TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

あっけにとられる俺を尻目に、花園常務はなぜか盛大に笑いだした。

「お父さん、笑いすぎですよ。先輩が困ってます」

「ああ、島田くん。済まないね」

目尻に浮かんだ涙を拭いながら、あらためて姿勢を正した花園常務の姿を見たからこそ、俺も同じように背筋を伸ばしてしまった。

「先輩すみません、ちょっと受付まで行ってきます。うな重が届いたそうです」

新人は俺と花園常務にそれぞれ視線を飛ばしてから、スマホを耳に当てつつ、慌ただしく出て行った。

「私はね、島田くん。悪いことをした大和を叱ったことはあるが、叩いたことは一度もなかったんだ」

扉が閉じられたタイミングで語られた花園常務のセリフで、変な声が出そうになる。丹精込めて大事に育てた息子に、思いっきり平手打ちを繰り出した俺を、父親として恨んでいてもおかしくはない。

慌ててソファから腰を上げ、45度に腰を曲げて頭を深く下げる。

「その節は息子さんを叩いてしまい、大変申し訳ありませんでした!」

「頭を上げてくれないか。君を責めているわけじゃない、むしろ感謝していてね」

花園常務は立ち上がって、頭を下げる俺の肩に手を添え、無理やり起こすと、ソファに押し戻した。

「あの……感謝とは?」

アホ面丸だしで呆けた俺に、今度は花園常務が済まなそうに頭を下げる。

「お恥ずかしい話なんだが、あのコを甘やかして育ててしまったせいで、どうしようもないバカ息子になってしまってね」

(そんなことはないですよと、花園常務に否定してあげたいところだが、実際はアレなので否定してあげられない……)

ちゃっかりそんなことを考えつつ、神妙な表情をキープして、話に耳を傾けた。

「今回バカ息子がやらかした失態がもとで、君が叩いた行為がきっかけとなり、大和が今までのおこないを、深く反省することにつながったのを聞いたんだ」

「へっ?」

こちらとしては、まったく話がつながらないせいで、何度も目を瞬かせた。ゆっくり頭を上げた花園常務は、困惑を滲ませた瞳で俺を凝視する。

「それなりの大企業に勤める、私の息子だからか、周りもチヤホヤする有様でね。あのコが悪いことをしているのに、君のように叱ってくれる人間は、ひとりもいなかった」

「それは、あの……ワガママに育ってしまう環境下と言いましょうか」

たどたどしく告げつつ、新人が時折見せる、質の悪い黒い笑顔を思い出した。

自分の立場や見た目を利用し、意のままに相手を操って、自分の思いどおりにしてきたからこそ、先輩である俺の前でも堂々と振舞っていたように思えてならない。

「父親として、バカ息子を真人間にしてやりたいと考えているんだ」

「真人間、ですか……」

「そのうち知らされるだろうが、近いうちに第一営業部と第二営業部で、合同プロジェクトをはじめる」

「それはいつもより、タイミングが早いですね」

昨年のことを思い出して口にすると、花園常務は苦笑いを浮かべた。

「鉄は熱いうちに打てと言うだろ。合同プロジェクトのついでに、島田くんにはウチの息子の面倒を見てもらおうかと」

「エエッ!?」

思わず大きな声を出してしまい、口元を利き手で押さえる。驚きのあまり「ゲッ!」と言わなくてよかった。

「あのコにまったく媚びることなく、普通に接しているところを、ほかの職員にも見せつけてやってほしい。そうすれば少しは、あのバカ息子もつけ上がることなく仕事をするだろう」

「すみません。それは結構、私情をまじえているのではと」

クセありまくりの新人の面倒を見たくなかったゆえに、ズバリと指摘した。できることなら、新人の指導を回避するために、ズバズバ切り込む言葉を、必死になって考える。

loading

この作品はいかがでしたか?

50

コメント

2

ユーザー

花園親子VS島田のすれ違いをお楽しみください😊

ユーザー

最高すぎる!!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚