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「トラ」
「!!」
慌てて通話を切ったものの、らっだぁさんに聞かれていた。
「しにーと話ししてたん?」
「え、は、ぃ…」
優しい笑顔。
やっぱりそれを少し怖いと思った。
「悩んでることあるなら俺に言えよ?俺だけはトラから離れたりしないからな?ずっと味方」
「ありがとうございます…」
らっだぁさんに逃げて、捕まえてもらった。
俺は1人じゃないって、寂しい思いもしなくていいって思うのに何故かほんの少しだけ物足りなさを感じていた。
背後から手を握られてびくりと肩が跳ねる。
「そういや、ずーーっとおんなじこと聞くけどノアとはなんもねぇんだよな、ホントに」
クロノアさんの家に行って、恥ずかしいことにガチ寝してしまった俺。
優しいクロノアさんはらっだぁさんに連絡をしてくれて迎えを頼んでくれていた。
ここに戻って指摘されたのは首筋の噛み跡。
自分じゃ見えないし何のことか分からず洗面台に連れてかれた。
『?、…何だこれ?』
『……』
『噛み跡?クロノアさんとこの猫ちゃんですかね?』
『お前ら同じこと言うな』
『へ?』
そのあとはお風呂場の中に連れてかれて、気絶するまで色々された。
「ないです!…お、俺の体見たら分かるでしょ…」
「ナカ、なんもなかったしな」
手を握っていたらっだぁさんの手が俺のお腹に伸びる。
「ひ、ッ」
「こんなんで感じるなんて…トラは淫乱な子になっちゃったなぁ」
「あ…あんたが、そうしたくせに…!」
素肌を撫でられて体が強張る。
「そうだよ。俺のとこに堕ちるように”いろんなこと”したもん」
いろんなこと、に意味合いがたくさん含まれてるような気がした。
「トラ」
「はい…?」
ふと感じる視線と、らっだぁさんのその視線が重なる。
「トラはホントに勘がいい時があるよな」
「なんの…こと、ですか…?」
「俺のこと怖い?」
「⁈、怖く、ないですよ?何言って…?」
「俺がトラからみんなを離したって言ったらどうする?」
「……へ?」
この人は今更何を言ってるんだろうか。
俺とみんなを離す?
「トラがあいつらと一線張ってるの、更に離したのが俺だって言ったら、…どうする?」
「そ…そんなわけ、らっだぁさんがそんなことするわけないじゃないですか…」
「俺のこと、そんなに信じてくれてんのな?」
「だって…」
言いかけた言葉を遮られる。
「可哀想で可愛いな、トラ」
「ぇ…?」
あの時のように腕を引かれて、ゲーミングチェアから落ちた。
「あれ…」
力が全く入らない。
脱力した感覚に、頭だけは素直に焦り出していた。
「でも、”俺”がいることでぺいんとやノアとこしにーと普通になっちゃたからな」
確かにらっだぁさんといることで、空けていた距離は徐々に戻っていって感じていたものもなくなっていた。
心の余裕というやつだと思う。
「そ、れは…らっらぁ、さん、のおかげれ……ぁ?」
舌が回らなくなってる。
「俺じゃなくてもよくなってきてるだろ」
「ちが、ぃ、…ま、ぅ…」
「だから、トラに決めてもらおうと思ったんだよ。俺別にNTR趣味とかねーけどムカつくじゃん。俺のモノが他のやつのモノって思われんの。だから、お前に決めてもらおうかと思ってさ」
ガチャリとドアが開く。
「くぉのぁ、さ…ん、?」
「トラゾーこんにちは」
いつもの穏やかな顔。
細められた翡翠の視線に既視感があった。
「鈍感なのか敏感なのか……トラゾーってホント、可愛いくて可哀想だね」
「呼んだのはノアだけだよ。…ぺいんとは諦めちゃねーだろうけど、他力本願なとこあるからな」
「好きなら、我慢せず手を伸ばせばいいのに。…トラゾーにこと大切なんだね、友達として」
力が抜けてフローリングに座り込む俺の足を掴んだクロノアさんが何かをはめた。
冷たい金属のようなもの。
「てか、呼んだって…俺はあなたが自分のモノになったと思い込んでる、俺のモノを返してもらうだけですけど」
「あ?トラが最終的に選んだのは俺だろ。負け犬の遠吠えすんなよ。…いや、負け猫か?」
「あなたに人の心があったことの方が驚きですけど」
チャリっと金属音が鳴る。
「まぁ、トラに決めてもらえば手っ取り早い」
「…らっだぁさんが主導権握るのもおかしい話じゃないですか?」
片脚に足枷がはめられていた。
鎖はクロノアさんの手元に伸びている。
「そういうお前も弛緩剤とか怖ぇもん持ってるな」
「え?使うのトラゾーだけなんですから別に怖くないでしょ」
「…お前怖いわー」
「らっだぁさんもね」
2人だけで話す内容は他人が聞けば信じられないことだろう。
「さて、じゃあトラにどっちのモノか決めてもらおうか」
「ま…らっだぁ、さん…」
「寂しい時に一緒にいた俺のモノだよな?」
「ずっと一緒にいた俺のモノだよね?」
俺はただみんなと楽しく一緒にいたかっただけなのに。
これはずっと変わらない思い。
「たまにこうやって我に返ることあんだよな」
下腹部を撫でられて、そう作り変えた身体はびくりと跳ねた。
「ココ、俺専用って言ったのトラだろ」
「ひぅ…っ」
「それ堕ちきってないだけでしょ」
足枷をはめられた方の足が引っ張られた。
「ぅわ、」
「完全に堕としたらトラがトラじゃなくなるだろ」
「自分だけのモノになるならいいんじゃないですか」
「……それもそっか」
逃げられない。
そう思って、本能的にドアの方にどうにか這って手を伸ばした。
ドアノブに指先が触れようとした瞬間、掴まれる。
「逃がさんって」
「逃がさないよ」
口元は笑ってるのに、その翡翠も青も全く笑ってない。
そこで合致した。
いつも視線を感じて、それを辿った先にはこの2人がいたことを。
そして、納得できた。
「「つーかまえた♡」」
自分で開けた距離と、自分で作った溝。
自分で掘った穴で逃げ場を無くした俺。
「ぁ…」
「(……ははっ)」
怯えるフリをして分からないように小さく口角を上げた。
わざと震わせた手を、諦めたフリをして2人に伸ばす。
俺の作ったそれに落ちてきてくれたらっだぁさんとクロノアさん。
ぺいんとは落ちてくれなかったけど。
しにがみさんにはちょっと巻き込んじゃって悪かったかなと思いつつ。
多分、明日から俺は表から姿を消す。
「(まぁ最初から、)」
俺をみんなと離すためにらっだぁさんが何かを吹き込んだことも知ってたし。
クロノアさんが俺の機材を触って故障させたことも、薬を使ったことも気付いてた。
ぺいんとは、あわよくば自分のところに逃げ込んでこないかと思案してるのも分かってる。
俺に対して抱く感情も随分前から知っていた。
伊達にいろんなキャラクターを演じてきたわけじゃない。
それに、人を観察する目もある方だと自負してる。
「(可哀想な人たちだな。俺なんかに騙されて)」
はたから見れば最低な人間に見えるかもしれない。
でも、寂しかったのはホントだし、みんなと距離感を感じていたのも本心だ。
ずっと我慢してたんだから、俺だって欲しがってもいいよな?
だからこそ、
「(捕まえた♡)」
墓穴を掘ったことだとしても、自ら落ちた穴だ。
俺は堕ちてきた人たちを逃さないよう、この足枷のように捕まえておくだけのことだ。
コメント
9件
まさか、trさんの計画通りだったなんて…予想の斜め上に行ってびっくりしました…いやこれも悪くないな
ふふふ(o^^o) 策士なtrさん可愛いですよねー。 理由も寂しいとかとんでもねぇ小悪魔ですよ🙄 ただ、それ以上に頭の切れる2人を相手にしてますからね…さぁ、どうなりますかね(黒笑
え、え、え、え!? まさかのそういう展開!?驚きが隠せません!?!?!?!?(`⊙д๏)!! 共依存endですか共依存endですよねこれ?! えーーまさかtrさん気づいてらっしゃったのかワオワタシビックリ 最後の最後でギョッとされました。えぇーすご✨️✨️ いやでもそれほどtrさん寂しかったんでしょうね…策士だ、、、 寂しがり屋なtrさん可愛いです(当たり前)結局どっちのモノになったんでしょう…?