テラーノベル
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「がっかりだよ……」
「なにが?」
「だから、がっかりだっていってるの!」
午前中は生徒たちが模擬店やゲームをまわる時間で、十二時からは父兄たちを優先する時間割が組まれている。
十時から始まった文化祭だが、廊下は少し隙間のある生徒たちの群れであふれ、俺たちのクラスの「バニー喫茶」も盛況というか、まぁ盛況。女子が考案しそうなケーキや紅茶がふるまわれる喫茶店だ。
ウェイトレスに扮した女子や男子は、制服に白い腰エプロンをして接待する。あとは頭につけるカチューシャなんだが、これがまたバニー喫茶だけに兎耳だ。ウェイトレス役の大翔も、耳を装着して先ほどから注文を受けている。
しかし、俺の役割は少し違って……つまり、それが現在渉に怒られている理由なわけで。
「バニーってきいたから、バニーガールを想像してたよ。けど違うだろうっていうのは、なんとなくわかってた。店員さんが兎耳を付けてるから、さっそく鳴海さんを探した。けど、いないからどうしたんだろうと思った。で今鳴海さんに話しかけられて、俺はがっかりした。分かる?この裏切られた俺の気持ち……」
「なんか……ごめん」
抑揚のない平坦な声が、心臓を圧倒するように攻め続ける。嘘をついていないと弁解しようとして、直前に口をつぐんだ。
こんな渉には火に油だということくらい、短い付き合いで学ばせて頂いた。そのため、先ほどから「ごめん」しか言えない。
ひととおり文句を言い終えた渉が、盛大なため息をついて俺を残念そうに見つめた。
「つまりさ。バニーはバニーでも、兎の着ぐるみなら最初にそういってほしいって話……」
「ごめん……」
兎の着ぐるみのなかでこもる声で、本日何十回目の謝罪をした。
渉の持っている一眼レフで、どれほど俺のバニー姿を楽しみにしていたかが分かる。俺だってやりたくないが、じゃんけんで負けたんだから仕方ないだろ!
持っている看板を適当にふって客を呼び込まなきゃいけないわけで……という言い訳も、聞かないから言わない。
「鳴海さんの馬鹿……」
「悪かったってば!」
「もう、立ち直れないな。このあと兎耳つけて、俺と校内デートしてくれない限り、傷は癒せない」
「はぁ、なんであんなのつけなきゃいけないんだよ!」
「じゃあ、傷ついたままでいいってわけだ……優しくない……」
「う……だって」
「鳴海さんは俺のことが嫌いなんだね……分かったよ、もういい」
たんたんと述べた彼が本当に泣きそうな顔をして背を向けて来たので、俺はその手をきぐるみの柔い手で引き止めた。
「分かった!分かったから!」
「いったね、鳴海さん」
そういって振り返った彼の表情を見て、こいつの二つ名に悪漢があったことを久しく忘れていた。
俺のいったことに喰らいついた悪そうな顔よ……。夢に出てきそうなほどの、嬉しそうな顔で何よりだが。
「自由時間何時から?」
「十二時から交代だけど……」
「それじゃ、俺のクラスで待ち合わせしよう。一年B組だから」
「へぇ、お前もクラスの出し物に参加するのか?」
「暇つぶし程度に参戦してやるだけさ。それじゃ、約束守ってよね」
渉が着ぐるみの俺にカメラのレンズを向けて、シャッターをきる。あれほど文句をいっていたくせに撮るのかよとツッコミをいれながら、手をあげる彼に看板をふって合図を返した。
人ごみにまぎれて行く渉の後ろ姿はとても目立つ。白髪ですらりと背が高く、放つオーラが常人と一線を画している。
それが廊下を曲がって消えるまで、見つめていた。どうして、あれが俺を好きなのか。……どうして俺なんだろう。
そうこう考えていたら、クラスの女子に働けと小言を言われたので客の呼びこみを再開した。
十二時を告げるチャイムと放送が流れ、俺はトイレで着ぐるみを脱いで制服に着替える。そして一度クラスに戻って次の着ぐるみ役にそれを渡すと、教室を飛びだそうとして重要なことを思い出す。
ちょうど大翔も自身の仕事を終え、着替えようとしているところにでくわす。
「そのウサギ耳貸してくんねぇ?」
「いいけど……つけるのか?」
「渉がつけろって五月蠅くてよ……」
「これから、デートか?」
「ちがっ……!デートじゃない!」
「それなら、今年の目玉の校庭でやってる巨大水槽魚釣りやってこいよ。校長が主催したやつ」
「だから、デートじゃないから!」
大翔の肩にチョップを喰らわして、その頭にあったウサギ耳カチューシャを強奪しその場を逃走した。
一般客も増えた廊下は、歩くたびに肩をぶつける。そのなかを隙間ぬって歩き、どうにか階段を二階分降りて一年生教室にまでやってきた。
途中開いている窓から、吹きつける風によって目にゴミが入った。そのとき目をこすっていて、ウサギ耳カチューシャをつけることを忘れていたとさっさとつけてしまう。宣伝のひとつだと思ってくれると、ありがたいという心持だ。
そうして、渉の所属するB組はどこかと探していれば、廊下に溢れるほどの人ごみが目についた。その客たちが一年B組の教室を少しでも覗こうと悪戦苦闘しているのを見て、急いでかけつける。その教室の看板には「ゲームセンター・Joker」と記されていた。
渉は中にいるのかと仕方なく人ごみをかき分けながら、最前列にたどり着く。そこでこの人ごみの正体を知るのだ。
教室には仕切られた部屋が三つあり、それぞれの部屋にトランプやチェス、将棋が設置されていた。そのうちの二つは生徒四人。扉側に口五月蠅い副校長花澤。そしてよく見知った坂崎渉が、何故かディーラー姿でチェスを囲んでいた。
「花澤……見誤ったな。チェックメイトだ」
その瞬間教室中に溢れていた観客たちが、歓声をあげた。花澤が驚愕の顔でチェス盤につっぷし、嗚咽を漏らしている。
「あんたの敗因は鳴海さんを馬鹿にしたことだ。今後一切、俺たちに近づくな。いいな!」
決め台詞のようなものを吐き捨てれば、観客の中にまぎれていた女生徒達の高い声が所々であがる。渉への称賛に混じる、彼女たちの感情が吐露されれば俺の胸がギシリときしんだ。
渉が好きだといっている子がいる。この中にふさわしい美人で頭のいい子がいるのか……俺では……。
「鳴海さん!」
名前を呼ばれて我に帰れば、目の前に彼が立っていた。近くで見れば、ディーラー姿もさまになっている。
俺が曖昧に返事を返せば、行こうと手を取られて教室から連れだされる。
しばらく、渉の歩くまま歩いてようやく立ち止まったのは三階二年の教室階だった。そこは一年と三年の教室とは違って人ごみがまばらで、今回の二年は展示で済ませたクラスが多かったと思いだす。
コメント
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うわ、めっちゃ可愛いエピソードだった…!着ぐるみバニーにされた鳴海さんと、それを散々からかった挙句「兎耳つけてデートしろ」って迫る渉の悪辣な手口が最高にいい。最後の「チェックメイト」で花澤を沈めて観客沸かせてからの、鳴海さんの前での決めゼロもかっこよすぎるんですけど。でも鳴海さんが「どうして俺なんだろう」って不安になるのもリアルで、次がすごく気になる。デート、どうなるんだろう…!
ぬいぬい
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