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スタジオのソファーに元貴が座っている。
ギターを膝に置いたまま、コードを適当に鳴らしてる。
10代の頃から、何百回と見てきた何気ない光景。
そんな光景に、おれはいまだに慣れない。
その横顔を見る度に、心がざわついて仕方がない。
「ねぇ、さっきのAメロだけどさ…」
そんな心のざわつきを悟られないように、何でもない声で話しかける。
返ってくるのは、お互い分かり合っているからこその短い言葉。
「あーね。いいかも。」
元貴はおれの事を信用してくれている。
それはちゃんと分かっている。
でも、それ以上のものは決して見せてくれない。
それがとても苦しい。
『幼なじみ』で、
『同じバンドメンバー』で、
『今更言えない』相手。
もしこの想いを口にしたら、
バンドが壊れる。
関係も消える。
それが怖くて、ずっと黙ってきた。
だけど、このまま『親友』のふりをして元貴の隣でギターを鳴らすことが、どんどん苦しくなっていく。
元貴を好きになればなるほど、おれの心は荒れていくばかり。
レコーディングブースのガラス越しに、元貴と目が合った。
一瞬だけ。
目を逸らしたのはおれの方だった。
もうこの想いから逃げ続けるのは限界かもしれない。
でも、踏み込むにはまだ怖すぎる。
明日もまた、『親友』のふりをする。
だけど、おれの心の中では、元貴を想う度に風が吹き荒れる。
こんな想いをいつまで続ければいいのだろう。
嵐の中で、ギターを引き続ける。
言葉にはせずに、ただ音を鳴らす。
その音の中におれの想いを全部詰め込んで。
-fin-