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「あ、うん、ありがと。総務も年末になってきて忙しいだろ、無理しないで」
坪井に声を掛けられても「うん」と、振り向かずに返事をすることしかできなかった。
せっせとテーブルを拭いて、飾ってある小物なんかも拭いて。
そろっと振り返った時には坪井の姿も高柳の姿も既に遠くなっていた。
慌ただしく電話をしたり、書類を見せあったり、出勤し始めた事務に指示を出したり。
(……総務より、営業部はもっと忙しいよね)
始業時間までは30分もあるけれど、賑わい始めたフロア。
その忙しさを、お疲れ様です。と心の中で労いながら二階に戻るためエレベーターに乗り込んだ。
手伝えることも今はなさそうだし、関わることは当分ないのかなと考えて。
……予想は、悪い方に裏切られるともつゆ知らず。
***
そんな朝を過ごして、年始の社内行事の用意や挨拶回りの準備等々。
目前のクリスマスに向けて、受発注の調整に大忙しな営業部よりも少し早めに、二階の部署は年始の準備に入る。
それなりにバタバタと過ごしていた真衣香。
17時を過ぎて、ポツポツと更衣室へ向かう人たちの声が聞こえてきた。
(八木さん、今日も戻ってないし……。杉田課長が戻るまで残ってようかな)
八木はこのところ、春からの異動先の準備で忙しいらしく。
(どこに異動するのかは、まだ聞けてないんだけど……)
ゆっくりと引き継ぎをしてくれる一方で、こうして外出や会議で抜けることが多くなってしまった。
少しだけ、寂しく感じているなんてまさか言えない。本当に勝手な話だ。
呑気にため息をついたところで、電話が鳴った。
内線の音だ。営業二課と書かれたシールの上、8番が光っている。僅かに緊張しながら受話器を手にした。
『あ、立花さん!? 一階、二課の川口だけど!ちょっと降りてきてくれる? すぐに!』
電話の相手は、真衣香にとってはかなり予想外の相手だった。
営業二課の川口は、坪井の先輩だ。
真衣香とは、ほぼ関わりもなく。まともに会話をしたことのない人物だった。
しかし、何やら慌ただしい様子に「わかりました」とだけ答えて席を立つ。
念のため杉田にメモを残し、隣の人事の部長に一声掛けてから、階段で駆け降りた。
階段を降りて、重たい防火扉を開けて、従業員口から営業部のフロアに入る。
そんな真衣香の姿を見つけた途端、走り寄る男性。
……川口だ。
掴みかかる勢いで真衣香の両肩を持ち、揺さぶった。
「なあ、あんた昼過ぎ!いつもどおり荷物受け取りに来たよな!?」
「え、あ、え??荷物ですか?」
「だから、そう聞いてるだろ!何度も言わせんなって。使えねぇって噂どおりかよ!」
大体繁忙期に入ると、宅配業者は午前中と昼過ぎに、郵送の書類などは夕方までに。
毎日時間が決まっているので、荷物の振り分けを担当してる総務が、営業部のハイカウンターに受け取りにやってくる。
今日も変わらず、繁忙期らしく台車を使っていくつもの荷物を受け取り、各部署に振り分けたのを覚えていた。