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最近、トリックスターの戦績が低下していた。なぜ分かるのか?それは彼自身が僕に独り言の様に話してくれたからである。彼を【観戦】してみてもどのやはり儀式でも全滅率はかなり低い、そして一人を処刑するのがやっと。しかし持っているパークは中々良いものばかり。単純に使い方を間違えているのか?それとも彼には合わないパークなのか?と思ったが観ていて気づいた。あれだけナイフ投げが得意と自慢していた彼だったが、今では全てのナイフを使っても生存者には負傷まで持って行けていない。
「何があったんだ?」
偽善者ぶって彼に声を掛けようかと思ったが、そういえばこの霧の森へ来る前に一度ローズビルでずっと溜め息ばかりついている社員に言われたことがある。『見え透いた優しさは返って毒なんだ』…後で上司から聞いたら、彼は重度の鬱状態だったらしく数日後には会社を辞めてしまっていた。もしかしたら、トリックスターも今はそんな状態なのだろうか?確かに今思うと廊下をすれ違う時も猫背気味だし顔色も悪い…。
「うーん、仮にも後輩。先輩が介抱してやるか」
このまま彼がずーっと儀式で何の戦績も残せなかったら、『後輩をちゃんと見ていなかった先輩のお前が悪い』って言われる可能性もなりかねないからね。あくまで助けるのは僕の立ち位置やステータスを維持するため。決して彼を心から心配しているわけではない。
「さて、ご本人は今どこにいるのやら」
僕は『ゴーストフェイス』のマスクをつけて彼を探しに行った。──案の定速く見つかった。彼がいた場所はマクミラン・エステートのコール・タワー。たった一人で走りながらナイフを投げている。なんだ、彼は彼なりに努力しているんだな…だったら僕の助けは必要ない?…いや待てよ?
【今の彼に無いものはなんだ?】
その答えはすぐに分かった。そしてある一つの良い案も思い付く…嗚呼、僕って天才。自尊心を高めつつ僕はギラギラと何らかの感情を放つ眼光を帯びた彼に背後から話しかけた。珍しく彼の指先が血だらけになっていた。そりゃそうだ、そこら辺の樹木や壁に彼お手製の小さなナイフが何百本も刺さっているのだから。きっと投げる時にでも刃先が指に当たってしまったのだろう。
「はぁ…はっ…なに、ゴスフェ」
「特にないよ、ただ単純に珍しく君が泥や汗に塗れてるのを見たいな〜と思ってね」
「ははっ、出来ればこんな姿君には見せたくなかったよ…。………悪いけどもう帰ってくれないかな?今はあまり誰とも話したく無いんだ。」
「ふうん?ねぇ、帰る前に一つ聞いても良いかな?」「……いいよ」
「戦績が悪くなってるのはナイフ投げが下手になってるからだって思ってる?」
「!」
無言だったが、確かに彼の目は図星だと言っていた。やっぱりだ。トリックスターは自分がどうして急激に弱くなったのかという『核』の部分には気づいていない。仕方ない、この優しい優しいゴーストフェイス先輩がその部分に気づかせてあげようか。
「一つ提案なんだけど」
「…なに」
「僕が君の的になってあげる。だから全力で来なよ」
「え?」
彼は驚いていた。そりゃそうだ、この僕が僕自身が死ぬかもしれない選択を彼に与えるんだ。しかし今のトリックスターに気づかせるにはこれしか方法がない。今回だけだと自分に念押しして、彼の返答を待つ。
「え、ほ、本当にいいの?」
「嗚呼、もちろん。でも、ハンデとして使って良いのはそのナイフだけ。代わりに僕は『闇の抱擁』しか使わないから。どう?五分五分でいいでしょ?」
「うーん…でもどうやって勝敗を決めるの?これじゃあ延長戦になる事間違いなしだよ」
「確かにそうだねぇ…じゃあ、五秒間相手の動きをどんな方法でもいいから封じる事が出来たら勝利にしよう」
「分かった、乗るよその提案」
さてと、僕も隠密頑張るか。彼が僕の提案を飲んでくれた事に安堵しながらこのマップの死角となる場所がどこか思い出す。あ、あとこれは言わないと始まらないね。
「じゃあ目を閉じて十秒数えて?最初から見えてる位置で始めるのはつまらないでしょ?」
「もちろんいいよ。じゃあ行くよ〜、十、九…」
あっさり了承してくれて助かった。しかし良かった、トリックスターが数日ぶりに高揚した顔をしている。こんな表情は久々に見た気がするな…てかやばい、そろそろ彼が十秒数え終わってしまう。僕は闇の抱擁を発動させて気配を消し、一番近くの死角となる場所へ移動した。
「──ニ、一…よし、行くか!」
僕が隠れた場所とは正反対の所へと彼は走り出して行った。それはわざとなのか、はたまた偶然なのか。とりあえず肝心のトリックスターに目を覚まさせる為の行動はしなくては。安易に終わらせてしまってもつまらない。時々大きな音を立てさせて二、三本ナイフを当てさせればベストかもしれない。そして最後は僕の勝利と…完璧だ。そうと決まれば早速行動あるのみ。僕は闇の抱擁を発動させながら彼の後をつけて行った。
「うーん…本当に僕が上手く出来るのかな…」
今更弱音を吐いてどうする、君らしくない。全力で来いとこちらが言ってるのにこんな弱々しくては面白くないじゃないか。…仕方がない、ここは先輩である僕が人肌脱ぎますか。
ドンッ!
僕は試しにその場に隠れていた小屋の壁を思いっきり蹴った。ある意味陽動の様なものだ。これで彼もここへ来るはず。そして案の定彼はナイフを構えながら走ってきた。しかし表情は最初とは違い高揚した顔ではない。むしろ打って変わって泣きそうなほど情けない顔をしている。まるで全てに呆れている様な…もしかしていつも儀式で生存者に騒音通知を受けているのを思い出してしまった?なのに平然とナイフを僕に向かって投げてくるのがムカつく。それを避けてはいるが、こちらとしては本気なんだ。このままでは全く面白くない。僕は自分の満足のいかないことが大嫌いな性格でね、悪いけどトリックスターには少しルール追加を了承してもらおう。
「ねぇ、ちょっとルールを追加しても良いかな?」
「いいよ、なに?」
「これじゃあ全然面白くないからさ、今から僕もナイフを使っていいかな?」
「もちろんいいよ。僕もさっきから面白くなくてつまらなかったんだ」
「同じ気持ちで良かったよ」
そしてもう一度彼に十秒数えてもらい、今度こそお互いが本気で向き合える事に成功した。しかし今回の提案は仮にもトリックスターがどうして弱くなったのかというのを彼自身に気づいてもらう為のもの。あまりにも彼と僕の実力の差を見せつけてしまっても面白くない。
「難しい所だ…」
隠れながらそう呟く。僕も攻撃はするが、それは決して彼より上の事をしてはダメだ。例えば彼を無防備にさせて攻撃をした後に、五秒数えて僕の圧勝とか…。仮にも彼の今の精神状態はかなり参っているはず。あまり刺激を与えない様にしなくては。こんなに僕が人に気を使う日が来るなんて思いもしなかった。しかしこんな事も今日限り。何とか頑張ろう。