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「う〜ん…お肉とお魚、どっちにしよう?」
「涼ちゃん、また悩んでるの?」
「うん。だってこんなの究極の選択じゃない?」
「究極とか大袈裟すぎ。」
仕事の合間、休憩室に用意されているお弁当の前でいつも頭を悩ませてしまう僕。
自分でもなんでこんなに優柔不断なんだろうと呆れてしまうけど、元貴はいつもそんな僕をイジりながらも、隣で決めるのを待ってくれている。
「うわぁ〜、今日はもう選べない!お願い!元貴が選んで!」
「なにそれー。まあ、別にいいけど。」
だけど、数分悩んだ結果、結局自分では決めることが出来なくて、元貴にお願いする事に。
すると、元貴は少し呆れた顔をしながらも、直ぐにお魚の入ったお弁当を持って僕に渡してきた。
「涼ちゃん、ダイエットするって言ってたからお魚の方がいいんじゃない?」
なるほど。
そう言う考え方があったのか!と僕は感心してしまう。
「さすが元貴!決めるの早い!」
「いや、涼ちゃん優柔不断すぎるだけだって。」
それに、涼ちゃんが悩んでいる間に考える時間は沢山あったしね、と笑う元貴。
それでも僕はやっぱり元貴はすごいな〜と思いながらお弁当受け取った。
元貴はいつだって決断力があって、自信があって、キラキラしていて、僕にないものを全部持っている人だと思う。
それに比べて僕は、いつだって色んな事に迷い、お弁当すら決められなくて、自分のことすら自信がなくてグラグラしてしまう。
でも、こんな僕でも、一つだけ迷わない事がある。
初めて元貴に“一緒にバンドやりませんか?”と声を掛けて貰った時から感じているこの想い。
他の事は曖昧でも、この気持ちだけは、はっきりと『好き』だった。
迷ってない、ずっと。
「涼ちゃんまた迷ってたの?」
お弁当を持ってテーブルに行くと、既にお弁当を食べ始めていた若井がご飯を頬張りながら聞いてきた。
「うん。でも結局決めれなくて元貴に決めてもらっちゃった。」
「もー、お弁当くらい自分で決めなよー。 」
うん、ほんとその通りだ。
僕は何も反論出来なくて、えへへと笑って誤魔化した。
「いいのっ。優柔不断でも、涼ちゃんには沢山素敵なところがらあるんだからさ!ね?涼ちゃんっ。」
僕が情けない気持ちでお弁当の蓋を開けていると、後ろから自分の分のお弁当を持った元貴がギュッと抱きしめてきて、僕の心臓がビクンと跳ねた。
「えぇ〜、そんなのあるかな〜?」
ドキドキしている心臓の音を聞こえないフリをして、僕はまた笑って誤魔化した。
「はぁー。元貴ってほんと涼ちゃんの事好きだよね。」
「うんっ、好き!涼ちゃんもぼくの事好きでしょー?」
「うん。好きだよ〜。」
出来るだけ軽く、ちゃんと友達としてのそれに聞こえるように言葉にした“好き”と言う2文字。
その2文字に隠された本当の気持ちは、言いたくても言えなくて、心のあちこちで揺れるけど…
誤魔化しながら…隠しながらも。
迷うことなく、どこにも行かないでちゃんとここにあるから。
-fin-