テラーノベル
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【短歌】
君が弾く旋律合わせ音を出す言葉にできぬ想いを乗せて
【短歌をテーマにした物語】
放課後の音楽室には、いつも二人分の音が響いていた。
窓から差し込む夕日が、床の上に長い光を作っている。
私は楽器を抱えたまま、向かいにいる君を見た。
「じゃあ、もう一回合わせようか」
「うん」
君が楽器を構える。
その瞬間、私は少しだけ緊張する。
何度も一緒に練習してきた曲なのに、君が音を出す瞬間だけは、いつも胸が騒いだ。
君の旋律が始まる。
優しくて、まっすぐで。
その音を追いかけるように、私は自分の音を重ねていく。
一つ。
また一つ。
離れていた音が、少しずつ同じ場所へ集まっていく。
この時間が、私は好きだった。
練習だから一緒にいる。
発表会が近いから、一緒に演奏している。
理由ならいくらでもある。
けれど、本当は。
私は、君と一緒にいたかった。
ただ、それだけだった。
「今のところ、ちょっと遅れたね」
演奏を止めると、君が笑った。
「やっぱり分かった?」
「分かるよ。ずっと合わせてきたから」
「……そっか」
私は楽器を見つめた。
君は何も知らない。
私が君の音を聞くたびに嬉しくなることも。
君と練習できる日を、朝から楽しみにしていることも。
演奏が終わると、もう少し一緒にいたいと思ってしまうことも。
全部、言葉にはしていない。
「じゃあ、もう一回」
「うん」
再び君が弾き始める。
私はその旋律に合わせる。
君の音が先を進み、私の音が後ろから追いかける。
まるで会話をしているようだった。
君が音を出す。
私は答える。
君が少し強く弾けば、私も音を強くする。
君が優しく奏でれば、私もそっと寄り添う。
言葉なんてなくても、こんなにも通じ合える。
そう思ったら、不思議と胸が温かくなった。
やがて最後の音が消える。
音楽室が静かになった。
「……今の、よかったね」
君が言った。
「うん」
私は笑った。
「すごくよかった」
それは曲のことだけではなかった。
君と一緒に演奏できたこと。
君の音をすぐそばで聞けたこと。
自分の音を君に重ねられたこと。
その全部が嬉しかった。
「発表会、楽しみだね」
「うん」
君は楽器を片付けながら言った。
「終わったら、また別の曲もやろうよ」
「……え?」
「だって、二人で演奏するの楽しいし」
一瞬、何も言えなかった。
胸の奥が、ぽんと跳ねる。
「……うん。私も」
それだけ答えるのが精一杯だった。
帰り支度を終え、二人で音楽室を出る。
廊下を歩きながら、私は今日の演奏を思い出していた。
きっと私は、まだ言えない。
君のことが好きだということ。
言葉にしてしまえば、今の関係が変わってしまいそうで怖い。
だから今は。
君が弾く旋律に、自分の音を重ねる。
その音に、言葉にできない想いをそっと乗せる。
いつか、この気持ちをちゃんと言葉にできる日が来るまで。
それまでは、この音が私の代わりに君へ届いてくれればいい。
夕暮れの廊下に、二人の足音が並んで響いていた。
羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し

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コメント
1件
うわあ……このエピソード、すごく好きです。短歌がタイトルで、本文がその情景を散文で綴り直すような構成になってるんですね。音楽室の夕日、二人の音が重なる瞬間の空気感が鮮やかに浮かびました。特に「言葉にできない想いを音に乗せる」っていう発想が美しい。好きだけど言えないもどかしさと、演奏を通じて通じ合える充足感が同時に描かれていて、胸がぎゅっとなりました。27話じゃないのに一話で完結した世界としても読める、いい掌編でした。