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ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ貓丸
付き合い始めて一週間。
実瑠は重大な問題に直面していた。
「どうしよう。」
自室のベッドの上で頭を抱える。
恋人になった。
それはいい。
問題はその後だった。
恋人って何をするんだろう。
手を繋ぐ?
デートする?
毎日連絡する?
わからない。
恋愛経験ゼロの実瑠には難しすぎる問題だった。
そんな時だった。
スマホが震える。
一斗からのメッセージ。
『おはよう。』
実瑠は固まった。
付き合う前も連絡はしていた。
でも生徒会の連絡だけだった。
今は違う。
どう返せばいいのかわからない。
三分悩む。
五分悩む。
十分悩む。
結局。
『おはよう。』
だけ送った。
すると数秒後。
『返信きた。』
『当たり前でしょ。』
『嬉しい。』
『そう。』
送った後。
実瑠は枕に顔を埋めた。
なんなの。
付き合う前より恥ずかしい。
⸻
翌日の昼休み。
生徒会室。
玲奈はニヤニヤしていた。
ものすごくニヤニヤしていた。
「会長。」
「なに。」
「最近幸せそうですね。」
「気のせい。」
「気のせいじゃないです。」
「気のせい。」
「浜瀬先輩と付き合ってるからですか?」
実瑠は盛大にむせた。
玲奈は爆笑した。
「わかりやす!」
「うるさい!」
「会長かわいい!」
「うるさい!」
玲奈は楽しそうだった。
失恋したはずなのに。
それでも二人を応援してくれている。
そんな玲奈に実瑠は少しだけ感謝していた。
⸻
初デートは水族館だった。
待ち合わせ十分前。
実瑠はすでに到着していた。
落ち着かない。
制服ではない一斗を見るのも初めてだった。
すると。
「お待たせ。」
振り向く。
私服姿の一斗がいた。
白いシャツに黒いジャケット。
シンプルなのに妙に似合う。
「会長?」
「なに。」
「見すぎ。」
実瑠は慌てて目を逸らした。
「見てない。」
「見てた。」
「見てない。」
一斗は笑う。
その笑顔が悔しい。
⸻
水族館の中。
実瑠は意外と楽しんでいた。
クラゲ。
イルカ。
ペンギン。
どれもかわいい。
特にペンギンエリアでは立ち止まったまま動かなくなった。
「かわいい。」
思わず呟く。
「会長もそんな顔するんだ。」
「どんな顔。」
「楽しそうな顔。」
実瑠は少し照れた。
しかし。
今日は少しだけ素直になろうと思った。
本当に少しだけ。
「楽しいから。」
「へぇ。」
「……一斗といるし。」
言った瞬間だった。
一斗が固まる。
「え?」
「なに。」
「もう一回。」
「嫌。」
顔が熱い。
一斗は顔を覆った。
「反則。」
「何が。」
「そういうところ。」
実瑠は首を傾げた。
しかし耳が真っ赤になっているのは隠せていなかった。
⸻
昼食の時。
実瑠はハンバーグを注文した。
一斗はオムライス。
しばらく食べていると。
「一口食べる?」
一斗が聞いてくる。
「いらない。」
即答。
しかし。
少し気になった。
オムライス。
美味しそうだった。
その視線に気づいた一斗が笑う。
「食べたい?」
「別に。」
「はい。」
スプーンが差し出される。
実瑠は固まった。
「あーん。」
「しない。」
「なんで。」
「恥ずかしい。」
「恋人なのに。」
「恋人でも恥ずかしい。」
結局。
周囲を確認してから小さく食べた。
一斗は満足そうだった。
実瑠はしばらく顔を上げられなかった。
⸻
付き合って一ヶ月。
周囲にも少しずつ知られるようになった。
とはいえ。
二人とも目立つタイプではない。
実瑠は相変わらず生徒会長として忙しい。
一斗も進路で忙しい。
それでも。
放課後はなるべく一緒に帰った。
ある日の帰り道。
夕焼け空の下。
二人で歩いていた。
すると。
突然。
実瑠が一斗の制服の袖を掴んだ。
一斗は驚く。
付き合ってから初めてだった。
「どうした?」
「別に。」
離さない。
「別にじゃないでしょ。」
「……。」
しばらく黙った後。
実瑠は小さな声で言った。
「ちょっと。」
「うん。」
「手。」
「手?」
「繋ぎたい。」
一斗の思考が停止した。
実瑠も顔が真っ赤だった。
たぶん人生最大級に勇気を出している。
「会長。」
「なに。」
「それ反則。」
「だから何が。」
「かわいすぎる。」
「うるさい。」
実瑠は恥ずかしくなって離そうとした。
しかし。
その前に一斗が手を握る。
指を絡める。
恋人繋ぎだった。
「っ!」
実瑠は固まった。
「嫌だった?」
「……嫌じゃない。」
「よかった。」
一斗は笑う。
実瑠は顔を背ける。
しかし手は離さなかった。
⸻
春。
桜が咲く頃。
一斗の卒業式がやってきた。
式が終わった後。
校門の前には多くの女子が集まっていた。
写真。
プレゼント。
告白。
相変わらず人気者だった。
実瑠は少し離れた場所から見ていた。
すると。
一斗がこちらへ走ってくる。
「待った?」
「別に。」
「会長。」
「なに。」
「嫉妬した?」
実瑠は即答した。
「してない。」
しかし。
一斗は笑っている。
完全に見抜かれていた。
「してた。」
「してない。」
「してた。」
「してない。」
言い合いになる。
そして最後に。
実瑠は小さく呟いた。
「……ちょっとだけ。」
一斗は数秒固まった。
「会長。」
「なに。」
「反則。」
まただ。
実瑠は呆れる。
「そればっかり。」
「だって反則級に可愛いから。」
一斗は照れながら笑った。
付き合う前は気づかなかった。
付き合った後も普段はツンツンしている。
なのに。
たまに見せる素直な姿だけは誰よりも破壊力があった。
そして。
そんな実瑠を見られるのは自分だけだ。
そう思うと少し誇らしかった。
「帰ろうか。」
「うん。」
二人は並んで歩き出す。
ポケットの中には今もミルクキャンディが入っている。
最初は告白のためだった。
今は違う。
二人の恋の始まりを思い出すためのお守りだった。
春風に桜が舞う。
その中を歩く二人の未来は、まだ始まったばかりだった。
コメント
1件
ああ、もう…最後まで本当にあったかかったです🥺 ツンデレ実瑠会長の「ちょっとだけ」とか「手、繋ぎたい」が、普段の強気な姿とのギャップで破壊力やばかったです。一斗くんの「反則」連発、気持ちわかる…。ミルクキャンディが今もお守りって設定、グッと来ました。 何気ない日常をこんなに愛おしく描けるの、本当に素敵です。素直になろうとする実瑠の成長と、それを見守る一斗の優しさにほっこりしました。お二人の未来、これからも楽しみにしてますね🌷