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【If side】
ないこが入院して1週間。まだ目を覚ましていない。今日は土曜日。いつ目を覚ますかわからないないこの状態を、ないこ自身が目を覚ましたらたくさん話してやりたいから、日記をつけ始めていた。
――――今日は晴れ。いれいすメンバーも今日はお見舞いに、10時から来る予定だ。ないこの代わりに、今は俺がラヴィを預かっている。というかないこの家に俺が言ってついでにウィルも連れてっている。ラヴィは飼い主がいない理由をよくわかっているようだ。駄々をこねない利口な犬だった。俺がリビングで仕事をしていると、目を離した隙にラヴィとウィルが寄って行き、あっという間に団子になって寝ていた。しあわせそうだ。
ボールペンと日記帳を置いて、真っ白のシーツに沈むないこの細い手を取って握る。
「……早く戻って来いよ、ばか……愛してるって言いたいから…………」
眠るないこと俺以外誰もいない病室に溶けて消えた筈の俺の呟きは、現実になって帰ってきた。
「ん、……」
「……………………………………ないこ?ないこ!?」
気付くか気付かないかくらいの力で手を握り返される。だがそれはないこの意識が戻ったことの証明で、俺の両手は確かにそれを捉えた。
「ま、ろ……………………?なん、で……ここに……っ」
目を薄く開けたないこはまだ光に慣れていないようで、目を瞬かせた。と同時にその目を逸らす。
「ないこ、俺……」
「まろ、ごめん。帰って欲しい」
「…………ないこ、なんで言ってくれへんかったの」
「……また気持ちの整理がついたら話すから、今日は帰って。お願い」
「俺、ないこのことずっと待ってたんよ。ないこが花吐き病で倒れてからずっと。病気に気付いてやれなかったことを今でもすごく後悔してる」
ないこの辛そうな顔を真っ直ぐに見て、深呼吸をした。
「俺、ないこのこと好きやから」
「……は、」
「……俺はずっとずっとないこのこと好きやから、俺にしとかへん?その人に向いてるないこの愛を、俺に向けて欲しい。その人の代わりでもええから。気が付けへんかった俺が言うのもなんやし我儘でしかないんやけどね」
気まずくてないこの細くなった手を見ながら話す。
ないこは自分の芯を持っているから、きっと俺じゃない誰かのことを諦めることはないのだろう。
でも代わりでもいいから、俺のことを愛してほしくて仕方ないのだ。
「…………まろ、それ……ほ、んと?」
ないこの声で顔を上げる。そこには、涙を流したないこの驚きに満ちた目が合った。
「え……?」
「……俺……俺が好きで好きで仕方なかったのは、まろ、だよ?」
「…………」
俺は驚きのあまり言葉が出てこず、口を魚のようにパクパクさせていた。
「はは、じゃあ俺とまろは両想いだったんだね」
困ったように眉を下げて笑うないこは、今まで見てきた笑顔の中で一番輝いていて、そして美しかった。
「俺……俺、ないこは別に好きな人がいるんやと思ってた……」
「えぇ?そんなことないよ。俺はずっとまろしか見えてなかったからね。逆にまろの方がモテてるだろうし、好きな人とかいるのかと思ってた。イケメンだし、どこまでもまっすぐで優しいし。俺のそばにまろがいるのは何度も想像しようとしたんだけど、俺とまろじゃ釣り合わないかな、って」
「…………もしかして、ないこが花吐き病になったのって……?」
「うん。まろが悪いわけじゃないんだけどね」
「今まで……その、気付けなくてごめんな」
ないこに愛されている人を羨んでいたがまさか自分だったとは思わなかった。
「改めて言わせてほしい。ないこ、お前のことが好き。ずっとずっと大切にしたい。俺と、付き合ってほしい」
「……喜んで……ッ!不束者ですが、これからも宜しくお願いします」
熱のこもった声に浮かされて、自分の顔が真っ赤になるのがわかる。
「やばい……人生で一番緊張したかもしれん…………って、ないこ?」
ないこの声が続かないので覗くと、白い肌が薔薇のようにみたいに赤くなっているのが見えた。
「…………いま、かお、みないで……//////」
「むり。ないこの照れてる顔見たい」
「もう……ッ//////」
「……あ”!他のメンバーに連絡してない!せっかくないこが起きたのに!」
「あにきに怒られちゃえッw」
「……急いで連絡してきます」
恥ずかしがっていたないこが俺をいじり始めたので、連絡を理由に少し退散させていただく☆俺はメンバーに電話を掛けるべく、一度病室を出た。
かけた中で一番最初に電話に出たのは、りうらだった。ないこが目を覚ました旨を伝えると、「今から病院行く」と即答してりうらの声がしなくなった。どうやらあにきと一緒にいたらしく、今から行こうと思っていたらしい。あにきが電話に出て、「すまんな、まろ。取り敢えず病院行ってから詳しく説明するわ」と簡潔に言われたので、わかったとだけ返事をした。いむしょーにはきっとぴよにきから連絡がいくだろう。
病室へ戻ると、ないこが苦しそうにしていた。
「ないこ⁉」
「だいじょ、ぶッ……」
やがて咳をしたないこの口から吐き出されたて布団の上に落ちたのは、窓から差し込む陽の光と同じくらいに輝いた白百合だった。
「⁉⁉」
「……やったー!治った!!!!」
俺が一人わからずにきょとんとしているところに、丁度メンバー全員が病室の扉を開いて入ってきた。
「……ないくん!!!!治ったんだね⁉」
「りうら、ずっと苦しめちゃってごめん。治ったよ」
「ないこまだ花吐いとるんやろ?治ってへんのちゃう?」
あにきの素朴な疑問に俺もうんうんと首を縦に振ると、ないことりうらが口をそろえて説明してくれた。
「花吐き病で白百合を吐くと、完治したってことなの」
「……よかった」
誰にも聞かせたくないくらい気の抜けた声が、自分の喉から漏れる。身体に力が入らなくなって、そばにいたあにきが俺の身体をベッドサイドにある椅子に座らせてくれた。
「いふくんがそんなに安心してるところ初めて見た。ほんとにないちゃんのこと大好きなんだね」
今までの涙ぐましい雰囲気はどこに行ったのやらほとけの素直じゃないレビューに一瞬静まり返り、皆がふふ、と笑った。
「まぁ何はともあれないこの病気が治ったんや、よかったんちゃう?」
「じゃあないくんが退院したら盛大にパーティーしよ!」
「ええやん!そうしよ!」
初兎とりうらの発言で場は明るくなり、成り行きで退院後のどんちゃん騒ぎな未来も決まった。
ないこの手には、一輪の白百合が収まっていた。
――間――
「ないくん自身、安心してると思うよ」
「んぇ?」
「花吐き病の話。ないくんがりうらに『話さないでほしい』って言ってたからりうらは言わなかったけど、もし病気が治らなかった時のいれいすのこととか、ラヴィのこととか、いろいろ。あのまま治らなかったら余命は多分あと半年なかったし。そういう意味でもないくんはまろに感謝してると思う」
「そ、か……それとりうら、あの時はりうらのこと責め立ててごめんな。気付けなかった自分に苛々してたんだと思う。りうらだって一人で抱え込んで大変だったろうに……」
病院からの帰り道、りうらと俺は駅に向かっていた。結局病室に最後まで残ったのは俺たち2人で、皆は先に帰ったようだった。
「大丈夫。ないくんも治ったし、りうらももう隠す必要なくなったし。ないくんのこと幸せにしなかったらりうら怒るからね」
ぷく、と頬を膨らませて俺の胸を小突くりうらに安堵する。りうらもやっと本調子になってきたようだ。
「わかっとる。俺は必ずないこを幸せにする。絶対泣かさへんからな」
「当たり前でしょ!ないくんのこと泣かせたらりうらが貰っちゃうから」
茶化しとも本気ともつかない曖昧な言い方をしたりうらに、俺は決意を胸にこぶしをぎゅっと握りしめた。
「ま、ないこが退院したらこれまでの分どろっどろに甘やかすし。心配無用や!」
「えぇ~、ほんと?」
お互いにないこのことを大切にしているのがわかり、りうらも、俺自身も安心しているのだろう。緊張の糸が解けて、一気に眠くなってくる。
「今日は早めに寝るわ、俺。ツイートだけして寝よ」
「早wwwまあいいけどねw」
駅で別れ、俺は改札を通り抜けた。
見上げた空は、美しく澄み渡っていた。
End……
ようやく完結しました。お待たせしてしまってすみません。
読了ありがとうございました!
さて、ここからは解説を。
ラヴィ (Ravi):元々は飼い犬だったものの、4歳になる直前に元の飼い主に保護施設に引き渡されたシベリアンハスキーのオス。ちなみに元の名前はライラ。好物は犬用おやつの甘いやつで、趣味はウィルと丸まって寝ること。自分を愛してくれるないこに心を惹かれた犬の1人……?1匹……?ウィルのことは良い友達だと思っている。実はちょっとだけウィルと意思疎通してたりして、お互い自分の飼い主が相手の飼い主のことを大好きで仕方ないことを犬猫公用語(?)で話したりしている。
ウィル (will):元は飼い猫だったが、母猫が産んだ子猫が多すぎて捨てられた一匹。メスみたいな見た目をしておいて実はオス。ハマチとサーモンが大好き。趣味はラヴィと丸まって寝ること。どこまでも優しくあったかく接してくれるIfを癒したいと思っている。ラヴィは相棒。鈍チンの飼い主2人をラヴィと生暖かい目で見守るのが日々の日課。犬猫公用語で話しているのがバレたらやばいと思っている。
こんな感じの適当設定です。一応これで終わりですが、続きが欲しい!というリクエストがあれば書きますので、遠慮なくどうぞ!
最後まで読んでいただきありがとうございました!