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「だからといって、今すぐどうこう出来る事ではないのです。ただ、私の見解を聞いていただいた方が良いかと思いまして。勿論、確証も無ければ想像でしかありません」
「リーゼロッテの魔力が、日に日に強くなっているのは確かだ」
と、テオは言う。
「……参った。信じられん」
ジェラールは頭を抱えた。
「にわかに信じ難いが……。可能性はあるかもしれません」と、ルイス。
そして、ジェラールは大きな溜め息を吐いた。
「つまり、あの洞窟や魔玻璃に近付く者を、更に警戒しておかなければならないのだな。私がこの国を守るには、魔玻璃を中心に最善策を考える必要性がある。そういう事だな?」
「はい。もしかしたら、1周目の最後の日は無事回避できたので、それだけでもクリア出来たと考えられますが――油断はできないと思います」
「なんと言うか……。リーゼロッテは、時々ふつうの令嬢に見えなくなるな。前の侍女姿の方がしっくりくる」
頬杖をしたジェラールは、リーゼロッテをしみじみ見て言った。
「そうでしょうか?」
リーゼロッテは首を傾げる。
(喋り方のせいかしら? 実年齢まで、この外見が追いついてないからだわ、きっと)
「取り敢えずは、当初の予定通り……私の魔力は隠して生活します。そして、地味に貴族学院生活を送ります」
キッパリ言い切ったリーゼロッテに、ポカンとしたジェラールは尋ねる。
「……地味にって、何だ?」
「貴族学院で目立たないようにするつもりです。それと、殿下にお願いがあります。学院の隣にある図書館の、王族専用の書庫への入室を許可してほしいのですが。……女神について調べたいのです」
数秒だけ考えたジェラールは、首を横に振る。
「許可は難しい。一般には公開出来ない物ばかりだからな。……だが、入り口にはかなり強固な鍵がかかっているが、中に入ってしまえばトラップなどは無い。もし勝手に侵入する者が居ても、きっと誰も気づかないだろうな。困ったものだ」
(なるほど。つまり、許可は出来ないから勝手に入れ……ね)
◇◇◇◇◇
貴族学院へ入る準備を本格的に始めた。
貴族学院とは、前世の知識にあるような、昔のいわゆる立法機関『貴族院』とは関係なく――貴族を対象とした、この国の学びの場だ。
この貴族学院では、基本に加えて3つのコースの中から学びたい学部を選択できる。
政治家や公務員を目指す文官コース、騎士を目指す武官コース、魔法や魔術に特化した魔術師コースと。
社交界デビュー後の貴族専用の学院の為、礼儀作法やある程度までの語学、計算、魔法は、それぞれの子供部屋で家庭教師により済ませてある。
だから貴族学院は義務教育ではない。
平民は家庭教師などつけられないため、国が建て各領地で管理される庶民学校へ7歳から入れる。
領地によって動かせる資金が全然違う為、勉強する内容に差が出てしまうのが問題だ。
リーゼロッテは、文官コースを選んだ。
ループ前は、女性が多い魔術師コース希望だったが、テオから魔法を学んでしまったので必要なくなった。
文官コースなら、歴史や経済も必然的に学ぶので、領地のことを思えば最適だ。
政治に関しては必須科目ではないので、世襲貴族で爵位が無ければ議席を持てない女性は、取らないこともある。
辺境伯領の学校を見学した時、子供達の学習状況を見ると、もっと改善しなければと思った。
その為には、ルイスに協力出来るように、先ず自分が勉強しないといけないと感じたのだ。
(魔玻璃や、あの仮説も気になるけど……。出来る事から始めなきゃね。気にしていても、普通に時間は流れるのだから)
たとえ災害や疫病が流行ったとしても、人は生活し生きて行かなければならないのだ。怯えていても、お腹は空く。
それは、貴族でも平民であっても同じだ。
大切な領民が、明日食べる物が何も無いなんて状況は絶対に嫌だった。大変な領地だからこそ、前を向ける環境を整えたい。
(孤児院の子供たちの将来の為にも、頑張るわっ!)
そう心に決め、リーゼロッテは公爵家から届いた手紙の返事を読み返した。
ジョアンヌは同学年、パトリスは2年生だ。
リーゼロッテが聖女だったことは秘密なので、学院では極力目立ちたくない旨を手紙に記した。
ジョアンヌ達のように、たまたま教会堂でリーゼロッテを見た者が居るかもしれないと。
手紙には、簡単に言ってしまえば『まかせておいて!』と書かれていた。なんなら、凄腕のメイク術を持っている侍女を貸すとも。
(こっちの世界で、ちゃんとした友達って初めてかも)
頼りになる公爵令嬢と友人になれて、嬉しかった。
貴族学院の寄宿舎には、侍女のアンヌと従者としてテオが一緒に入ることになっている。
幸い制服は、シンプルなグレーのワンピースだ。
髪色を魔法でブラウンにし、華やかウェーブヘアはストレートに変えて髪飾りなどはつけない。更に、眼鏡をかけて瞳の色を目立たなくしておけば、大分地味に見えるだろう。
その格好で大人しくジョアンヌの傍に居れば、地味な公爵令嬢の取り巻きの出来上がりだ。
リーゼロッテは鏡の前に立つと、スカートを摘んでクルクル回る。
顔立ちは違うが、転生前の自分の姿に近くなり、何だか懐かしく気持ちが落ち着いた。
『……随分と化けたな』
ベッドの上から、リーゼロッテの様子を眺めていたテオは言う。
「でしょう〜!」
その後、お茶を運んで来たメイクの得意なアンヌから、リーゼロッテとはまるで別人だと太鼓判を貰った。
(よしっ!)
貴族学院に入るまで、1ヶ月を切った――。