拶をし、ぺいんは病院を後にした。
知り合いからはだいぶ濃いめの情報を得た。次の目的地のレギオンとカフェではどんな話が聞けるだろうか。