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ー夕刻
新川崎駅前にある会員制高級ホテル、グランドハイアット エイジアを見上げながら、運転席の三反園大成は、車のスピードを落としていった。
三反園は、公安調査庁長官時代の功績が評価され、柿崎と共に東京特別区捜査機動隊への配属が決まった。
そんな三反園を、横目で眺めながらひよりは、
「どこか父親に似ているな…」
と、思いながらも、ホテル裏手のコインパーキングで佇む、若い女に目を留めた。
その女は、にっこりと微笑んで手を振っていた。
まだあどけなさも残る風貌に、ひよりは少なからずも驚きを隠せないでいた。
「長官、あの子が?」
三反園はコクリと頷いて、車を女の前で停めた。
後部座席に乗り込んだ女は、ひよりを見るなり明るく言った。
その瞳は大きくて、白目は青味がかって若々しく、ちいさなハートのイヤリングが揺れていた。
「あ、柿崎さんじゃないんだね。ミタさん浮気してるんでしょ?」
その言葉に、三反園は苦笑いを浮かべて、
「紹介するよエイガ、鳥海ひより調査官だ。元陸上自衛隊のエースだったんだよ」
ひよりは、エイガと呼ばれた女に握手を求めながら思った。
この子は男の子なのだと。
それは、チョーカーに当たる可愛らしい喉仏で確信出来た。
「鳥海ひよりです」
「エイガ雫です、でも仮装身分は真鶴了、東都国際大学附属高校の3年生で、内定は決まってるの。神戸広報企画の総務部なんだって」
エイガの手は小さくて、指はピアニストの様に長くて綺麗だった。
三反園は、マイクロチップをエイガに手渡して。
「韓洋の端末に仕込んでくれ。通信記録が全て網羅できる優れものさ。使い方はわかるかな?」
「ボクはプロだよ。安心してよミタさん、バッテリーでしょ」
ひよりは、ふたりのやり取りを見ながら感じていた。
エイガは、三反園を好いていて、その想いを三反園は利用しているのだろうと。
「エイガ、韓とは何時に落ち合う約束かな?」
「えっとね、17時だから行かなくちゃ」
「気を付けて、3時間後にメール出来るかな?」
「うん。大丈夫だよ。だってエッチするだけだもん、平気平気」
エイガは悪戯っぽく笑った。
その幼い表情は痛々しく、ひよりは思わず目を逸らした。
三反園は、分厚い茶封筒をエイガに渡して、
「それ、大事に使うんだぞ。妹さん、来年受験だろ?」
「うん。ありがと」
「時間内にメール無かったら踏み込むから、その腹づもりでいてくれな」
「あいあいさあ!」
エイガはウインクして車を後にした。
振り返りながら、何度も手を振るエイガを見ながらひよりは呟いた。
「まだ子供じゃないですか…」
エイガの姿は、グランドハイアット エイジアに吸い込まれて行った。