空の上。そこには、天界という世界が広がっている。その世界では死者となった天界人が輪廻の次の段階に進むまでを過ごすことになっている。
もちろん天界にもこちらと同じような世界が広がっている。
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まるで天界と下界は鏡合わせ、実は天界にも死に似たような現象がある。
時間とともに天界人は輪廻を次の段階へ進めることができる。天界人は新たに下界におり、人間として生きるのだ。
先程から記されている「輪廻を次の段階へすすめる」というのはいわゆる死のことであり、天界人にも寿命のようなものがあるということである。
寿命を全うしたら人は死ぬ。それは天界でも同じことなのだ。
ただし、その輪廻の歯車を乱す出来事が起きた。
天界での争いが起きたのである。
天界人は天界での天寿を全うすることができず、途中で殺されてしまうこともある。中には自殺してしまう天界人も現れた。
死ぬと輪廻を次の段階へすすめる。
つまり、下界へ降りてくるということである。
中途半端な死は怨念もこもっている。このような感情を負の感情と呼ぶ。
負の感情を持ち降りてきた天界人はその感情により凶暴化する。形が変形する天界人もいることから、全ての変化を「異形化」と呼ぶ。
異形化した天界人に対処すべく、下界の人間は今日も戦っている。
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「――おい!!どこだよここ…ていうか起きろ!」
目を開けると見知らぬ路地裏にいた。ここはまるで下界のよう――
キョロキョロと周りを見回す。
「俺…なにを…」
「起きろ翠。」
幼い声が聞こえる。ん?待てよこの少し厳しい口調…
「ディアさん…」
「ようやく気がついたか!どこなんだここ!」
目がはっきり覚めた。体を起こす。
目にディアさんの姿が見える。あれ、なんかちっちゃくないか…?
「失礼ですがディアさん…なんかちっちゃくないですか…?」
薄暗い路地裏でもわかる。ちっちゃい。
「そうなんだよ!いつからこうなったか知らないが!」
一旦咳払いして続ける。
「それも一大事だが…お前が呑気に寝てる間に少し見て回ったんだ。ここは我も知らない世界だった。ようするに…」
「推測だが、ここは下界だ。我とお前は堕ちた。」
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堕ち…た…?
この俺が…?
精一杯頭を使って考える。
俺はまた反逆軍と争ってて、ディアさんと一緒に戦ってた…そして…あれ、ここからもう分からない…
俺はいわゆる「天界の大戦」を鎮めるヴィンデア大聖軍という天界の軍に所属していた。ディアさんは俺の上司にあたる。反逆軍と戦っている時に信じられないが死んでしまったようだ。堕ちれば下界では知能が低下し人ではいられなくなる地獄と聞いたので堕ちぬように生きてきた。はずなのに。
「俺ら…これから異形化するんですか…?」
あまりの恐怖に身震いして聞いてみる。
「いや」
ディアさんは答える。
「もう異形化は終わっている。」
「…え?」
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全て推測だが妙に説得力のある解説をディアさんは語った。
堕ちた俺らは異形化するはずだったが、何らかの都合で異形化は軽く済み、ディアさんは弱体化して、俺も能力を失ったということである。
「ところでディアさん…頭のそれ、なんですか。」
小さいディアさんの頭には黄色く光る星のような飾りがあった。
「これは…我の髪飾りではないか!…なんか小さくないか…なんか子供っぽく見えるじゃないか!」
わざとらしい大きな咳払いをしたあと、
「とりあえず、下界を見回ってみよう。どさくさに紛れればなんとかなるだろう。」
と言って先に光の方へ行ってしまった。
しかし本当に不思議だ。
腕の無数の切り傷は消えている。顔も、脚にしていた切り傷も。
「こら、早く行くぞ。」
俺は起き上がり光の方へ向かった。
続く
おまけ
今回の登場人物
翠
天界から堕ちた天界人。能力が衰弱してしまった。一人称俺、この物語の主人公。1000歳ぐらい
ディアさん
天界から堕ちた天界人。こちらも能力が衰弱した。一人称我、異形化して何故か幼児化してしまった。
3000歳ぐらい
これから天界の話はしばらく出ません
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