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春が散るまでの距離
4話.春の途中
放課後の空は、まだ少しだけ明るかった。
「ね、今日どこ行く?」
教室を出た瞬間、春が振り向く。
その顔は、やけに楽しそうで。
「……この前の続きだろ。“リスト”」
「あ、そっか」
春は少しだけ照れたみたいに笑ってから、
「じゃあ今日は、“遠回りして帰る”!」
そう言って、軽く一歩前に出る。
「ついてきてよ、悠真くん」
振り返るその姿に、少しだけ見とれた。
通学路を外れて、知らない道を歩く。
住宅街を抜けて、小さな公園に出た。
ブランコと、滑り台と、ベンチがひとつ。
どこにでもあるような場所なのに、
なぜか少し特別に見える。
「ここ、いいでしょ」
春が得意げに言う。
「……まあ、悪くない」
「でしょー?」
そう言って、ブランコに腰を下ろす。
ぎぃ、と小さな音が鳴った。
「悠真くんも乗れば?」
「いや、いい」
「えー、つまんない」
頬を少し膨らませてから、
春はゆっくりとブランコをこぎ出す。
前に、後ろに。
風に髪が揺れて、
その隙間から見える横顔がやけに綺麗だった。
「ねえ」
揺れながら、春が言う。
「こういうのも、“リスト”に入れてよかったと思わない?」
「……まあ」
「ちゃんとやってる感あるじゃん」
くすっと笑う。
「ひとつずつ、ちゃんとやってるっていうかさ」
その言葉に、少しだけ引っかかる。
——ひとつずつ。
まるで、
数を数えてるみたいな言い方だったから。
「次はさ」
春は止まらない。
「もっといっぱい写真撮ろうよ」
「この前も撮っただろ」
「足りない」
即答だった。
「だってさ、あとで見返したときに、“こんなこともあったなー”って思えるほうがいいじゃん」
そう言って、ブランコを止める。
こっちを見て、少しだけ真剣な顔になる。
「ちゃんと、残しておきたいの」
その言葉に、胸の奥が少しだけ痛くなる。
理由なんて、考えなくてもわかる気がした。
でも。
それを口にすることは、できなかった。
「……じゃあ撮るか」
代わりに、そう言う。
春の顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!?やった!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
距離が近くなって、少しだけ心臓が跳ねた。
「……じゃあ撮るか」
代わりに、そう言う。
春の顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!?やった!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
距離が近くなって、少しだけ心臓が跳ねた。
「ほら、早く」
「ちょっと待って、今いい感じにするから!」
髪を整えて、姿勢を正して。
でも結局、最後は少しだけ照れた顔で笑う。
その全部が、自然だった。
シャッターを切る。
その瞬間、風が吹いた。
花びらが舞い上がって、春の周りを包み込む。
「……今の、いい感じじゃね」
「ほんと?見せて!」
画面を覗き込む春。
「わ、すご。なんか映画みたい」
「言い過ぎだろ」
「でもほんとだよ。めっちゃ綺麗」
そう言って、自分の写ってる写真を見て笑う。
その笑顔を見ていると、思う。
ああ、今はちゃんと楽しいんだな、って。
無理してるとかじゃなくて。
ちゃんと、今を楽しんでる。
「ね、悠真くんも入って」
「は?」
「ツーショット撮るの!」
「別にいいだろ、それは」
「だめ。リストに追加」
勝手に決めてくる。
「ほら、早く」
半ば強引にスマホを渡される。
仕方なく、隣に立つ。
距離が近い。
思ったよりも近くて、少しだけ息が詰まる。
「もうちょっと寄って」
「これ以上は無理」
「ケチ」
文句を言いながらも、春は笑っている。
「いくよー?」
カシャッ、と音が鳴る。
写っていたのは、
少しだけぎこちない俺と、
隣で、心から楽しそうに笑っている春だった。
「……いいじゃん」
思わずそう呟く。
「でしょ?」
春は満足そうに頷く。
そのあとも、くだらないことをして笑った。
公園の中を歩いたり、
またブランコに乗ったり、
何 でもない話で、何度も笑った。
時間は、ゆっくり過ぎていく。
__終わりなんて、まだ遠いみたいに
帰り道。
空は少しずつ、夕焼けに染まり始めていた。
「今日さ、めっちゃ楽しかった」
春がぽつりと言う。
「……そうだな」
「こういうの、もっとやりたい」
少しだけ、小さな声で。
「まだ、いっぱいあるしな。“リスト”」
そう返すと、春は安心したみたいに笑った。
「うん。全部やろうね」
その言葉に、ほんの少しだけ間があった。
でも、気づかないふりをする。
__全部やる。
その言葉の意味を、
本当は、わかっているのに。
桜は、少しずつ散り始めていた。
でもまだ、終わりには遠い。
だからこのときは、まだ思っていた。
この時間は、まだ続くって。
終わりなんて、 もう少し先の話だって。