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愛日
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🩷「もう! ちょこまか、すばしっこいなー!」
🤍「阿部ちゃん! そっち行った!」
その日は渡辺と目黒が別の依頼で不在、岩本と深澤が警察に行き、向井はカフェで接客中だった為、ラウール、佐久間、宮舘、阿部の四人で市からの依頼現場に来ていた。
依頼内容は、桜ノ杜公園という都市公園でヒョウを見かけたという通報が相次いでいて、警察に相談したがケガ人が出るだけで対処できなかったので、特務調査局で対応してほしいというもの。
素早いヒョウを相手にするのに、瞬間移動のできる佐久間、捕獲網の入ったランチャーを持ったラウール、氷で捕獲できる宮舘、作戦参謀と電気で麻痺させることのできる阿部が赴く事になった。
昼間は大丈夫だが、夕方以降に見る事が多いという。
だから昼の間に調査を済ませ、相手が通常の動物ではなく異能持ちである事を突き止め、夜になった現在はそのアムールヒョウと格闘中だ。
佐久間が瞬間移動で回り込んだり行く手を阻んだりとアムールヒョウを翻弄し、ラウールが狙いを定めてネットを放つが、強化された鋭い爪で切り裂かれてしまった。
🤍「強化系の異能はキツいよー」
💚「ラウのネットで強度が足りないとなると、舘様の氷でもどうか……一瞬でいい、動きを封じてくれたら電気で麻痺させられるかも」
❤️「佐久間はそのまま足止めして、俺が動きを止める。それでいい?」
💚「うん。佐久間、舘様、頼んだよ」
🤍「僕も、阿部ちゃんの方に誘導できるように動くね!」
💚「ラウは無理しないでいいからね」
🤍「大丈夫、任せてよ!」
そうして皆が行動し、冒頭へ戻る。
阿部の方に向かって来るアムールヒョウは鋭い爪を光らせており、避けようとした阿部だったけれど、背後に木がある事に気が付いた。
目が碧色に輝いて手を前に出すと、電磁波がシールドとなってアムールヒョウの動きを止めると同時に、アムールヒョウの筋肉を弛緩させる。
💚「舘様!」
声に呼応するように、アムールヒョウの真下から氷が突き出して一瞬にして氷漬けになった。
ピクリとも動かないアムールヒョウに、阿部はその場に座り込む。
❤️「阿部、平気?」
💚「ごめん。ギリギリ間に合ったから大丈夫」
🤍「阿部ちゃん。何で避けなかったの? 危なかったのに」
💚「この木、なんか守んなきゃって思って。傷ついてほしくなかったしね」
🩷「阿部ちゃんらしいね」
❤️「このヒョウ、どうする?」
💚「動物専門の異能力研究機関で調査するみたいだよ。保護して育てて、異能力を暴走させないように調整するんだって。だからあとは、市長に任せて終了だね」
🤍「じゃあ、連絡するねー」
ラウールが電話をし始め、本当に凍って動かないのか心配でアムールヒョウを見つめている佐久間と、そんな佐久間を微笑みながら見ている宮舘。
その様子を眺めつつ、阿部は背後にそびえる桜の木を見上げる。
💚「傷つかなくて良かった。また綺麗な桜、咲かせてね」
そっと木に触れてそう言う。今は桜の時期ではないから、満開の桜が咲いた時に見に来ようと思った。
その翌日から、阿部の周りで不思議なことが起こり始めた。先ず、事務所の机に花が一輪だけ置かれるようになった。
それは毎朝置いてあるが、いつ誰が置いているのかは不明。
次に、気付いたら頭に花冠が乗っている。
「お姫様みたーい!」
女の子にそう言われて初めて気が付いて、慌てて取るものの捨てる気にならず、家には花冠が増えていった。
そして更に、こんな噂話が出回り始める。
🤍「白のお姫様に会えたらいいことがある! だって。ねね、この白のお姫様ってさ、阿部ちゃん?」
💚「えっ、俺? てか、なに? その噂」
🤍「んー。なんかね、今日、僕と佐久間くんで小学校に防災教室に行ってきたでしょ?」
💜「ああ。異能についてちゃんと知ろうって教室ね」
🤍「そうそう。そこでね、子ども達が何人も言ってたんだよ。ね?」
🩷「めっちゃ言われたわ。みんな知ってるみたいだったよ。で、そのお姫様ってお兄ちゃん達のとこの人だよね? って。思い当たるのなんて白耀の姫くらいじゃん?」
💚「ええー。俺に会ったってなんもないよ?」
💜「いやでも、確かになんか最近、やたらみんな調子いいというか。なくしたと思った鍵が、阿部ちゃんといたら見つかったとか。阿部ちゃんと買い物に行ったら、信号待ちが一個もなく着いたとか。捻った足が阿部ちゃんに会ったらら急に治ったとか」
💚「そんな些細なことで?」
🤍「子ども達の話でも、いいことがある、だったからそんなもんじゃない?」
🩷「あとほら、最近毎日、机に花が置いてあったり花冠が乗ってたり。なんかあるんでしょ、きっと」
💚「確かに、そういうのは続いてるけど……なんだろ?」
自分の身の回りで何かが起こっているけれど、これといって困る事もないし、害になるようなものもない。
しいて言えば、花冠が少し恥ずかしいくらいだ。
💙「ただいまー」
💚「あ、翔太、めめ、おかえりー」
🖤「久しぶりに戻って来れましたー。なんか、すでに懐かしい」
💜「岩手までご苦労様。報告書はゆっくりでいいよー」
💙「助かる」
疲れたような顔でソファの方に向かってくる渡辺だったが、阿部を見てその場で止まってしまった。
💙「阿部ちゃん……なんかめっちゃ好かれてんね」
💚「えっ、なんのこと?」
💙「見えてないのか。阿部ちゃんの肩に、花の妖精が乗ってる」
🩷「花の妖精?」
🤍「妖精っているんだねー。僕、初めて聞いたかも」
💙「かなり珍しいよ。俺も会ったのは三回目かな。最近、変わった事とかなかった?」
💚「あるある。その話してたんだよ」
そこで、ソファに座りながらここ数日に起こった事を話し始めた。すると、渡辺も目黒も納得したように頷いている。
🖤「そうでしょうね。凄い好きってすぐ分かるくらいには愛で溢れてる」
💚「めめも見えるの?」
🖤「しょっぴーほどハッキリはしてないけど、そこにいるのは分かるし、感情も雰囲気でわかるよ」
💙「で、なんでこうなったわけ? 阿部ちゃん、なんかした?」
💚「えー? 特に何かした憶えないんだけど」
💜「でもあの日からだよね? 阿部ちゃん達がヒョウの保護に行った次の日」
🤍「ヒョウの保護……あ! 阿部ちゃん、あの木! 多分あれだと思う!」
車で数十分のところに桜ノ杜公園は位置しており、賑わう公園内に入っていく。
そして、公園の中央に位置する円形の大きな囲いの中に聳え立つ、一際大きな桜の木のある広場に入った瞬間、皆がその光景に目を奪われた。
堂々と咲き誇っている、白に近い淡い薄桃色の桜。
それは圧巻の一言だった。
💙「エドヒガンの桜か。どうりで、花の妖精がいるわけだ」
🖤「もう神木になってる。数百年、ずっと愛されてきて妖精が宿ったんでしょうね」
🩷「でもなんで、桜咲いてんの? 時期なんてとっくに終わったのに」
💚「あっ。俺のせいかも……」
💜「えっ?」
💚「また綺麗な桜、咲かせてねって、この木に言った……」
瞬間、皆が「あー……」となんともいえない表情になった。
💚「いやでもそれは、今すぐってことじゃなくて、また来年って意味で……」
💙「でも阿部ちゃんに、恩返ししたかったんだと。ずっとここで親しまれてる木ではあるけど、ちゃんと手入れしたり話しかけたり、そういうことをする人はほとんどいないって。だから、守ってくれたのも触れてくれたのも話しかけてくれたのも、全部が嬉しかったんだと」
💚「そうなんだ……無理させちゃったようで申し訳ない……」
🖤「違うでしょ。阿部ちゃんに喜んでほしくて頑張っただけ。無理はしてないみたいだよ。一週間くらいで枯れて、また来年、ちゃんとその時期に咲くって」
💚「そっか。それなら良かった。ありがとう、とっても綺麗な桜を見せてくれて。あと、机のお花もちゃんと飾ってて、今、ドライフラワーにしてるからずっとお部屋に飾っておくね。たくさんの花冠もリースにするよ」
そう言って微笑むと、桜の花が風もないのに舞い散り、辺り一面が桜の花びらで埋め尽くされた。
💙「大事にしてくれてありがとうって」
💚「こちらこそだよ」
🤍「あ! そうだ! ねね、来年からさ、ここでお花見しない? 昼間だと邪魔になるから、夜とか! どう?」
💙「……賑やかなのは好きだから、嬉しいって」
💜「花の妖精がいいなら、いいんじゃん? その代わり、騒ぎすぎんなよ」
🩷「任せとけ!」
💜「お前に言ってんの。一番うるさいヤツがなに言ってんだ」
🩷「ええー」
わいわいとはしゃぐ皆の姿を見ながら、阿部はもう一度、エドヒガンの桜の木に触れ、心の中でありがとうと呟いた。
それから三日後、妖精からの贈り物はなくなり、少し淋しさを憶えつつも、また会いに行くからねと阿部はそっと机を撫でた。