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花園常務は神妙な顔をしている俺に、やるせなさそうな面持ちで語りかける。

「島田くんは、妹さんがいるみたいだね」

「はい。秋田の実家住まいで、社会人2年目です」

(大事な息子を叩いた俺の経歴を全部調べて、確認済みなんだろう)

「島田くんの面倒見の良さは、妹さんがいるからなんだろうなぁ」

「そんなことはないですよ。アハハ……」

告げられたことに対して、やんわりと否定し続ける俺を見ているのに、花園常務は笑顔を崩さなかった。おかげで愛想笑いをする羽目になる。

「大和のことを弟だと思って、面倒を見てもらいたいんだけどなぁ」

妹をダシに使い、なんとしてでも息子の指導をさせようとする花園常務に反抗すべく、捲したてるように返事をする。

「ダメですよ。息子さんに平手打ちする俺みたいな粗野な男より、もっといいヤツがほかにいます。絶対に!」

「ほらほら大和と熱寿ひいとって、名前が似てるじゃないか。兄弟になったつもりで、どうだね? 私は大歓迎だよ」

「名前が似ているのは、ただの偶然です。花園常務の息子さんと兄弟なんて、畏れ多くてなれませんっ」

大きな声でハッキリと言いきったタイミングで、扉がノックされた。風呂敷を手にした新人が入ってきて、ふたたび俺の隣にくっつくように座り込む。

「お父さん、いいところに目をつけましたね。確かに先輩と僕の名前って、似てるんですよ」

(――おかしい。扉は完全に閉まっていたハズなのに、どうしてコイツは話の内容を知っているんだ?)

訝しげに表情を曇らせる俺を、新人がじっとりとした粘っこいまなざしで見つめるせいで、背筋がゾワッとした。

「先輩と兄弟になってみたいなぁ♡」

「無理に決まってるだろ。面倒を見ることができるのは、実の妹だけだ」

「妹さん、かわいらしい方ですもんね。 その彼女の恋人に僕がなれば、必然的に先輩と兄弟になれるわけか」

「は? ちょっと、なに言ってんだ、おまえ……」

秋田にいる妹の容姿を知っているのもどうかと思うが、彼氏になろうなんて考えること自体、信じられなかった。

「先輩と兄弟になるための、ひとつの手段を言ったまでですよ」

俺に向かって爽やかに微笑んでいるが、その笑みから黒いものを感じた。

コイツなら、口にしたことをやりかねない。そんなふうに、捉えることのできる種類の笑顔だった。俺が平手打ちした証拠を、わざわざスマホで撮影して残し、脅しの材料に使う男である。秋田にいる妹に、魔の手を伸ばす可能性が無きにしも非ず!

まじまじと見つめる新人の視線を受けながら、嫌々口を開く。

「……わかった。花園常務にも頼まれているし、合同プロジェクトの間だけ、面倒を見てやる」

すると新人は瞳をキラキラ輝かせて、身を乗り出した。

「先輩、よろしくお願いしますね♡」

くっつきそうなくらいに並んで座ってるので、身を乗り出されると、嫌でも新人の躰に触れる。

「ああ」

返事をしながら腰を少しだけ上げ、じりじり移動。新人との距離をあけた。

「先輩がご指導する間は、僕に遠慮なく厳しく接してください」

「わかった」

必要最低限の返答をしているのに、新人は弾んだ口調で会話を続ける。

「大和って呼んで、たくさんこき使ってくださいね」

「え……それはちょっと。周りの目があるし、せめて名字で」

両こぶしを握り締め、俯いたままお願いした俺の目の前に、見覚えのあるスマホを見せられる。そこには例の平手打ち直後の新人の顔が、画面に映し出されていた。

「くっ!」

俺が肩をビクつかせて反応すると、音もなくそれが引っ込められた。

「花園って名字は、お父さんを連想させてしまうので、あまり使ってほしくないんです。はい、先輩のうな重です」

「…………」

「お父さんは、小さいお重のうな重でしたよね? どうぞ」

「大和、島田くんを困らせるのも大概にしなさい。面倒を見てもらえなくなるぞ」

(花園常務、ナイス! 父親として、もっと強く叱ってください!)

恋の撃鉄(ハンマー) 挨拶からはじまる恋♡

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