気のせいだろうか。姫菜の心が動いたのを感じた。
「……ある人に、言われた。私は、姫菜のことを友達だと思っていたんじゃないかって。だけど、否定した。友達なんかじゃありませんって。」
更に、熱を込める。言葉の一つ一つに想いを乗せて。遠くにいる姫菜にも届くように。
携帯を握る力を強くする。手のひらにうっすら汗が滲む。
「だって、私…姫菜のこと何も知らない。年齢とか好きな食べ物とか…友達なら知ってるはずの情報を何も…二人で会っても援交の情報交換とか親の愚痴とかばっかで…だから私達は援交をしている、同じ傷をもった同士。それでしかないよ。でも…私は、姫菜と友達になりたいと思ってる。」
こんなにも自分の気持ちを素直にするのは初めてかもしれない。
一度開いた心は、止まらなかった。
「姫菜のこと、もっと知りたいし私のことも知ってほしい。旅行とか、行ってみたい。こんなに、ありのままでいられる人には出会ったことがないから。だから…友達になって。これが今の私の気持ち。電話するのは、これが最後。援交仲間としては。それでも姫菜が私に援交を薦めるつもりなら、遠慮なく切ってくれていいよ。だけど姫菜も同じ気持ちだったら…聞かせてほしい。」
全て吐き出し終わり、すっきりする。沈黙に支配されるが、もう不安はなかった。
どうなっても後悔はしない。私の気持ちは全部伝えたから。
毛布を握りしめ、じっと待つ。
『……正直…』
ようやく聞こえた声に、顔をあげる。ふと視界に入ってきたのは時計の針。
かなり長い時間経ったと思っていたが、あれからまだ10分も経っていなかった。
『正直、あんたからの着信があった時…切りたかった。簡単に裏切ったやつと話したくなんかないってさ。もうあたしと闇に落ちてくれないやつには興味もないって。あたしも…さ、あんたのことただの援交仲間としか思ってなかったんだよね。』
姫菜の言葉が心をえぐる。だけど、その先に答えがあると信じて、黙ってうなずいた。
『でも…切れなかったんだ。それだけじゃない。ほんとは、あの日美里亜と別れたあと、すぐに着信拒否もしようとしてたんだよね。今までなら簡単にできてたのに…何故か迷いがあって…。その理由がわからなくて、知りたくてあんたからの電話に出てみたんだ。』
不安な気持ちが徐々に晴れていく。姫菜の声色から、何となく感情が読み取れたから。
私は、携帯を持つ手に力を込めながら息をするのも忘れるくらい待った。
『あんたの言葉を、思いを聞いてやっと分かった。あたしの中でも…あんたの…美里亜の存在が大きくなっていたんだって。』
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