「っ……」
心が…小さく震えた。
『あた…あたしも…美里亜と友達に…なりたいっ…この間は…怒って…ごめん…。こんなあたしでもよかったら…友達になって…?』
受話器の向こうから微かに嗚咽が聞こえる。その声も、震えていた。
泣いて…いた。いつもクールで表情を変えない姫菜が…。
突然の出来事に、真っ先に出てきた感情は、戸惑いだった。
こんな時…普通の友達なら、一緒に泣いてあげて、感動的な言葉を掛けるんだろう。
だけど私にはできなかった。涙も言葉も出てこない。
いつの間にかそんな純粋な気持ちを忘れてしまったみたいだ。
そんな自分がどうしようもなくもどかしくて、もやもやする。
「…変なの。お願いしてるのは私の方だし。」
結局私が選んだのはいつものぶっきらぼうな答えだった。
それでいいと思った。
『ははっ…そう…だったね。』
鼻をすする音に、耳を傾けるとゆっくり口を開いた。
「ねぇ。さっき、姫菜のこと何も知らないって言ったよね。だから、今からいっぱい質問するけどいい?私も答えるから。」
『ん。別にいーよ。答えれる範囲ならね。ふふ。』
「じゃあ、一番気になってたんだけど、姫菜っていくつ?」
『ぷっ…まさか思いっきり基本的が一番って…あははっ。あたし、18だよ。美里亜は?』
「え、じゃあ私の2個下か。私今年で20だし。」
『うっそ。ぶっちゃけあたしより年下かと思ったわ。』
「ひどいな。ふふっ…。じゃあ好きな食べ物は?」
それからは、お互いに質問のやり取りが続いた。
当たり障りのない、質問ばっかり。それなのに、何故だろう。こんなにも心が満たされるのは。
いや、むしろ私にはそっちの方が必要だったのかもしれない。
(何気ない会話でも盛り上がれるのが友達…だったりするのかな。)
その日は、「友達」の定義が少しだけ分かり始めた特別な夜になった。