868ロスヨントス組
警察時代捏造ノベル
本人や実際のストグラ内のストーリーとは一切関係ない捏造ノベルです。
事実と捏造を混同しないようにお気をつけください。
本編⤵︎ ︎
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牢王が俺らの隊に入ってから馴染むのにそう時間はかからなかった。
警察学校出身とはいえずっと看守として務めていたので、警察業務を知らなかった牢王には改めて教育係が就くことになった。
俺と夕コはグレード5だけど隊長副隊長で何かと忙しいし、刃弐は初めての後輩なので俺が教えると息巻いていたが少し心許なかったので、なんだかんだ実質グレード5の音鳴に任せることにした。
多分これが俺たちに馴染むスピードがとんでもなかった最大の要因だったと思う。
音鳴がコミュ力おばけなのは周知の事実だったが、牢王はその音鳴のコミュ力と同等かそれ以上の能力を持っており、教育係になって1分で意気投合、5分後にはおと!ろれ!と呼び捨てする仲になっていた。
最近の若い子は恐ろしい。
そして、事件対応や銃撃などの実戦も申し分ないほど強かった。あとから聞いたところ牢王は夕コと同じく主席で警察学校を卒業していたらしい。
元々才能はあったのだろうが、地上つよつよの刃弐夕コ音鳴に囲まれてさらに成長し、隊の中でも1、2を争う程の実力にまでわずか半年で登り詰めた。
どんどん俺の地上班としての立つ瀬がなくなってきているがまぁヘリは大好きなので特に問題は無い!多分…
そして昇進についてだけど……
まじで俺の知らないところでグレード4になってた。
年明けにお年玉をねだってきたので俺にそんな金はないと一蹴したら
俺よりグレード1個うえのくせに!ケチ!
と言われて知った。ほんとにいつの間に?
スピード出世も甚だしいがまぁ音鳴たちの教え方とローレンの読み取り能力がいい感じに噛み合わさったんだろうな。
5の試験を受ける気はないのかも聞いてみたことがある。ローレンは夕コに次ぐオールラウンダーだし事務もよく手伝ってくれるので合格するのも時間の問題だろうと考えたから。
でもその時は
おとが4でしょ?一緒に上がるって決めてんだよね
と言っていた。なんかよくわかんないけど義理堅いやつなんだなと思っていたが、どうやら7割方煽りらしい。
自分と刃弐が優秀なグレード4であり続けることで音鳴をからかい続けるのが魂胆なんだ、と。マジでおもろいし音鳴は事務ぐらいできるようになってくれ。
それでまぁ大体また1年弱経過したぐらいの頃、新人が入ってくる時期が来た。
その日は前日から
「明日は重大発表があります!遅刻しないように!!!」
と夕コが全員に釘を指していた。
そのおかげもあってかいつも30分以上遅刻してくる音鳴と刃弐がそれぞれ10分と15分に収めていた。これ実はマジですごい。
だが2人が怒られることは無かった。なぜなら朝礼の時間になっても夕コが来なかったからだ。
刃弐
「ふぅ間に合ったぁ」
レダー
「全然間に合ってないね」
音鳴
「おいお前遅刻やぞ!」
牢王
「いやおと、お前も遅刻しただろ」
音鳴
「あれは遅刻に入らへん!」
レダー
「10分も15分も大して変わらんよ」
牢王
「たはっw言われてますやん」
刃弐
「音鳴さん恥ずかしいよ」
音鳴
「いや刃弐お前は遅刻しとるんやって」
刃弐
「その寝癖どうなってんの??」
音鳴
「え?うそ寝癖ある?」
レダー
「てか夕コ来なくない?」
牢王
「確かに」
音鳴
「あいつ俺らに遅刻すんなって言っといていちばん遅刻しとるやん」
刃弐
「夕コさんが遅刻なんて珍しいね」
牢王
「いや別にそんなこともなくない?」
レダー
「あいつ結構常習犯だよ。刃弐がそれより遅いだけ。」
刃弐
「へぇ〜」
そんな雑談をしていると扉が勢いよく開いた。
夕コ
「はぁ…はぁ……っはぁ、、」
いつもは調子こいて悠長に会議室に入ってくる夕コが、珍しく髪をぐちゃぐちゃにして、肩で息をするぐらい急いだ形跡があった。
夕コ
「遅れてごめん、今日の重大発表はこいつです。」
そう言ってまた廊下に出ていった。何事だ?と4人で顔を見合わせると、すぐに足音が戻ってきて、再び扉を開ける音がする。
レダー
「え」
刃弐
「お」
音鳴
「かわいい〜!!」
夕コが手を繋いで連れてきたその人は夕コより少し小柄で、銀色の髪をしたつり目の女の子だった。音鳴が好きそうな感じだ。
夕コ
「はい、この子、芹沢ちゃんって言います。仲良くしてあげてね。」
芹沢
「ちゃんいらなイ。セリザワです。おネガいします。」
刃弐
「よろしくぅ」
レダー
「よろしくね〜」
牢王
「よろしく!」
音鳴
「えーよろしくー!!」
音鳴はやっぱり食い付きが良かった。まぁ新人が来て俺らの空気に置いていかれないように盛り上げてくれている、ととってやらんこともない。
夕コ
「はいじゃあ質問コーナー行くかー」
芹沢
「え」
音鳴
「ハイハイハイ!!!!!!」
牢王
「おとお前声でっっっか」
刃弐
「必死やね」
レダー
「んふふw」
どタイプだから何とか仲良しになりたいんだろうな。と、この時隊の全員が感じたと思う。
夕コが
答えたくなかったら蹴り飛ばしていいから
と芹沢に耳打ちするのが見えたので、俺はとりあえず音鳴のケツの心配をした。
夕コ
「じゃあそこの元気な音鳴くん!」
音鳴
「はい!芹沢ちゃん彼氏はいますかぁ?!」
刃弐
「最初がそれなんだ」
牢王
「お前丸出しすぎるって」
レダー
「絶対もっと聞くべきところあるやん」
芹沢
「え、カレシ?いや、い、いないけド……」
ドン引きしている芹沢を横目に、ガッツポーズをとる音鳴と、それを見てドン引きするローレンと刃弐、さらにそれを見て爆笑する夕コと俺。
このままでは隊の印象が悪い、そう思い動き出したのは牢王 だった。
牢王
「じゃあ次俺いい?」
夕コ
「はいれんくん」
牢王
「何歳なのー?」
芹沢
「えっと」
音鳴
「アホやなーろれぇ、新人なんやから19に決まってるやん」
牢王
「いやいやそうだけど、やっぱ自己紹介って大事じゃん?“先輩”として誘導してあげないとなってさ」
生き生きと先輩風を吹かし、鼻につくような笑みを浮かべながら話をしてる2人を見て俺は苦笑いした。
芹沢
「24」
牢王
「え」
音鳴
「え」
刃弐
「え」
夕コ
「あごめん言うの忘れてた。こいつ別の街で5年間警察やってたからお前らの先輩ね。あぁ音鳴はまぁ後輩か。でもグレード4だし、銃撃は刃弐より上手いから敬えよ」
全員が絵に描いたように驚いた顔をしていて、それを見て俺は大笑いした。その中でも1番驚いていたのは刃弐だった。ずっとモテたいモテたいって言ってた中で、初めての女子の後輩だからいい所を見せれると思っていたのに、年上で先輩な上に名指しで格上宣告されてしまい、呆気にとられていたんだろう。
正直刃弐の絶望顔がいちばん面白かった。
そこからしばらく質問コーナーが続いて、最初の方は夕コにくっついていた芹沢も、しつこい音鳴と何となくうさんくさいろーれんにイライラして最後の方は半ギレだった。
通報が入ったので朝礼はそこでお開きになり、
初ミッションも問題なく、なんなら今までより圧倒的な効率で遂行し、その日一日で俺らの街のギャングは完膚なきまでにボコボコにされた。
ただ、5年勤続の別署の警官とはいえうちの隊は初めてなので、勝手などを色々教えるためにバディを組ませた。
諸々を鑑み た結果適任は音鳴と判断され、ウキウキの音鳴と少し呆れ気味の芹沢でミッション対応に当たっていた。
でもミッション中は本当に相性がいいようだった。初日であるにも関わらず、別の街からきたゆえの言語が通じない部分を補って報告する音鳴。
地上IGLを担う音鳴にとって最も背中を預けやすい実力を持っている芹沢。
ミッション以外の時は、おちゃらけた音鳴にイライラしつつも笑わされている様子だったので、一時的教育バディは円滑に進みそうで安心した。
もう音鳴はうちの隊の正式な教育係でいいと思う。俺やりたくないし。
終業時間、全員がそれぞれ退勤したあと、俺はいつも通り夕コとカウンターで晩酌をしていた。
いつもならそこのソファに他のやつらもいるけど、今日は効率が良かっただけによっぽど疲れたんだろう。
俺たちはその分いつもの事務作業がなかったから疲労もいつもと余り変わらなかった。
夕コは
どうせ誰もいないしバレない
って言いながら音鳴のお気に入りのボトルを勝手に開けて飲んでた。俺は知らない。そう思いながら刃弐のボトルに手を伸ばした。
レダー
「ねぇあの芹沢って子」
夕コ
「んー?」
レダー
「あの子って“例の” 女警官?」
夕コ
「そ」
レダー
「なるほどねーそりゃ強いわけだ」
夕コ
「俺が見込んだだけあるっしょ」
レダー
「見込まなくても連れてきてたくせに」
夕コ
「ふっ。わかってんじゃん」
芹沢は隣街のただの警官ではなかった。
外国から“商品”として連れてこられた、いわば奴隷。
幼い頃から戦闘の何たるかを叩き込まれ、人を殺すためだけに育てられた戦闘人形。
そして人手不足と実力不足で困った隣街の政府が芹沢を買って、警察官として働かせていた。
その圧倒的実力で俺たちの街にも轟いて来てもいいぐらいの数々の功績を残しているが、なぜか表面に出てこないという情報を俺たちは独自のルートで掴んでいた。
レダー
「でもよく連れてこられたね」
夕コ
「まぁね」
レダー
「上のやつら説得するなんて至難の業でしょ?どうやったの?」
夕コ
「……まぁ何とか話つけて戸籍変えたーみたいな?」
レダー
「…ふーん。」
別に俺は、どうやって話をつけたのかを夕コが言いたくないなら詳しくは聞かないし、詮索しようとも思わない。
ただ、普段はノンデリだなんだとバカにされるのに、こういう時は鋭くなる自分の勘に嫌気がさしたのは確かだった。
会ったこともない隣街の上層部に対して虫酸が走った。
夕コ
「正直システム上は問題なかったんだよ。ただ、本人を説得して連れ出すのに時間がかかった。」
夕コが芹沢と出会う機会があった理由、それは 隣街で起きていた 人身売買事件解決のためのヘルプ出張があったから だった。
まぁそこで芹沢を見つけられたのは、おおかた人身売買の情報を洗っていくうちに、警察署内に元奴隷がいるのが発覚したみたいな経緯だろうと思う。
元々掴んでいた情報とリンクしたのもあってさらに調べたりしたんだろう。
夕コ
「あいつ、最初に見た時からずっと目死んでてさ、でも部外者で初対面の俺がズカズカ話しかけたってビビらせるだけだからしばらく様子見てたのね」
レダー
「うん」
夕コ
「数日観察してたんだけどあいつ誰とも喋んないの。一言も発さない。独り言もない。」
レダー
「へぇー」
夕コ
「で、さすがになんかアクション起こすかと思って話しに行こうとしたら、既に男数人に囲まれてて」
レダー
「ふんふん」
夕コ
「後輩っぽかったし、あいつならなんかされても抵抗できるだろうと思って遠くで様子見てたの。」
レダー
「お前様子しか見てないやん。ストーカー?」
殴られた。
夕コ
「そしたらそいつらがやらしい手付きで芹沢のこと触りだしたの。なのにあいつしかめっ面するだけでなんの抵抗もしねーの。まるで当たり前みたいに。」
レダー
「うん」
夕コ
「嫌な予感はその時点でしてた。セクハラじゃんとも思った。でも俺あいつのこと知らないしあいつの交友関係とかも知らないからさ、もしかしたらそういう関係なのかもって思っちゃったんだよ。」
レダー
「うん」
夕コ
「そしたら態度が気に入らなかったのか、そいつらが拳振り上げたの。」
レダー
「……」
夕コ
「振り上げた瞬間あいつを守りに行ったんだけど、なにぶん遠くで見てたからすぐには間に合わなくて」
レダー
「…うん」
夕コ
「…止めた時にはボロボロだった。」
そう言う夕コは俯いていた。短い髪が邪魔をして顔は見えなかったが、夕コのグラスに浮かぶ氷は、雫を受けて少し揺れていた。
夕コ
「あいつが暴力にも抵抗しないなんて思わなくてさぁ、」
レダー
「うん」
夕コ
「違和感感じた瞬間に止めに入れば良かったなぁ、絶対怖かっただろうにさぁ、」
レダー
「…うん」
震えた声を一生懸命押えて話す夕コ。酔っ払ったせいだと思ってあげるのが俺の今できる1番の優しさだった。
夕コ
「俺が止めに入った瞬間そいつら悪態ついてすぐ逃げてってさ、追おうかとも思ったけど、今こいつを独りにしちゃいけないと思ってすぐ手当に取り掛かったんだよ」
レダー
「うんうん」
夕コ
「でね、俺が
『すぐに止めに入らなくてごめん。ずっと勝手につけ回してごめんね。』
って謝ったら、ほっそい声で
『気づいてた。おれの為なんでしょ。今のでわかったよ。ありがとう。』って」
レダー
「うん」
夕コ
「こんなやつをこんなとこに置いとけないじゃん」
レダー
「だね」
夕コ
「だから救急隊に預けて速攻人身売買の現場行って1時間で全制圧して翌日の船の予約を2人分取ってその日のうちに手続き諸々して帰ってきた。 」
レダー
「お前やば。強すぎるやん。逆になんで今まで解決してなかったんだよ。」
夕コ
「違ぇよその日まで犯行グループがなりを潜めてて、俺も芹沢の観察と普通の事件対応で忙しかったから本部に乗り込めてなかったんだよ!!!」
レダー
「もう半分芹沢メインじゃん」
殴られた。
夕コ
「とにかく、それで俺が上層部に何とか話つけたって言ったら芹沢も夕コについて行きたいって言ってくれて、何とか連れてこれたってわけ。」
レダー
「なるほどねー」
夕コ
「あとから芹沢に辛くない程度で話聞いたら、先輩からも後輩からも日常的に暴力を振るわれてたらしい。なんで抵抗しなかったのって聞いたら、あそこクビになったら生きていけないからって言ってた。 」
レダー
「それもあるし、おそらく幼い頃から教育として暴力を受けてただろうから、俺みたいな常人より抵抗がないんだろうね。」
夕コ
「性的な暴力を受けることもあったらしんだけど、悪態つくと暴力に切りかえてくれるやつもいるから、それもよくやってたって」
レダー
「…そっか」
夕コ
「結局どこいっても何年経っても一緒だな。この街も隣街も。」
レダー
「そうだね」
夕コ
「刃弐も蓮くんも芹沢も、なんであんな目に合わなきゃ行けなかったのか納得できない。」
レダー
「そうだね」
夕コ
「…レダーさんも」
レダー
「……え?」
心の底からびっくりした。俺が刃弐と同じ目にあってたことは誰に言ったこともなかった。知っているのは俺と、俺に暴力をふるったことのあるやつだけ。別に言う必要もないし、そんな話題が出ることもないし。
レダー
「…なんで俺の名前が出てくるの?」
夕コ
「音鳴に聞いたよ。刃弐と同じことをされてた警官が他にもいた。レダーはそのうちの一人だった。って」
レダー
「あいつなんで知って」
夕コ
「ミックスって人脈広いじゃん、それで上層部の人と仲良くなった時にポロッと言ったんだって。」
レダー
「いやコミュ力……」
夕コ
「あいつが立派なヘリ乗りになったのは俺のおかげなんだよって自慢気に話してきたって。」
レダー
「……」
そう。俺がヘリ乗りになったのはその暴力がきっかけだった。
連日暴力を受け、その合間に事件対応に追われ、ろくな睡眠が取れず、それを毎日繰り返していたら体にガタが来て、ある日、いつも通り暴力を受けている時、脚を大きく負傷した。
回復したはいいものの、激しい運動などは脚に負担をかけるので控えるようにと言われ、地上班からヘリ乗りになった。
音鳴はこれを上司の口から自慢話のように聞かされたらしい。
夕コ
「何が俺のおかげやねんってブチ切れそうになったけど、ここでキレたらレダーの努力が水泡に帰すから唇から血出るぐらい耐えた。って言ってた。 」
レダー
「…そうなんだ」
夕コ
「俺がその場にいたら多分殴ってたわ。音鳴すげぇ。」
レダー
「んふふ。殴っちゃダメだよ。」
そんな話を2人に聞かせてしまったことがすごく申し訳なかったけど、正直、俺のために2人が怒ってくれたのがすごく嬉しくて、少し笑みがこぼれてしまった。
夕コに何笑ってんのって聞かれそうになったから、恥ずかしくて咄嗟に話題を変えた。
レダー
「そういえば、なんで今日の朝礼遅れたの?」
夕コ
「あ!そうだよあいつほんとにさぁ!聞いてくれよ!」
レダー
「はいはいなになに」
夕コ
「今俺と同じ部屋で寝泊まりしてんだけどさ、あいつ集合時間になっても起きねーの!!」
レダー
「へぇー」
夕コ
「俺が横でメイクしながら『おーいもうすぐ時間だから起きなー』とか『初日から遅刻する気かー?』とか言っても『うるさい』の一点張りだったんだよ!!」
レダー
「へぇー」
夕コ
「で布団から引っ張り出したら髪の毛わし掴んで『ふわふわ……』とか言ってまた寝入ってさ、しかもその手外れねぇーの!!」
レダー
「へぇー」
夕コ
「は?なんださっきから『へぇー』って、お前ほんとに話聞いてんの?」
レダー
「いや聞いてる聞いてるって」
夕コ
「うっせぇお前聞いてないだろ!!顔面全てに余すところなく『聞いてません』って書いてあんだよ!!!聞かねぇなら飲めよ!!!!!」
さっきまで静かなしっとりした空気だったのに、一体何で火がついたんだよこいつ、と思ってテーブルを見たら、酒の入ったボトルが2本空になっていた。
レダー
「えぇー…お前そんなでっかい声出してたらあいつら起きてくるよ?」
音鳴
「おい夕コ、なんかうるさいと思って来てみればお前なんやこれ…」
夕コの声で目が覚めたのか、音鳴が自室から起きてきた。
噂をすれば、の典型的な例じゃんと思ってちょっと面白かった。
でもなんかキレてたからなんでだろうと思いながら音鳴の手元を見ると、大きく『おれの!!!さわるな!!』って書かれてある空のボトルを握っていた。
そういえばこいつ音鳴のボトル開けてたな。
音鳴
「お前日本語読まれへんのんか?!?!!!これ死ぬほど高かったから勝手に飲むなゆうて釘さしとったやろがい!!」
夕コ
「うっせーなでっけー声でキンキンキンキン!!さすが音鳴さん声が大きくていらっしゃるわ!!!!」
レダー
「お前ら声デ」
夕コ
「大体さぁ!!なんだよ『おれの!!』って馬鹿だろ!!!名前かけよ!!俺のって書いてある以上お前のでもあるし俺のでもあるだろ!!」
音鳴
「はぁ!!確かにそれは俺が悪いけど!!」
レダー
「そこは認めんだ」
でかい声で言い争いを続ける2人を見て良い酒の肴だな、と思いながら一息ついていたけど、一瞬でその息を飲み込んだ。
刃弐
「おはようレダーさん、これ、なに?」
レダー
「……ハイッ」
そこには、『VanilLand』と丁寧に書かれた空のボトルを握りしめ、寝ぼけた顔で中身の重みを確認する刃弐がいた。
刃弐
「レダーさんさぁ、いい歳こいて人のボトルから盗み飲む酒が美味いんですか?」
レダー
「……はいそれはもう筆舌に尽くし難い…」
刃弐
「レダーさんって確か給料俺より上だよね」
レダー
「……ハイッ」
刃弐
「よろしくね?」
レダー
「…………ハイッ」
これならまだ音鳴のボトル開けた方がマシだった、と思いつつ音鳴たちの方を見た。
牢王
「は?!おい夕コ!!お前それ俺の成人祝いでみんなに貰ったやつ?!?!!まだ一口もつけてなかったんだが?!?!!」
夕コ
「俺も金出してんだから飲んでいいだろ!!」
牢王
「飲んでいいだろが出る? !!俺結構大事にとってたんだけど?!!」
音鳴
「夕コちゃん、あなたってほんとサイテー!!!!!」
『牢王蓮』とバッチリ書かれた空きボトルを握るろーれんが、音鳴に加わってた。
音鳴は多分今の状況が楽しくなってきて既にちょっとちょけだしてる。
あの2つの空きボトル、もう片方ろーれんのだったんだ。
夕コ
「でもこっちは元々結構減ってたし最後の方はレダーさんも飲んでた?!!」
レダー
「は?!おいなんで俺…」
そういえば1回酌された。
レダー
「待って俺は違う!!あいつに酌されて気づかなかっただけで」
刃弐
「でもレダーさん俺の酒悪びれず普通に飲んでたよ」
レダー
「…いやちゃいますやん」
牢王蓮
「いやもう関係ない関係ない2人とも普通に犯罪者だよはい逮捕」
夕コ
「いや待って?!まじで俺が開けた時既に半分ぐらい減ってたんだって!!」
牢王蓮
「いいよいいよもう言い訳は署で聞くから」
夕コ
「いやここが署?!!」
レダー
「あはははw」
もうなんかどうでも良くなってきた、って思ってたら奥からまた1人起きてきた。
芹沢
「ウルサい…なに?まだヨルなんだけど」
芹沢が子供みたいに目をこすってとぼとぼ歩いてきた。
牢王
「お、芹やん」
音鳴
「聞いてよ芹沢ちゃん!こいつら俺らの酒勝手に飲んどってん!!!」
夕コ
「まぁ不可抗力とも言うね全然」
レダー
「いや俺はわざとじゃないっていうか……」
刃弐
「いや俺の分はどう考えてもわざとでしょ」
牢王
「しかも俺がずっと大事にとってたこの酒ひと瓶丸々飲んでんだよ!!!」
ろーれんが啖呵を切ってたら、芹沢が突然そのボトルを指さして口を開いた。
芹沢
「あ、それオレがきのうノんだヤツじゃん。」
牢王
「え」
音鳴
「え」
刃弐
「え」
レダー
「え」
夕コ
「え」
芹沢
「オレもうちょっとアルコールがコいおサケがスキだから、ちゅぎはもっとコいので。」
そう言うとそそくさと自室に戻ろうとしたが、牢王はそれを許さなかった。
牢王
「おいおいおい絶対帰さんぞ???勝手に人の酒飲んどいてケチつけて帰ろうとか許されねぇよなァ?!?!!」
夕コ
「そうだそうだ!言ってやれ蓮くん!!」
音鳴
「いやお前だけは言う資格ないから」
レダー
「んははw」
芹沢
「でもノんでいいってイわれたよ」
夕コ
「え?」
牢王
「は?誰にだよ」
芹沢
「ばに」
牢王
「…は?」
音鳴
「え」
レダー
「お?」
刃弐
「やべ」
牢王
「お前やないかい!!!!!」
刃弐
「いやぁまさか俺だとはね」
音鳴
「えでもおかしくない?2人が知り合ったのって今日の朝やろ?」
音鳴の言う通り、こんなコントを繰り広げてはいるが俺たちと芹沢が知り合ったのは今日の朝礼から。それ以前に刃弐が芹沢に酒の場所を教えていたとしたら時系列がおかしい。
と言いたいところだったが、俺は理由を知っていた。
夕コ
「あー、いや芹沢とみんなを合わせたのは今日だけど、こいつ実は前から俺と一緒にここに住んでんだよね。」
そう。芹沢は怪我の療養も兼ねてしばらくここに住んでいたので、当然館の中を歩き回ることもある。かくいう俺も夜中に事務作業をして自室に戻る帰りに1度すれ違った。
別に幽霊だと思って大声をあげて怪訝な顔をされたり、今日の朝礼までしばらく怯えていたとかいう事実は一切ない。
夕コが芹沢がここに住んでいることを言わなかったのは、療養だとわかると色々察されてしまうことと、単にサプライズにしたかったんだろう。
刃弐
「夜中に目覚めちゃったからちょっと酒飲んで寝ようとした時に芹沢と出くわして、最初幽霊かなと思ったけど『お酒飲みたい』って言われたから、名前ないやつなら飲んでもいいよって言ったんだよね。」
音鳴
「お前よう この詰所におる知らんやつに抵抗なく話せんな。普通最初は不審者やと思うやろ」
刃弐
「いやなんか夕コさんの寝巻きだったし、やな感じはしなかったから大丈夫かなって」
レダー
「わかる」
牢王
「いや今の話のツッコミどころそこじゃなくね?『名前ないやつなら』ってはっきり言ってんじゃん」
夕コ
「まあまあ落ち着いて、で続きは」
牢王
「いや俺がなだめられるマ?」
レダー
「んふふw」
刃弐
「で、芹沢が牢王蓮って書いたボトル持ってきて、これなんて書いてるの、飲んでいい?ってカタコトで聞いてきたから、あぁ日本語難しいのかなって思って、それはろうおうれんって読むんだよー。飲んでいいよー。って言った。」
牢王
「言ったマ?」
夕コ
「あーそれはしょうがないね」
レダー
「刃弐も芹沢も悪くないね」
音鳴
「漢字で『牢王蓮』って書いてたもんな」
夕コ
「強いて言えば蓮くんが悪いな」
牢王
「えええええ、強いられた上で俺が悪いマ?別に強いんでもよかったでしょ今のは」
刃弐
「俺みたいにかっこよく『VanilLand』って英語で書けばよかったのに」
牢王
「いや酒イキリみたいでキツい」
刃弐
「は?」
音鳴
「いや男は黙ってひらがなやねんやっぱり」
刃弐
「俺1回音鳴のボトル勧めたんだけどね〜」
音鳴
「いやなんで勧めんねん」
刃弐
「だって名前じゃなかったし、俺あの酒の味好きだったから」
音鳴
「ハ?お前味好きってことは飲ん」
刃弐
「でも芹沢が『なんかイヤ』って」
芹沢
「ナンかいやダった」
音鳴
「おおおぉぉぉぉおおい!!!!!!」
夕コ
「それは音鳴が悪いね」
牢王
「紛れもなく1000:0でおとが悪い」
レダー
「うはははww」
牢王
「いやそれはいいとして俺の消えた酒は弁償してもらうよ全然」
刃弐
「え?やだー」
芹沢
「ちっちゃいコトでグチグチウルサい」
牢王
「は?は?は?は?」
音鳴
「おいおい聞き捨てならんなぁ」
夕コ
「わかったわかった、じゃあここは公平に飲み比べで行こう」
音鳴
「ええやんけええやんけ」
牢王
「やろややろや」
芹沢
「オレおサケつよいよ???」
刃弐
「ん負けねぇ!」
夕コ
「4人の中で一番最後まで残ってた人に、負けた3人がワンボトル奢りな」
芹沢
「エェ……オレねむいんだけど」
牢王
「おっけーじゃあ脱落ね」
芹沢
「は?!やらナイとはいってない!」
音鳴
「ええやんええやんのってきたやん」
刃弐
「これ勝ったわ」
夕コあいつ、主催になることで自分の奢りを無かったことにした。この事件の大発端のくせにまじでこういう時も頭回る。
ここで声を上げるとお前も参加しろと絡まれそうなので端で静かに見守った。俺も大概かも。
結果は芹沢の一人勝ちで、3人は泣く泣くアルコール度数バカ高のいい値段のする酒を買わされる羽目になったらしい。
ただ芹沢も少しは申し訳ないと思ったそうで、その三本は詰所の共有ボトルとしてしばらく愛飲された。俺と夕コは黙っていただけでぼろ儲けでニヤニヤが止まらなかった。
つづく
コメント
4件
主様の小説大好きです!! 続き楽しみに待ってます!!