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堕天の契り

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堕天の契り

3 - 《第3章:白き祈り、黒き追憶》

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2025年07月23日

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あれから3年がたった

純白だった翼は、黒に染まり、戻れないと絶望していた。

しかし、ある夜ミンジュに奇跡が降りた


夜。静まり返った館。

「……今だ……」


ミンジュは、壁にかかった鍵を手に取り、音を立てないように足枷を外した。

ジョングクたちは地下の作戦室に籠もり、ジミンは薬を飲んで深く眠っていた。

めぐってきた、奇跡のような“隙”。


(いましか、ない……)


ドアを開ける音がしないよう慎重に抜け出し、広い廊下を駆け抜ける。

心臓がうるさいほど鳴っていた。


「……お願い、誰にも見つかりませんように……」


その祈りは、久しぶりに空へ届いた気がした。


**


森を抜け、岩場を超え、息も絶え絶えにたどり着いたのは──

山のふもとの、静かな小さな村。


「……あんた……なんでそんな格好で……!」


土を運んでいた老婆が目を見開いて、駆け寄ってきた。

ボロボロの衣服。血の滲んだ足。頬には涙の跡。そして──背中には、折れかけた黒い翼。


「たすけて……わたし……、殺される……」


老婆は何も問わず、ただ黙って彼女を家に連れ帰った。


「おまえの名は?」


「……ミンジュ、です」


「ミンジュ……いい名前じゃ。あんたは、きっと戻れる」


畑の手伝いをしながら、

薬草を摘みながら、

手編みの布を織りながら。

老婆は静かに、優しくミンジュの傷を包みつづけた。


はじめは怯えた顔しか見せなかったミンジュも、しだいに笑顔を取り戻していった。


数日後──

薬草と湯と、老婆の静かな看病で、ミンジュの傷は少しずつ癒えた。

そして、ある朝。


「……!」


鏡に映る自分の背中を見て、ミンジュは震えた。

翼が……白く戻っていた。ほんの一部だけれど、純白の羽が揺れていた。


「神様……本当に……わたしを……」


涙が溢れた。

生まれて初めて、心からの救いに触れた気がした。


「お前の翼は、信じる心に反応する。

あんた……戻れるよ。ちゃんと、自分の場所に」


老婆はそう言って、ミンジュの髪をそっと撫でた。


数年経った頃、ミンジュの背に再び芽吹いたのは──

完全に白く染まった、ふわりと広がる清らかな翼だった。


「……白に、戻った……?」


「心が、ようやく自由になったんじゃよ」


老婆の手は、いつも温かかった。

ミンジュは、この場所でなら、人間として、そしてひとりの“女”として生きられると思えた。


──けれど。


同じころ:首都、地下にて


「……あれから、五年」


ジョングクは、部屋の奥でひとり呟いていた。

その両目は血のように赤く充血し、手には、あの時の髪の切れ端を握りしめている。


「……まだ香る。ミンジュの匂い……ヌナの匂い……」


横では、テヒョンが無言で写真を見つめていた。

燃やされた屋敷の残骸から拾った、かすれたミンジュの布切れ。

それを“愛しい遺品”のように抱き締めている。


「ミンジュは、生きてる。ぜったいにどこかに……」


ジミンは静かに笑いながら、台帳にあらゆる村の記録を付けていた。

「逃げる天使を捜し出すための地図」を。


ジンは? 彼はあの夜以降、笑わなくなった。


「……あの子がいないと、家じゃないよ」


ただそれだけを繰り返すように、真っ白な部屋の中で、彼女の形跡だけを撫でていた。


──七人全員が、狂っていた。

だれひとり、ミンジュを忘れていなかった。

むしろ、会えない5年間の間に「執着」という名の鎖は重く太くなっていた。



再会:運命の雨


その日も、ミンジュは山の奥で野花を摘んでいた。

白いワンピース、白い翼、穏やかな微笑み。


(……もう、幸せに暮らしていいはず。

誰も、わたしを見つけないはず──)


でも、その背後から降りかかってきた声は、あまりにも鮮明だった。


「……やっと、会えた」


……その声を、忘れることなんてできるわけがなかった。


振り返ると、そこに立っていたのは

ジョングクとテヒョン。

――そして、ジン、ジミン、他の全員。


「逃げたね、でも……偉かったよ、がんばったね」


ジョングクのその言葉に、ミンジュの背中が震える。


「どうやって……」


「全部、追ってたよ。何年も。おばあさんの村まで辿り着くのに、時間がかかった」


「やだ、来ないで……!」


ミンジュは羽ばたこうとした──けれど、その前にジミンが後ろから抱きつく。


「……飛ばないで、せっかく戻ってきたのに。

僕たちの“お嫁さん”に」


「いや……たすけて、誰か……!」


その声は、木々に吸い込まれて消えていく。

何も知らない村の人々は、遠くのほうで風鈴の音を鳴らしていただけだった。


「帰ろう、ね。檻はきれいにしてあるよ。ベッドも、鎖も、全部、あんたのためだけに」


「やだぁぁっ……!」


抱きしめられた瞬間、ミンジュの白い翼は一瞬だけ黒く染まりかけ──

でも、まだ白のまま踏みとどまっていた。


──これは、ほんとうの最後の戦い。


彼女が壊れるのが先か。

彼らの愛に染められるのが先か。

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