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まぁ
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ばたっちゅ
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#一次創作?二次創作?いやわからん!
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長かった夏休みが終わり、再び日常が戻って来た。
とは言っても、少しだけいつもとは違っている。柚乃も私も大学祭の準備に向けて忙しく過ごすようになってきており、大学からの帰宅が遅くなる日も増えていた。
そんなある週末の午後のこと、部屋で作業に没頭していた私は、ドアをノックする音にはっとした。
両親は二人揃って親戚の集まりに出かけている。となると、ノックの主は柚乃しかいない。
私は椅子から立ち上がり、ドアを開けた。
途端にふわりと甘くて清々しい香りが鼻先をかすめた。シャンプーかヘアケア剤の香りかと思ったが、少なくとも私は初めて嗅いだ匂いだ。
「なんだかいい匂いだね。それって香水かなんか?」
「え?」
しまった、とでも言うように柚乃の表情が動いた。しかしそれは一瞬のことで、すぐにいつもの姉の顔に戻った。
「やっぱり分かる?これ、香水だよ。友達がつけていてね。いいな、って思ったから真似してみたの。どうかな」
「いいと思うよ。軽い感じの香りで」
今までの柚乃は、そういった類の香りをつけたことはなかったはずだ。友達を真似てと言ってはいたが、そういうものに感心を持つことになるような何かがあったのだろうかと、つい勘ぐってしまう。
「ところで、何か用だった?」
訊ねる私に柚乃は頷く。
「うん。あのね、私、これから出かけるね」
「え?そうなの?」
「学祭の打ち合わせでね。来れる人は集合って、昼前に連絡が入ってたのよ」
「そっか。休日なのに大変だね」
「まぁね。でも、やるなら成功させたいからね。それでね。夕飯はみんなで食べて来るね。今日は、お母さんたちも少し遅くなるんだよね。だから今夜の晩御飯は、詩乃一人になっちゃうんだけど、ごめんね」
「大丈夫だよ。私のことは気にしないで」
私は柚乃を安心させるように笑い、それから、姉がいつもとは違った雰囲気の服装をしていることに気づく。着ているのは、ふんわりとした可愛らしい印象のワンピースだ。
「そのワンピ、新しく買ったの?柚乃がそういう感じの服を着るのって、割と珍しいよね。すごくよく似合ってるけど」
「あ、ありがと」
柚乃は照れ臭さと気まずさが入り混じったような笑みを浮かべて、言い訳でもするかのように説明する。
「えぇと、ほら、打ち合わせとか色々終わった後、皆でご飯に行く予定だから、少しはおしゃれをした方がいいのかな、って思ってね」
「ふふっ。それじゃあ、晩御飯はおしゃれなお店に行った方がいいかもね。でも、ちょっと心配」
「心配って、何が?」
首を傾げている柚乃に私は真顔で言う。
「だって、柚乃、いつも以上に可愛いから。また変な人に声をかけられたりしたらと思うと……」
柚乃は苦笑する。
「大げさだなぁ」
「大げさじゃないよ。すでにそういう経験、何度かしてるでしょ」
真剣な顔の私に柚乃は微笑む。
「心配してくれてありがと。それにしても、妹に可愛いって褒められるのって、なかなか嬉しいものね」
柚乃は照れ臭さをごまかすかのように、冗談めかして言った。
まったく危機感のない姉に私はため息をつく。
「冗談じゃなく、ほんと、気をつけてね」
「分かってるって。帰りもそんなに遅くならないようにするよ」
柚乃は私の肩をぽんぽんと叩き、にっこりと笑う。
「と、いうことで、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私は部屋のドアの傍に立ったまま、階段を降りて行く柚乃を見送ったが、心なしかうきうきして見える姉の横顔が気になった。サークルの集まりに行くことや、皆との今夜の食事が楽しみだからなのかもしれない。けれど、今までつけたことのないはずの香りと言い、今までとは違う雰囲気の洋服と言い、引っ掛かりを覚える。
友達の影響で、そういったことに関心を持ったにすぎないのかもしれず、柚乃の変化をすぐに戸崎との関係の発展に結びつけるべきではないと分かってはいる。それでも、本当は、柚乃は戸崎と会う約束をしているのではないかと疑ってしまうのは、どうしようもない。
しかし、それから間もなくのことだ。
柚乃と戸崎が付き合っていると、私に確信を与える場面に出くわしてしまった。それを見ることになったのは、偶然だった。
その日私はサークルに顔を出し、学祭の打ち合わせなどで、いつもよりもほんの少し帰りが遅くなった。
並ぶ街灯の白い光の下、家に向かって歩いていた時、前方を行く柚乃に気がついた。
私は早速姉の元へ駆け寄ろうとした。しかし、すぐに足が止まる。なぜなら、姉の隣に背の高い人影があったからだ。
柚乃はその人物に寄り添って歩き、手を繋いでいた。
一瞬、碧斗かと思った。しかし目を凝らして見たところ、よく知る幼なじみの後ろ姿ではない。第一、碧斗と柚乃がそんな風にして歩くとは思えない。二人が互いに恋愛感情を持っていないことを、私は知っている。
二人はとあるアパートの前で足を止めた。
そこは戸崎のアパートだった。
私は近くにあった電柱の陰に身を隠し、緊張で胸をどきどきさせながら、二人の様子を窺った。
街灯の光が浮かび上がらせた男は、やはり戸崎だった。
それを見た途端、心臓をぎゅっと鷲掴みにされたかのような痛みが、私の胸に走った。
二人はエントランス前の植え込みの傍で、繋いでいた手を離した。その場に立ったまま、名残を惜しむかのように見つめ合っている。
戸崎が周りを素早く見渡すような動作をし、柚乃に近づいた。その後、柚乃から離れた彼は、もう一度姉をじっと見つめていた。
柚乃は視線を外し、おもむろに彼に背を向けた。家の方に向かって足を踏み出し、数歩ほど進んだところで足を止めた。振り返り、戸崎に向かって小さく手を振った後、後ろ髪引かれるような様子を見せながら再び歩き出した。
戸崎はしばらくの間、心配そうに柚乃を見送っていたが、姉の姿が見えなくなったところで、ようやくアパートの方へ足を向けた。
電柱に背を預けながら、私は唇を噛んだ。二人の影が重なって見えたのは、わずか数秒ほどの短い時間だった。そして、それはそういうことなのだと、さすがの私にも理解できた。
私が帰宅したのは、姉からだいぶ遅れてのことだ。
わざとゆっくり歩いてきたが、その間の数分間だけでは心を落ち着かせることができなかった。もう少し時間が必要だ。まずは自室に向かおうと考えながら玄関に入り、ドアを閉めた時、柚乃が廊下に出て来た。
「お帰り。遅かったね」
今は姉の顔を見たくなかった。歪んだ顔を見せたくない。見られたくない。私は足元を気にするかのようにわざと顔をうつむかせながら、姉に言葉を返す。
「た、ただいま」
「もうすぐご飯だって。着替えてきなよ」
「うん」
私の返事を聞いた柚乃は、後でね、と言って、リビングに入って行った。
その足音を背中で聞きながら、私はのろのろと靴を脱いだ。とにかく一度部屋に戻って表情を作る練習をしなければならない。その後ならきっと、柚乃の顔を見ることができると思うから。