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そのあと、飯塚も一緒に朝ごはんを作ることになった。
それぞれ一品、ということになって、のどかが雑草料理を作ろうとし、
「いやいやいや」
とみんなに止められながら。
「だって、此処雑草カフェになるんですよっ?」
「いやいやいや」
「雑草を求めて来られるお客様のニーズにお応えしなければっ」
「来ない来ない来ない」
とみんなに止められているのどかを少し離れた位置から貴弘は眺めていた。
さっき、海崎社長と話していて気がついたんだが……。
もしかして、うちも新婚なんじゃないのか?
今、貴重な、いわゆる、新婚ラブラブな期間なんじゃないのか?
こんなところで、野郎も交えて、雑魚寝している場合ではないのでは……?
いや、このまま、のどかと結婚しているのならの話だが。
……こいつをどう思っているのか、じっくり考えたかったのに。
イケメンは次々降ってくるわ。
やり手の海崎社長はこいつが好きらしいわ。
迷う暇が与えられない!
と追い詰められた貴弘は、
とりあえず、好きと言おうかっ!
とまた思ってしまう。
だが、出会ってから、怒涛の展開で。
まるで、常に一緒に吊り橋の上で手をつないでいるようなもの。
ものすごく、のどかが気になるが、これは吊り橋効果かもしれん。
結婚するのなら、一生、好きでいられる相手をと思っていたので、まだ自信がない。
……いや、じゃあ、何故、記憶のないあの日、婚姻届を出していたのかが、ちょっと謎なんだが、と貴弘が苦悩している間にも、のどかはキッチンで他の男を褒めちぎっている。
「中原さんっ、すごいですっ」
なにがどうすごいのかと思ったら、
「私がもうどうしようもなくしていたサランラップをするするとっ!」
のどかのことは苦手らしい中原だが、真正面から褒めちぎられて、嫌な気はしていないようだった。
感情があまり表情に出ない男だが、ちょっと嬉しそうだ。
そのとき、
「おい、成瀬。
お前もなにか作れよ」
と綾太がキッチンから言ってきた。
まあ……こういうのも、学生時代のノリみたいで悪くはないか、と思いながら、
「よし。
じゃあ、アヒージョを作ろう」
と言って、
「それは夜のメニューッ!」
「仕事に行きたくなくなるだろーっ」
とみんなに叫ばれた。
「庭で食べませんか?」
とのどかが言うので、八神の家の裏にあった古い白いテーブルと椅子を持ってきて、そこで食べることにしした。
上についていたはずのパラソルは取れてしまってもうないが。
「何処のおうちにもわりとありますよね、これ」
とのどかがテーブル中央のもうパラソル部分のない棒を見ながら言っていた。
「かなりの確率で庭の隅に打ち捨てられてるけどな」
と八神が言う。
全員が座れないので、のどかと貴弘は縁側に座っていた。
縁側で猫状態の泰親と並んで食べることにしたのだ。
「気持ちいいなあ、外で食べるの。
足下が雑草だらけでも」
と綾太が嫌味なのか、ただ思ったままを言ったのかわからないことを爽やかな笑顔で言う。
「綾太、雑草と思うからいけないのよ。
此処は草原よ、草原」
と言うのどかの指には、あのシロツメクサの指輪はない。
料理をするとき、外してしまったからだ。
今はキッチンの棚の上にある。
野菜の皮といっしょにポイとかされそうだと貴弘はハラハラしていた。
いや、雑草で作った指輪なのだが。
「美味しいですね。
死体が入っていたとおぼしき冷蔵庫の中にあった食材でも」
と中原が綾太の作った、ふわとろのチーズオムレツを食べながら言う。
断定しないところがまた、それっぽく。
飯塚がフォークを取り落としていた。
もちろん、常に死体と共にある(?)八神は気にしない。
「そ、それにしても、食器結構ありましたね。
今はのどかさん、おひとりで住まわれてるんでしょう?」
と訊いてくる飯塚に、ああ、とのどかは笑い、
「この食器はもともとこの家にあったんですよ。
失踪した……かどうかはわからない前の住人さんのもので」
と言う。
飯塚がまた食べる手を止めた。
「ちなみに今、飯塚さんが履いている靴も前の住人さんの靴です」
此処に来た呪われたイケメンは、何故かみんな靴を履いていないので。
悲鳴を上げて走り去る人以外には、代々、あの玄関隅にあった呪われた靴を貸すことになっている。
大きめサイズなので、とりあえず、誰でも履くことはできるから重宝していた。
飯塚がそっと靴を脱ごうとする。
まあまあまあ、と呪いに慣れすぎているみんなが止めていた。