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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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FORSAKENの神殿には、誰もが認める事実が一つある。
Mowlは優秀だ。
冷静沈着。
礼儀正しい。
紳士の鑑。
空を飛ばせれば索敵能力は神殿随一。
……ただし。
鳥としての本能だけは、どうにもならなかった。
◇
夜のフィールド「廃倉庫街」。
暗雲を裂きながら、一羽の異様な影が静かに滑空する。
頭は黒ハチワレ猫。
首から下はフクロウ。
見る者全員に「なんだあれ」と言わせる唯一無二の姿――Mowlである。
「……ふむ。」
翼を優雅に広げながら、モノクルを月明かりに光らせる。
「愚かな生存者どもめ。この闇に紛れた程度で、私めの目から逃れられるとでも。」
完璧なダンディボイス。
完璧な飛行。
完璧な索敵。
今日は実に順調だった。
……五秒後までは。
◇
プレハブ小屋の上空へ差しかかった、その瞬間。
風に揺れる何かが月光を反射した。
キラン。
キラキラキラァァァン!!
「……?」
Mowlが首を傾げる。
次の瞬間。
「ぬぁぁぁぁぁっ!?」
目に直撃。
眩しい。
とんでもなく眩しい。
屋根から吊るされていた大量の古いCDが、容赦なく月光を反射していた。
「なっ……なんですかこれは!?」
キラァァン!!
「ぐっ!」
キラァァァン!!
「またですか!?」
鳥の本能が叫ぶ。
『危険!!近寄るな!!』
猫の本能も叫ぶ。
『まぶしいニャ!!』
本能同士が大喧嘩を始めた。
「い、いけません……!」
翼が乱れる。
高度が下がる。
「姿勢を――」
バサバサッ!!
「立て直し――」
ビシィィィン!!
「……え?」
気づけば。
両足。
翼。
マント。
耳。
全部が緑色のネットに絡まっていた。
「…………。」
三秒ほど思考停止。
「………………。」
そして。
「うそでしょう。」
害鳥よけネット。
人間界ではカラス対策として極めて一般的な装備。
それが。
FORSAKENの幹部を完全拘束していた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
バタバタッ!!
「離しなさい!」
ジタバタッ!!
暴れる。
絡まる。
もっと暴れる。
さらに絡まる。
三十秒後。
猫頭フクロウの逆さ吊り標本が完成した。
「…………。」
風に揺れる。
ぶらーん。
ぶらーん。
その横ではCDがまた。
キラン☆
「煽ってますね……?」
◇
物音に気付いた生存者が恐る恐る外へ出てきた。
「……なんだ?」
「上!」
全員が見上げる。
そこには。
ネットでぐるぐる巻きになり、
逆さ吊りで揺れる猫フクロウ。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「……引っかかってる?」
「引っかかってるな。」
「鳥よけに。」
「鳥よけに。」
沈黙。
そして。
「ぷっ。」
「ダメだ笑う。」
「めちゃくちゃ渋い声なのに状況がダサすぎる。」
Mowlは咳払いをした。
「……コホン。」
逆さ吊りのまま。
できる限り威厳を保つ。
「夜分遅くに失礼いたします。」
「礼儀正しい!」
「ただ今、こちらのネットの耐久試験を――」
CD。
キラン。
「んぬっ!」
「試験を実施――」
ぶらーん。
「……しております。」
「全然説得力ない!」
その時だった。
ぽろっ。
「あ。」
モノクルがずれた。
「にゃあぁぁぁぁっ!!」
Mowlの顔色が変わる。
「私めのモノクル!!」
必死に首を振る。
逆さ吊りなので余計ずれる。
「落ちます!!」
「モノクルだけは!!」
「それだけは!!」
「お願いしますぅぅぅ!!」
紳士。
完全崩壊。
数秒後。
Mowlは静かに胸ポケットの通信機を押した。
「……スペクター様。」
神殿。
玉座の間。
紅茶を飲んでいたスペクターが顔を上げる。
「ん?」
『……助けてください。』
「どうしたの?」
『大変申し上げにくいのですが。』
沈黙。
『……網に負けました。』
「え?」
『CDにも負けました。』
「…………。」
『私めの尊厳が現在進行形で風に揺れております。』
◇
数分後。
空間が裂けた。
ドゴォォォォン!!
「Mowlーーーー!!」
スペクター降臨。
「大丈夫!?」
「スペクター様……!」
「今助けるからね!」
パチン。
指を鳴らす。
ネットが一瞬で消滅した。
「あっ。」
落ちるMowl。
しかし。
「よっと。」
スペクターが受け止める。
……ただし。
握力が強い。
「めりっ。」
「にゃあぁっ!」
「首骨が!」
「ご、ごめん!」
慌てて力を緩めるスペクター。
「怖かったねぇ!」
「網なんかに絡まって……!」
「僕の可愛いMowlが!」
頭をなでなで。
耳をふきふき。
マントをぱたぱた。
「糸くず付いてる。」
「取ってあげるね。」
「ありがとうございます……。」
「あと。」
スペクターがニコッと笑う。
「お返し。」
「あ。」
生存者たちが嫌な予感しかしない顔になる。
「君たち。」
「僕のMowlを笑ったね?」
「いや違っ」
ドォォォォォォン!!!
プレハブ小屋。
消滅。
「ぎゃああああ!!」
逃げ惑う生存者。
◇
その帰り道。
スペクターはMowlを赤ちゃんのように抱っこしていた。
「いやぁ。」
「今日も可愛かったなぁ。」
「えっ。」
「網にぶら下がってるMowl。」
「最高だった。」
「……。」
「写真も撮ったよ。」
「…………。」
「アルバムに追加した。」
「………………。」
Mowlは静かに目を閉じた。
「スペクター様。」
「なあに?」
「その写真だけは……」
「うん?」
「何卒……何卒ご容赦を……。」
「えー。」
「可愛いのに。」
「私めにも……尊厳というものが……ございますので……。」
その夜。
スペクターは慰めとして高級ササミを山ほど用意し、
Mowlは涙目でササミを頬張りながら、
「鳥よけには近付かない」
という人生……いや猫生初の教訓を胸に刻むのだった。