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あの夜──。
「たすけて……おばあちゃん……!」
必死に叫んだ声は届かなかった。
やわらかな白い布に包まれた体は、ジョングクとテヒョンの腕に抱きかかえられたまま、闇の車へと運ばれていた。
「……あんな田舎に隠れてたなんて、ね」
ジミンの低く呟く声。
「もう逃がさないよ」と囁くジンの目は、涙を浮かべながらも異常なほど穏やかだった。
•
気がつくと──そこは、かつての“あの部屋”だった。
だが、あの頃よりももっと美しく、そして冷たい。
ミンジュのためだけに造り直された、白い聖域。
真ん中に、大きな檻のようなベッド。
天蓋にはミンジュの髪色と同じ薄金のレース。
壁には、かつての写真と、壊された羽の飾り。
「……いらない……こんなの、わたしの家じゃない」
涙がこぼれた瞬間、
ジョングクがミンジュの手首をそっと掴んで、くちづける。
「ヌナ……五年、会えなかったんだよ……」
「お願い、離して……!」
抵抗するミンジュの体を、テヒョンが後ろからそっと抱き締める。
「……まだ白いんだね、翼……じゃあ、これからまた俺たちの色に染めよう」
彼の声はとても優しかった。
•
「嫌……いやだっ、あたし、帰りたい……!」
バタバタと羽ばたいても、彼女の翼は今や自由に空を飛べるほどの力を持たない。
五年間の静寂が、その筋肉を弱らせていた。
「もう、誰のところにも行かなくていい」
「僕たちが、ずっと守るから」
「ね、ミンジュ」
ジミンがゆっくりと、ミンジュの前髪を撫でる。
ジンがそっと白いドレスを脱がせ、泣きじゃくる彼女をシーツに横たえた。
「大丈夫、大丈夫……怖くない……」
ジョングクがゆっくりとミンジュの翼に触れ、
その根元にくちづけた瞬間──
白い羽根が、少しだけ、黒く染まった。
「やだ……あっ……あぁ……!」
「そう、またここから始めようね」
「俺たちの、花嫁に戻ってもらうよ」
**
その夜、ミンジュは泣きながら、静かに崩れていった。
もう二度と帰れないと、肌が、体が、心が理解していた。
やさしさと執着が混ざるように重く、絡みつくように深く。
──けれど、彼女の瞳は、まだ“白”を手放してはいなかった。