三話
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予鈴が鳴り響くと、大きな足音を立てて男子数名が教室になだれ込んできた。
「掴むなってバカ!w」
「はい俺が先~!w」
競争をしていたのか、お互いの服を掴み合いながら騒いでいる。他の生徒達の机にも容赦なくぶつかっていて、私の机も斜めになり、ペンケースが勢いよく床に落ちてしまった。
その衝撃でプラスチック製の蓋が開いてペンが散らばる。近くの椅子の脚に弾かれると、ペンが遠くまで転がっていく。取りに行こうと一歩動いたところで誰かが拾い上げてくれた。その相手を見て息を呑む。
―――間宮廉くん。
深く刻まれた二重のラインとつり上がった目尻。口角は不機嫌そうに下がっている。
近寄り難い威圧感があり、口数が多いわけでもないのに目立つ存在だ。
そして纏っている真っ赤なオーラは意志の強さを表していた。此の色は、物事をはっきりと口にする人で頑固なところがある。
自分のほうが先に着いたと巫山戯ながら言い合いをしている男子達を間宮くんが睨みつける。
「おい」
彼が一言発するだけで、場が凍りついた。
「ぶつかってんだろ」
「……わりぃわりぃ!」
空気を和ませようとしたのか、へらりと笑って男子が彼の肩に手を置こうとすると、間宮くんがそれを払い除けて、
「うぜぇ」
と一蹴りする。
男子達の表情が強張り、空気がより一層重たくなった。
周りの反応なんてお構いなしといった様子で、間宮くんは視線を私に向け、歩み寄ってくる。彼の圧に押しつぶされそうな感覚になり、金縛りにあったように動けなくなった。
近くまでやってきた間宮くんは無言でペンを私の机に置く。そしてすぐに背を向けてしまった。
「……ぁ、ぁりが、とぅ..」
口の中が渇いて、声が掠れる。既に離れた席へ戻った彼には、私の言葉なんて届かなかったかもしれない。
「…なんだよあいつ」
「ねえ!さらのペン散らばってるんだけど!ちゃんと拾ってよ!」
不服そうに間宮くんを見ている男子の腕を美玖が軽く叩く。
「ごめん」
男子達は気まずそうにしながらも、ペンを拾い集めてくれた。
ケースに仕舞い終わると、離れた場所にいる彼に視線を移す。
間宮くん何事もなかったかのように頬杖をついて退屈そうにしている。
彼に近く人は誰も寄り付かない。
「喧嘩でも始まるかと思った~…」
「ぇ、あれくらいで…?」
「だって間宮くんってぶつかっただけで他のクラスの男子を殴ったらしいよ?」
女子達が小声で話しているのが聞こえてくる。
彼がクラスで浮いているのは、言いたいことをはっきり口にする性格だからではない。
入学して二週間で問題を起こしたことが原因だ。
校内でタバコを吸い、さらには暴力沙汰を起こして一度停学になった。
その後、喧嘩っ早いという噂が消えず、態度も素っ気ないことからクラスの男子達も積極的に関わろうとしないのだ。それに間宮くん自身も自ら話しかけに行くことは滅多にない。
ペンを拾ってくれたことは感謝しているけど、言葉がキツくて周りのことなど気にしていない様子の彼のことが私は少し怖かった。
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next三話
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