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ペイン邸の一室は、静かすぎるほど静かだった。

そこは、セレンとの一件があった後、ダフネに新しくあてがわれた部屋だ。

元々は客室の一つだったらしいが、天蓋てんがい付きの寝台のほかに、小さな応接セットのしつらえ。それらとは別に大きな箪笥とドレッサーも備え付けられていた。それでもなお、人が数名行きえるだけの余白がきちんと残っている広い部屋だった。どう考えても〝使用人のダフネ〟にあてがわれる場所ではない。

今までダフネが別の下女らと一緒に詰め込まれていた、二段ベッドが二組置かれただけで身動きも取りづらかった、四人部屋の侍女部屋とは比べものにもならない。


ダフネは背筋を伸ばし、応接セットのソファに腰掛けている。服も、今までのお仕着せとは一転、以前ウールウォード家で着ていたものに近い、華やかなドレスだ。

今着ているものは前ペイン男爵夫人――ウィリアム・リー・ペインの母親――が若かりし頃に着ていたドレスを急ごしらえでサイズ合わせしたものだが、ゆくゆくは仕立て屋を呼んで何着か新調してもらえるらしい。

(もう、本当、最高!)

つい先日までの、侍女としてこの屋敷で過ごしていた時間と、今の扱いは雲泥うんでいの差。

今まで自分をこき使っていた侍女仲間や侍女頭、それから執事なんかに丁寧に接され、お姫様扱いされるのが、自尊心をくすぐられてなんとも心地よい。

それが当然だとどこかで思っている自分に気付いても、ダフネはあえて目を逸らす。


それもこれも、ダフネ・エレノア・ウールウォードが、ダフネ・エレノア・ライオールに生まれ変わるからに他ならない。


「ダフネ嬢、焼き菓子は好きか?」

「……ええ、大好きよ」

「そうか。ではすぐに料理長に言って、クッキーを持って来させよう」

「ありがとう」


(……本当に、分かりやすい人)

視線の先では、ペイン家当主のウィリアムが、穏やかな表情を浮かべて紅茶を飲んでいた。

もちろん、自分の前にも花柄の美しいティーカップが置かれていて、琥珀色の液体が湯気をくゆらせている。

かつてダフネのことを〝主人〟として見下ろしていた男とは思えないほど、今は丁重だった。。


(私が、ライオール家の養女になると決まったからね)


医師から屈辱的な検査を受けた、あの日。そんなこともあるかもしれないと、あらかじめ手は打ってみたものの、正直医者の目を誤魔化せるかどうか不安だった。

だが、一か八かの賭けに勝てたのだとダフネが知るのは、すぐのことだった。


『ダフネ・エレノア・ウールウォード。キミを我がライオール家の養女として迎え入れたい』

『……え?』

今まで散々自分を常に敵意に満ちた視線で貫いてきていた男――ランディリック・グラハム・ライオールから、表情のない顔でそう提案された時、ダフネは何かの罠かも? と思ったのだ。

だが、すぐさま

『分からないか? それをもって今日あったことを他言しないで欲しいと提案しているつもりなんだがね』

と続けられて、納得した。これはセレンの不手際を隠すための隠蔽工作――。罠などではなく、取り引きなのだ。

『仮にもうちは侯爵家だ。悪くない提案だと思うがどうだ? うちの養女としてなら、縁談も両家のご子息と良縁が結べる可能性が高い』

リリアンナと比べられてしいたげられてきたけれど、自分は決して不細工ではない。むしろ見目麗しいと思っているダフネである。

家柄さえしっかりしていれば、きっと引くて数多に違いない。

そう考えたのだが――。

『でも……ライオール領は北の辺境だとうかがっております。私、寒いのは苦手です』

王都から離れて辺鄙へんぴな田舎町になど住みたくない。

そう仄めかしたら、すぐさまランディリックの横に立つウィリアム・リー・ペインが口を開いた。

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