「ただ、ですね、え、はい。他の部屋ならですね、もちろん確認してもらって、大変、こう結構、ありがたいんですけど、ただ霊安室だけはね、止めてほしいんです」
言いにくそうに、口の中に石でも入っているような喋り方だった。ころごろ。小石の転がる音まで聞こえる気がする。
「でも何かあったら、僕の責任になるんでしょ?」
「いえ! それ大丈夫ですから。なりません。承知の上なんですみんな」
納得はいかなかったが、あまりにしつこく言うので昭雄も不承不承首肯した。
「あ、ついでなんですけど……」
ようやく聞いてくれた、と露骨に安心した様子で院長は話を続ける。
「どうしても、え、どうしてもですね、隣からの音が気になって気になってしょうがない、まあ、あまりにも変な、こう、叫び声みたいの、まあ、例えばですよ? 冗談みたいな。……半分ね。そういう音とか、大きすぎる音なんかが聞こえてきた場合はですね、ここに連絡してくださいね」
院長が渡してきた紙切れには、電話番号らしきものが書かれていた。
「呼べば何時でも来てくれますから。遠慮しないで。最近はあまりないらしいし」
「いや、これ、なんなんです?」
そそくさと立ち去ろうとした院長を引き留める。さすがに、奇妙が過ぎる。
「意味がわからない。きちんと説明してください」
「説明といってもね……私もよくわからないんですよ。縁起が悪いんだそうですよ。引っ張られるとかなんとか」
昭雄としては納得がいかないが、院長は自分が被害者であるかのような態度を取った。
……装った、か?
「いいじゃないですか。ここではそういうことになってるんですよ。それでずっと回ってるんです」
散々言い渋った後、捨て台詞のようにこう吐き出して院長先生は去っていった。
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