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おいおい、ロコツだなぁ。
アタシと2人きりにされちゃたまんないってか?
幾ヶ瀬の袖をチョンとつまんで出て行った。
これはちょっと傷つくなぁ。
ダンボールをまとめて縛り終えると、アタシはジリジリ玄関の方へ後退した。
言い訳がきくように手に緩衝材の入ったゴミ袋を持っておく。
足音を忍ばせて幾ヶ瀬の部屋の前まで行くと、そろりとドアを開けた。
3センチほどの隙間から中を覗く。
こういう時、狭い部屋は良い。
中の様子がほとんど余すことなく見えるんだからな。
クローゼットから荷造り用の紐を取り出したらしい幾ヶ瀬──残念ながらこの位置だけは玄関から死角になっていて見えないのだが。
未だ袖をつまむ有夏チャンに「はい」と紐を渡した様子。
そのままこっち側に戻ってきたので、アタシは慌ててドアを閉める。
見つかったわけじゃないとホッとしたのは、もう一度ソロリと隙間を開けた時、2人がキッチンスペースと廊下の際でしゃがみ込んで何かを探しているようだったから。
正確に言うと探しているのは幾ヶ瀬だけで、有夏チャンは奴の袖をつまんだままちょこんと座っているだけなのだが。
「ゴミ袋、もう少しあった方がいいよね。こないだ買ったばっかなのに勿体ないな」
クイクイと袖を引っ張られ、幾ヶ瀬は振り向く。
「どしたの、有夏?」
「明日、休めないんだ?」
でた。甘え声、出た!
「む、無理だよ。明日日曜だし。ランチの人手足りないくらいだし。俺、厨房とホールの両方しなきゃなんないだろうし」
一瞬揺らいだ様子は見せたが、さすがの幾ヶ瀬も有夏のワガママより仕事を優先させるようだ。
何だろ。他人事ながらホッとしたよ、アタシは。
「幾ヶ瀬ぇ……」
「ご、ごめんって。有夏」
有夏チャン、そのまま幾ヶ瀬の胸に顔を押し付けた。
「姉ちゃん、奇行種だから。有夏、幾ヶ瀬が一緒じゃなきゃこわいよ……」
「なるべく早く帰るから。ね! 頑張ってね、有夏」
ゴミ袋を握り締めたまま、ヘンタイメガネも有夏チャンの背に手を回す。
2人して廊下で抱き合ってる。
どうでもいいけどオマエら、アタシの存在忘れてんだろ。
お隣りさんってだけで、全然関係ないアタシに掃除させといて、自分らはイチャつくってどういう神経してんだろうな!
ゴミ袋をぶん投げそうになったが、辛うじて踏み止まる。
チュッチュと潤った柔らかな肉同士が触れ合う音がしたからだ。