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いつもより少し遅い朝に起きて秘所から垂れる子種を拭う。あんなに注いでくれて嬉しい。実を結ぶといい。下腹を撫で、ベルを鳴らしジュノを呼ぶ。お風呂の準備をお願いするとメイド長のアンナリアも手伝い、湯を運んでくれる。頭に布を巻き濡れないよう体を流す。秘所から時折子種が溢れる。勿体ないけど入る量は決まっているらしい。寝室に戻るとアンナリアが寝台をきれいにしてくれていた。
「ありがとうアンナリア」
アンナリアは微笑み頷く。天気も良く風も心地いい。テラスで遅い朝食を食べることにする。ハンクが私の懸念を払ってくれ心が軽くなってる。食事も美味しい。カイランとは子が宿るまで普通に接して、子が宿ったらその時はハンクに相談する。自分のすべきことが明確になると余裕が出てくる。その後はいつものようにゾルダークの家政を学び刺繍をし庭を散歩する。変わらぬ日々を過ごしカイランとも適度な距離を保っている。夕食後は会話もする。
いつものように庭に出て湯に散らす花を選ぼうとダントルを連れ歩いていく。ちょうど庭師が剪定をしている、また選んでもらおうと話しかける。
「ご苦労様。今日も湯に浮かべる花をもらいたいの」
庭の常連となっている私はゾルダークが雇っている数名の庭師と顔見知りになっていた。
「あら?新しい人ね。花の事は詳しくて?」
新人らしい庭師は困ったように頷く。庭師の弟子達の中には勉強中で詳しく知らない人もいる。いつも私に花を渡してくれるのは師匠の庭師なのだ。以前切ってもらったゼラニウムが近くにあるはず、それを貰おうと頼んでみる。
「ゼラニウムがあるわ。いくつか切ってもらえる?」
新人庭師は頷き花を切り出す。一本一本丁寧に切っていく。私は後ろのダントルを手招きし小声で命じる。
「動かないで」
日傘を回し呼吸を整える。邸を窺い、庭師に問う。
「貴方、どなた?」
新人庭師は切っていた鋏を止め固まる。
「どちらのなに様なのかしら」
新人庭師は帽子を上げ顔を晒した。
「ようこそいらっしゃいました陛下。閣下に御用ですの?」
庭師の格好をした陛下は碧眼で私を見つめ答える。
「よく気づいたね。もう少し遊びたかったよ」
アンダル様に声が似ている。
「ここで遊んでいらしたの?王宮にもお庭はありますのに」
私は笑顔で話す。わざわざ公爵家に変装までして国王が来る。ゾルダークに侵入など貴族には不可能。ハンクは知っているのかしら?陛下がいらっしゃるなら先触れがあるはず、それは聞いてないからお忍び。なぜ忍んでくる必要があるのか。何か悪いことが起こった?それはない、変装しているのだから遊んでいるのよ。ゾルダークの庭で遊ぶ理由…私なのね。
「どうして気づいたんだい?上手に変装してるだろ?わざわざ王宮の庭師に借りたんだよ。花も調べたから知ってる。ゼラニウム、これだろ?」
私は頷き、差し出された花の束を受け取りダントルに渡す。
「これはペラルゴニウムですわ。ゼラニウムより少し濃い色をしております。ゾルダークの花は花びらの濃淡で配置されていて、実物を見て学ばなければ解り難いですわ。それに庭師の指先は爪にまで土が入っています。陛下の指先は綺麗な貴族の指先です」
陛下は帽子を取り金髪も晒す。
「参ったね。さすがにそこまでしなかった。遊びだと言ったろ?ゾルダークへ嫁いだディーターの娘がハンクに色目を使ってると聞いてね」
それを聞いて固まってしまった。誰が何故、何処から秘密が漏れたのか。漏れたの?それならば困る。ハンクの知らないところで誰かが裏切っていることになる。裏切り者の見当がつかない。密偵?王家ならやりかねない。でもアンダル様の失敗は?ゾルダークへ密偵なんて危険なことをできるならリリアン様を消すほうが楽よ。後から策を考えるのが今までの王家……色目?ハンクに色目が利くのかしら。想像しても利いてないわ。
「閣下に小娘の色目は利きませんの」
陛下の言葉を反芻して、どうして漏れたのか考えていたら色目で結論を出してしまったわ。
「そうだね。ハンクにはあらゆる女の色目は利いたことがない」
陛下は笑いながら話す。どこかの貴族に知られるよりはいいのかしら。ハンクと陛下の仲が良いのは皆が知っている。ならば単純に心配して直接調べに?わからないわね。
「私に何をお聞きになりたいのです?」
陛下は笑顔を消し私に問う。
「君はゾルダークをどうしたいんだい?君が嫁いできておかしな方へ向かってる。ゾルダークは堅牢でなくてはならない」
陛下は詳しく知ってはいない。ハンクと閨を共にしていることだけ知っている?カイランのリリアン様への強い想いは知らない。おかしなことは言えないわね。
「ゾルダークは堅牢ですわ。必ず良い方へ向かいます。ディーターの娘としてそうでなくては困ります」
おかしくなんてさせない。私の子がゾルダークを導くのだから。目の前の陛下がいきなり慌て出し帽子を被り屈みこんだ。
振り向くとハンクが足早にこちらへ向かってきている。陛下を見ると私の影に隠れたつもりかまだ屈んでいる。
「何をしている」
「閣下、新人庭師の方ですの。ペラルゴニウムをゼラニウムと言って渡すのですよ」
ふふ、まだまだですと笑いながらハンクに話し、私は何もされてないと匂わせる。ハンクは私の側まできて、上から陛下を見下ろす。
「ここで何をしている」
怒っているわ。相手は陛下なのに、そんな言い方では不敬罪と言われても文句が言えない。
「閣下、こちらの隠れている方はゾルダークの庭で遊んでおられた陛下ですの」
だから言葉遣いに気をつけて下さいと伝えてもハンクの怒りは収まっていない様子。
「陛下、お立ちくださいな。いくら屈んでいても閣下はいなくなりませんわ」
陛下は渋りながら立ち上がり帽子を取る。
「ほら、陛下ですわ」
私はハンクに笑顔で教える。
「わかっている。だから何をしているか聞いている」
わかっていたのね。それで怒っているということはハンクは陛下の来訪を知らなかったのね。本当にお忍びね。
「やぁゾルダーク公爵、元気そうだな。ここの庭の花は素晴らしいと聞いてね。来てしまったよ」
とても爽やかな笑顔でハンクへ話す。
「貴様が行方不明になっていると家の者が騒いでいたぞ」
あら?来る予定ではあったのかしら。知らされていないのだけど。疑問に思いハンクを仰ぎ見る。
「先触れ無しで来て出迎えにソーマを行かせた」
ホールから消えていたのね。それは大騒ぎになるわ。
「近衛を怒らないでくれよ。俺に協力したんだからさ」
「閣下、陛下は御用があるのでしょう?お庭でお話しされますの?」
ハンクの怒りが増えないよう、この場から邸へ行ったらどうかと話をそらす。ハンクは私を見つめる。
「日が強い、長居するな」
いつもより長く外にいることを心配してくれる。私は笑顔で頷き、邸に戻ることにする。庭師の格好をした国王を共に歩くなんて、滅多にないわね、と心の中で笑いながら邸に入り陛下に挨拶して自室に向かう。
「ダントル、大丈夫?」
今まで陛下を目の前にすることなどなかったダントルを少し心配していた。
「お嬢、本物の陛下ですか?」
そう思うわよね。庭師の格好だもの。
「ええ、本物だったわ。王家の血には金髪碧眼が生まれるのよ。私もあんなに近くで拝見したことなかったわ」
王宮へ行っても侯爵の娘が近くで目を合わせ話すことなどない存在。本当にハンクは陛下と仲がいいのね。ならばこの事態を説明しているのかもしれないわね。
「キャスリン!無事か?」
カイランが私に駆け寄ってくる。
「ええ、無事よ。どうしたの?」
「騒がしいから下に降りたら陛下が行方不明だと使用人が騒いでた。何かあったのかと思ったよ」
国王がゾルダークで行方不明なんて、確かに大事ね。
「陛下は庭を見に外へ来たのよ。すれ違いになったのね」
「会ったのか?」
私は頷き答える。
「花が素晴らしいって仰ってくださったわ」
庭師が喜ぶわと笑顔で教える。ハンクにそう言っていたもの、嘘ではないわ。カイランは安堵したようだった。我が家で陛下に不快な思いをさせてはよくないと心配していたのだろう。