微アル菊アルかも
かわいそうはかわいいに理解がある人だけ
世界には恋愛における心理学がうんとある。
代表的なものを挙げるとするならば吊り橋効果や、プラシーボ効果、他にも好きバレが効果的だのと考える人もいる。
そんな中で日本に恋をしている国の化身、アメリカは現在、フランスから入れ知恵された「押して駄目なら押しまくれ」作戦の実行中だった。 もともとこの作戦ができた元である「押して駄目なら引いてみる」という主流なものを試してみたものの、日本との距離が遠くなっただけですぐ失敗に終わってしまった。ので、愛の国化身であるフランスがアメリカに押まくれ作戦を提案したのだ。
効果はイマイチ見られないが、距離が遠くならないだけでまだマシだと思える自分がいた。この調子で作戦を続行させようと、枢軸別々で行われる会議へ出席した日のこと。
「にほーん!」
今日もいつもと変わらない明るい声色で彼の背中目掛けて飛び込み、肩に腕を回す。
「いつもに増して辛気臭い顔してるね!なんかあったのかい?悩み事ならこのヒーローに相談するといいんだぞ!すーぐ助けてあげるから!」
笑顔で自慢のトーク力を披露した末、日本の反応を伺うが、どうしたものか、彼は口を開くどころか動こうとする素振りも見せないままだった。いつもならゼンショシマスやら、珍しい時にはぽかぽかと軽い注意を受けるのだが、今日はどうも様子がおかしい。もしかしたらさっき飛び込んだせいでギックリ腰にでもなってしまったんじゃないか。
「だ、大丈夫かい?もしかしてギックリ腰ってやつ…?」
珍しくアメリカはまずいと感じ、反応を示さない日本に恐る恐る聞いた。謝ろうと口を開こうとした直後、彼は何ともない顔のまま流し目で俺の顔を見ると、スタスタと何事もなかったように枢軸メンバーの元へ挨拶に向かった。
「……?」
まさかの事態に何が起きたのか頭が追いつけず硬直しているアメリカに、通りかかったイギリスとスペインが声をかけてやるが反応はない。自分に向けられた心配する声も耳に入らないアメリカは、日本一点だけを見つめていた。
「絶っ対おかしいんだぞ!!」
枢軸国と連合国に分かれて別室で会議をしている連合室でアメリカがそう叫んだ。
「えーっと…なにが?」
困惑しながらもフランスが訪ねると、食いつくようにアメリカは事態を説明し始めた。
「今日の朝、日本に声掛けたら無視されたんだぞ」
「聞こえてなかったんじゃない?日本君って見た目によらずおじいちゃんだし、難聴なんだよきっと」
「真横で俺の声量だよ?いくら日本でも聞こえてるに決まってるんだぞ」
2、3カ月でそんなに老化が進んだらたまったもんじゃないよ。
不貞腐れながら付け加えるも、アメリカ以外の4国は日本の態度に納得しているかのように目線を合わせあっていた。誰が言い出すのか決めかねているのだろうか、はぁと小さいため息をついたイギリスはアメリカに呆れ口調で話し始めた。
「あのな、アメリカ。あの優しい日本が無視するぐらいだぜ?思い当たる節なんて腐るほどあるだろ?」
「? そんなのな……… いんだぞ」
「何あるか今の間は」
「あるってことだよね」
そう。図星である。いままで気にしてこなかったが、仕事を押し付けたり、ドアや窓を壊したり、ショートケーキのいちごを勝手に食べたりと、作戦を意図せぬところでいろいろとやらかしてしまっていた場面がもんもんと浮かび上がる。他にも俺の財布発言やら犬発言やら…。今思えば、自分ら日本の優しさに甘えすぎていたのかもしれない。よくよく思い返せばイギリスの言っていた思い当たる節が溢れんばかりに蘇ってくる。
「……謝って許してくれるかな?」
「菓子持ってった方がいいあるよ」
「あと漫画もね」
「花束なんてどうだ?」
「OK…花束以外用意して謝ってくるよ」
ばかぁ!と叫ぶイギリスは無視したアメリカは明日の世界会議のため連合国の会議を後にした。
後日。中国とフランスが助言してくれたように漫画と菓子を添えながら日本を探す。怒らないで有名な日本をあんなふうにさせてしまうくらいの失態を犯したのだ。今日のために朝起きもした。絶対仲直りしようと手荷物の袖に力を入れる。
(…そういえば、俺ってこういう機会あんまなかったかも…)
泣かせたり恨まれたりすることはあるものの、初めて本気で人を怒らせたという慣れない状況に、変な汗がでてくる。手はやけに冷たくて動きが、体が重く感じた。
コトッ。
廊下の奥から聞こえた小さな足音でさえ、自身の体が震えるには充分なものだった。反射的に足音の方へと視線を向けると、案の定、 日本が書類を抱えたまま立っていた。
「あ、えっと、GoodMorning!日本!」
弱い部分を隠すように彼に向かって明るく手を振った。ウジウジしてる自分の姿なんて見せたいはずもなく、重い体を無理矢理動かしてマイナスな思考は頭の外へ強制的に放り投げた。
「そのさ、日本。俺、改めて日本のこと考えなしに振り回しちゃってたって、反省してさ、ごめんよ。だから!仲直りの証に君が好きなマンガとかスイーツ持ってきたんだけど、」
喋るにつれて調子が良くなったのは確かだった。何も気に障るような発言なんかしていないはず。それなのに、照れくさそうに薄笑いを浮かべながら紙袋を見つめるアメリカを、日本は素通りして会議室の方向へと向かっていった。
「え、ちょ、日本!?」
そそくさと、こちらを見向きもせずに会議室前のドアノブに手をかける彼の手をとっさに掴んだ。そこから先は考えてないけど、もうチャンスはないような気がしたから。
おかしい。君は、日本はそんなことするようなやつじゃない。まずできないのが君なんじゃないか。俺の知ってる日本は、なんだかんだ優しくて、凛としたその表情が好きで、笑顔が桜のように優しくて、それで、俺の、大好きな、……
「……離してくれます?」
自分に宛てられた彼の声を、久しぶりに聞いた。ずっと聞きたかった、大好きだったはずの声はそんなにいいものではなかった。いつもより低い声には怒とかそんな感情が乗ってる気がして、頭も真っ白になるし、まともに目も合わせられない。振りほどかれた手は痛むし、鼻の奥がツンとして、涙腺が緩んでいくのがわかった。体に力が入らなくなって、座り込んでしまった自分を日本は冷徹な顔で見下していた。
嫌われた。日本に。大好き。なんで。軽蔑された。なにか。ごめんなさい。
いろんな感情がごちゃ混ぜになって、嫌われても見放されたくはなくて、日本のスーツのズボンをがむしゃらに掴んだ。
「日本、ごめん、だめなとこ、ちゃんと直すから、俺のこと嫌いにならないで、なんでもするから、お願い、 」
言葉を発するごとに涙が溢れ出る。醜いと思う。まるで子供のように思ったことを口にするのが精一杯で、それだけ言ったのなら、本人の顔だなんて見れたものではなかった。
「アメリカさん」
グスンと泣きながら下を向いたままのアメリカの頭上から、落とされるように日本は呟いた。
アメリカははっとした。
懐かしい。今度こそ大好きな声だったから。
顔を上げる前に、いつの間にかしゃがんでいた彼に抱き返された。
「嫌いになりませんよ」
そう言った彼の顔は、今も見れないままだった。
「はい?アメリカさんの様子がおかしい?」
「……そんな、私はなにも」
「ふふ、ですがフランスさんもなにやら入れ知恵してたみたいじゃないですか。アメリカさんに」
「私もそれで返しただけですよ。目には目を、作戦には作戦をと言うじゃないですか」
「よく言うでしょう?押して駄目なら引いてみろ、と」
「まぁ私に押した覚えはないんですけどね笑」
コメント
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くそっ…学校行ってた…いつも通り尊いいい!学校から帰ってきてこれを見るのは最高です⭐︎