テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【短歌】
待ち合わせ君を見つけて手を振ればそれだけなのに胸が騒いだ
【短歌をテーマにした物語】
待ち合わせは、駅前の時計台だった。
約束の時間まで、まだ十五分ある。
私は時計を見上げて、それからスマートフォンを見る。
まだ十分前。
また時計を見る。
……まだ九分。
「早く来すぎたかな」
小さく呟いて、苦笑する。
今日は、初めてのデートだった。
学校では何度も話している。
休み時間に笑ったり、一緒に帰ったりもする。
それなのに。
今日は朝から落ち着かなかった。
服はこれでよかっただろうか。
髪型は変じゃないだろうか。
何を話せばいいだろう。
昨日から何度も考えていた。
そして今。
待ち合わせ場所に一人で立っているだけなのに、心臓が妙に騒がしい。
そのときだった。
「あれ?」
人の流れの向こうに、見覚えのある姿が見えた。
彼だった。
制服姿しか見たことがなかったから、私服の彼を見るのは少し新鮮だった。
彼もこちらに気づいたらしい。
目が合う。
私は反射的に手を振った。
「おーい!」
声を出した瞬間。
胸が、どくんと鳴った。
たったそれだけなのに。
いつものように手を振っただけなのに。
どうしてこんなに緊張するんだろう。
彼がこちらへ歩いてくる。
「ごめん。待った?」
「ううん。私も今来たところ」
もちろん嘘だった。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「今日は……なんか、いつもと違うね」
彼が言った。
「え?」
「いや、服が」
「あ……」
羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し

1
頬が熱くなる。
「変かな?」
「違う。似合ってる」
「……ありがとう」
それだけの会話で、また胸が騒いだ。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
二人で歩き出す。
目的地は決めていた。
駅の近くにある大きなショッピングモール。
映画を見て、そのあと一緒にご飯を食べる。
予定はそれだけだった。
けれど、駅までの道さえ特別に感じた。
いつもなら何気なく歩いている道。
なのに今日は、隣に彼がいる。
「映画、何見る?」
「私はどれでもいいよ」
「じゃあ、これにしよう」
「うん」
話しているうちに、少しずつ緊張がほぐれていく。
映画を見て、感想を話して。
お店を見て回って。
途中で小さなカフェに入って。
気づけば、時計の針は夕方を指していた。
「楽しかったね」
彼が言った。
「うん」
本当に楽しかった。
でも、同時に少し寂しかった。
もうすぐ帰る時間だ。
駅へ向かう道を、二人でゆっくり歩く。
「また行こうよ」
彼が言った。
「え?」
「今日、楽しかったから」
「……うん!」
思わず声が大きくなる。
彼が笑った。
「そんなに嬉しい?」
「嬉しいよ」
私は素直に答えた。
駅が見えてくる。
朝、ここで待っていたときは、これから何が起こるのか分からなくて緊張していた。
今は、帰りたくないと思っている。
「じゃあ、また学校で」
「うん。また明日」
彼が手を振る。
私も手を振り返す。
そして彼の姿が人混みに消えていくまで、見送った。
一人になった駅前。
私はスマートフォンを取り出した。
今日撮った写真を見る。
そこには、映画のチケットと、カフェで撮った飲み物の写真。
どれも特別なものではない。
なのに、全部が大切に思えた。
そして私は、朝のことを思い出す。
待ち合わせ場所で彼を見つけた瞬間。
手を振っただけだった。
たったそれだけなのに。
胸が騒いだ。
きっと、今日から私は。
待ち合わせのたびに、同じ気持ちになるのだろう。
人混みの向こうに君を見つける。
目が合う。
手を振る。
そしてまた、胸が騒ぐ。
そんな瞬間を、これから何度も重ねていけたらいい。
私は今日の帰り道を歩きながら、まだ少し熱い頬をそっと押さえた。
コメント
1件
ふわっとした日常の一瞬なのに、胸のざわつきがすごく丁寧に書かれてて、読んでてこっちまでどきどきしました…「たったそれだけなのに」ってフレーズが何度も出てくるのが切なくて、特別じゃない時間が特別になる瞬間をすごく大事に描いてるなって思いました🌙 短歌とも綺麗に繋がってて、読後感が優しかったです。