亜季ちゃんにしては、珍しく動揺していた。
やっぱり…亜季ちゃんも能力者なのかもしれない。
でも、どうして僕にそれを隠そうとするのだろう?
僕は亜季ちゃんが能力者であろうがなかろうが、どっちでもいい。
どっちであろうと、僕の大好きな亜季ちゃんである事に何ら変わりはないのに…。
出来る事なら、何でも言って欲しかった。
亜季ちゃんの全てを受け止めさせて欲しかった。
「瑛太さんっ」
すると、亜季ちゃんは勢いよく僕の胸に飛び込んできた。
亜季ちゃんの甘い髪の香りと、柔らかい胸の感触で、今にも理性が吹っ飛びそうだった。
「亜季ちゃん…‥」
とうとう僕は我慢が出来なくなり、亜季ちゃんの肩を優しく掴み、目を“ジッ”と見つめた。
そして亜季ちゃんの唇に僕の唇を重ねようと顔を近づけた。
「ダメっ!」
亜季ちゃんは顔を背けてしまった。
「どうして?」
「どうしてもです…」
でも僕は…亜季ちゃんの体を抱き寄せ、嫌がる亜季ちゃんの唇に何度も何度もキスをした。
「イヤっ!」
すると亜季ちゃんは、僕の体を押し退けると、目に涙を溜めて睨んできた。
「ごっ‥ごめん…‥」
「そんな事したら、ダメですよ…‥」
「どうして? 嫌だった?」
「そんな訳ないじゃないですか!」
「だったら何で?」
こんなに好きなのに…。
「・・・・・。私、帰ります」
亜季ちゃんは数歩進んだ所で急に立ち止まると、一瞬後ろを振り返るような素振りをした。
でも振り向く事なく、目をこすりながら再び歩き出した。
「亜季ちゃん!」
僕は遠ざかる亜季ちゃんの後姿を、ただ眺めてる事しか出来なかった。
…‥翌日
朝起きると、いつものように亜季ちゃんにメールを送った。
でも、何の返信もなかった。
もしかしたら、まだ怒っているのかもしれない。
当たり前だ。
無理矢理キスしたんだから…。
学校に着くと、自分の教室は素通りして5組に立ち寄った。
後ろのドアから教室の中を覗くと、友達と楽しそうにお喋りをしている亜季ちゃんの姿があった。
亜季ちゃん…‥
僕は心の中で、そう叫んだ。
いつもなら、それだけで僕に気付いて笑顔で応えてくれるのに…。
でも、今日の亜季ちゃんは違った。
僕の存在に気付く事なく、何事もなかったように前のドアから出て行ってしまった。