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FORSAKENの神殿で、一番危険なものは何か。
スペクター?
違う。
生存者?
それも違う。
「Mowlの猫の本能を刺激する物」である。
そして、その日。
神殿には最強クラスの危険物が搬入された。
◇
「届いたよ、Mowl!」
中央ホールに現れたスペクターは、ご機嫌で巨大な荷物を抱えていた。
箱には異次元通販サイト、
《AMAZ◇N》
おなじみの胡散臭い笑顔マークが印刷されている。
「人間界で最高級の猫用ベッドらしいんだ!」
ガサガサッ。
箱から取り出されたのは、
ふかふか。
もこもこ。
丸くてあったか。
《超極厚プレミアム・温熱ヒーター付きドームハウス》
見ただけで眠くなる究極の寝床だった。
「どう? 気に入ってくれるかな?」
スペクターが期待に満ちた目で振り返る。
そこには――
胸の黄色いリボンを整え、
モノクルを指でスッ…
茶色のマントを翻し、
いつも通り完璧な紳士モードのMowl。
「……スペクター様。」
低く渋い声が響く。
「私めのため、このような至高の寝具をご用意くださり、恐悦至極にございます。」
「うんうん!」
「ですが。」
「?」
「私めは成熟した紳士。」
スッ……
「柔らかい寝床で丸くなるような幼い猫ではございません。」
「そうなの?」
「ええ。」
「残念だなぁ。」
「……。」
「すっごく似合うと思ったんだけど。」
「…………。」
Mowlは少しだけ耳を伏せた。
だが、
その視線は、
ベッドではなく――
その横。
ぽつん。
無造作に転がる、
空の段ボール箱。
……
…………
………………。
ゴクリ。
(……なんでしょう。)
(あの四角。)
(あの狭さ。)
(あの角。)
(あの絶妙なサイズ感。)
(入りたい。)
(入りたい入りたい入りたい。)
猫の本能が、
全力で叫んでいた。
「Mowl?」
「……コホン。」
必死に理性を取り戻す。
「段ボールなど。」
「え?」
「野良猫の遊び道具。」
「うん。」
「私めが興味を示す理由など――」
その瞬間。
箱のフチが、
月明かりを浴びて、
スッ……
「…………。」
瞳孔、
全開。
理性、
死亡。
「…………。」
ズリ……
ズリ……
ズリ……
誰にも気付かれないように、
超低速で箱へ近付くMowl。
「Mowl?」
「これは。」
ズリ……
「耐久。」
ズリ……
「構造。」
ズリ……
「確認。」
クルッ。
お尻を向ける。
「ちょっとだけ。」
ヌルッ。
吸い込まれた。
「……。」
「…………。」
「………………。」
スポッ。
完全収納。
茶色のマントまで、
ぴったり。
黒ハチワレの頭だけが、
箱からちょこん。
「…………。」
「………………。」
「ふぅぅぅぅぅ……。」
重厚なダンディボイスとは思えないほど幸せそうな吐息。
「最高……。」
「紙の匂い。」
「角のフィット感。」
「この狭さ。」
「包まれる安心感。」
「完璧です……。」
箱に入った瞬間、
Mowlの全身から
「仕事終わりのお父さん」みたいな脱力感
が溢れ始めた。
「Mowl?」
「…………ハッ。」
我に返る。
(しまった!!)
(私めとしたことが!!)
慌てて立ち上がろうとする。
グッ。
……
……
動かない。
「……あれ?」
もう一度。
ググッ!!
動かない。
「…………。」
箱。
ジャストサイズすぎた。
「ぬ、抜けません……。」
モゾモゾ。
ガタガタ。
ゴロン。
箱だけが転がる。
「ちょ、ちょっと待ってください。」
「落ち着いて。」
「箱が私めを離しませぬ。」
「……。」
「箱側に意思があります。」
「いや、それはないかな。」
スペクターが即答した。
◇
なおも必死に脱出を試みるMowl。
モゾモゾ。
ガサガサ。
スポッ。
……
抜けない。
「……。」
観念した。
リボンを整え、
モノクルを直し、
紳士の顔を作る。
「スペクター様。」
「うん?」
「これは耐久試験です。」
「うん。」
「決して。」
「うん。」
「気に入ったわけでは。」
「うん。」
「……。」
「…………。」
「すごく気に入りました。」
「知ってた!!」
スペクター大爆笑。
次の瞬間。
ガシィィィッ!!
箱ごと抱っこ。
「可愛いーーーー!!」
「ぐにゃああぁぁぁ!!」
メリメリメリッ!!
「首骨が!!」
「箱も!!」
「同時に圧縮されます!!」
「箱入りMowl最高!!」
「お慈悲をぉぉぉぉ!!」
◇
夕方。
通りかかったアズールは、
神殿の広場で奇妙な光景を目撃した。
何万円もした最高級ドームハウス。
誰も使っていない。
その隣では、
段ボール箱に収まったままのMowlが、
紅茶(ちゅ〜る入り)を優雅に飲んでいた。
「……Mowl殿。」
「はい。」
「ベッドは?」
「不要です。」
「え?」
Mowlはモノクルをキランと光らせる。
「真の紳士とは。」
一拍置いて、
箱の内側をポン、と叩いた。
「豪華さではなく。」
ポン。
「構造美を愛するもの。」
ポン。
「この九十度の角。」
ポン。
「完璧です。」
「ただの箱好きの猫じゃないか。」
「違います。」
「違うの?」
「角を愛する紳士です。」
「言い換えただけだよね?」
「違います。」
「まだ言う!?」
その様子を見ていたスペクターは、箱ごとMowlを撫で回しながら満面の笑みで頷いた。
「高いベッドより箱を選ぶなんて、やっぱりMowlらしいなぁ!」
「……スペクター様。」
「なあに?」
「次回AMAZ◇Nをご利用の際は。」
「うん。」
「中身は何でも構いませんので。」
「うん?」
「箱だけ、捨てないでいただけると幸いです。」
「もちろん!」
「いっぱい買うね!」
「…………。」
Mowlはその返事に満足そうに目を細めた。
――その後。
神殿にはなぜか大量の空き段ボール箱が積み上がり、「Mowl専用第二別荘」「第三別荘」「第四別荘」と呼ばれる謎の箱群が誕生。
一方、高級ドームハウスはというと、結局一度も使われることなく、アズールが大事に育てている観葉植物の日よけとして第二の人生を歩むことになったのだった。
城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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