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同じ頃東京区葛飾青砥
遺体発見エリア近くの中華料理屋で、亀山と和久井は遅めの昼食をとっていた。
和久井の前には、水餃子と広東麺、そして春雨サラダが並べられ、亀山の前には半チャーハンとワカメスープが置かれていた。
職務中という理由で、2人はノンアルコールビールで喉を潤した。
乾杯を終えて、もしゃもしゃと水餃子を頬張る和久井を見ながら亀山は、
「それさ、美味しい?」
和久井は、不思議そうに首を傾げて、
「はい。美味しいですよ。ぷりぷりですよ」
「ふうーん…」
「それが、どうかしたんですか先輩?」
「あ、いや別に…てか、先輩はよそうよ。一応特捜では同期じゃん!」
「判りました、気を付けます」
「カメでいいよ」
「いや、それは流石に…」
「なんで?」
「人をあまりあだ名で呼んだことがなくて…」
「ふうん…」
和久井は、笑いながら水餃子を頬張った。
亀山は、切断された遺体の表皮と、水餃子の薄い皮がダブって見えて仕方がなく、これ以上食べる気がしなかった。
それに、死臭も身体中に染みついていた。
「わくちゃんさあ?」
「はい?」
「出身大は何処?」
「帝都医科大です」
「そうなの?それで生活安全課?」
「まあ…」
和久井は口を濁した。
和久井の父は、東京中央大学病院の医師で、法医学の権威でもある。
名の知れた父親は、東京ジェノサイドの影響で、行方不明になってしまった。
ふたりの親子関係は、とうの昔に破綻していた。
だから和久井は、過去を詮索されるのを嫌ったのだ。
「先輩は…」
話を強引に誤魔化す技は、知らぬ間に身についていた。
それは、和久井の護身術だった。
亀山は、急な質問に困惑しながら、
「オレ?」
「ハイ、サイバーポリスだったんですよね?けど、空手でオリンピック出てませんでしたっけ?」
「おっ、ちょいちょい!予選敗退だって!」
「けど凄くないですか!?」
「凄かねー!メダル採れねー!」
亀山は笑った。
和久井も、広東麺を啜りながら笑った。
死体を目の当たりにした数時間後、息をしながら会話をし、笑いながら食事する現実が幻夢の如く流れていく。
特捜機動隊員としての自覚と覚悟の狭間に、ふたりのチグハグなやり取りは埋没した。
味覚は、何も与えてはくれないでいた。