テラーノベル
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#💛💜
愛日
1
ピンポーンと目黒の自宅のインターホンが鳴り響く。
慌ててドアを開けるとそこには、優しい顔の阿部が立っている。
💚「めめ、おはよ!」
🖤「おはよう、阿部ちゃん。ごめん、もうちょっと待っててくれる? まだ準備できてなくて……」
💚「大丈夫だよ。俺が早く来すぎちゃっただけだから。上映時間まではまだあるしね。めめはめめのペースでいいんだよ」
🖤「……ありがと。じゃあ、上がって座ってて」
💚「ん、おじゃまします」
家の中に入り、リビングのソファにちょこんと腰かける。
黒が多めのモノトーンカラーで揃えられた室内は、落ち着いた雰囲気だ。目黒にとてもよく似合っていると思う。
ベッドルームと思われる部屋の中に入っていった目黒が出てきたのは10分後。
🖤「待たせてごめん」
💚「大丈夫だって。そんなに謝らないで? 逆に気を遣わせちゃってごめん」
🖤「阿部ちゃんだって謝ってるじゃん」
💚「ふはっ、ホントだ」
思わず笑みが零れる。
🖤「じゃ、行きましょ」
今日は目黒と阿部が休日になり、普段から事務所か家に籠ってばかりの阿部を誘ったのは目黒の方だ。
特に予定のなかった阿部は二つ返事で了承し、こうして朝から待ち合わせる事になった。
目黒の家を出て歩き始める。
🖤「俺が阿部ちゃんのこと迎えに行けば良かった。そしたら待たせなかったのに」
💚「どうだろ。めめのこと待ちきれずにやっぱり俺が迎えに行っちゃうかも」
🖤「あ、確かに」
💚「起きるのも俺の方が早いし、どうやっても俺が先になっちゃうからね」
🖤「……もっと早起きします」
💚「いいって。俺、待つのも嫌いじゃないよ? めめの家に入るの初めてで、ちょっと楽しかったし」
🖤「あれ、そうだっけ?」
💚「そうそう。意外と、メンバーの家って行かないよね」
🖤「いや俺、康二とか佐久間くんとかラウールの家によく行ってるよ」
💚「えっ!?」
🖤「ってか、阿部ちゃん以外は割と行き来してるんじゃないかな」
💚「……知らなかった……」
🖤「阿部ちゃん、いっつも異能使って疲れちゃうから、みんな休ませたがるんだよ。俺もそう。休みの日くらいはゆっくりしてもらいたいし」
💚「俺だって、休日に出歩く事はあるよ?」
🖤「……心配なんで、今度からは誰かと一緒に行ってください」
💚「何で?! 俺、子ども扱いされすぎじゃない?」
🖤「そんなことないよ。そもそも阿部ちゃんのプライベートって謎だよね。チャットアプリでも言わないし」
💚「いや、言う程のことしてないんだよ。家で勉強したり、図書館行ったり、本屋さん廻ったり……」
🖤「勉強だらけ……それ、休めてるの?」
💚「休んでる、休んでる。俺にとってはリラックスの時間なの」
🖤「……今度、一緒に図書館行ってもいい?」
💚「興味あるの?」
🖤「阿部ちゃんがどういう本読んでるとかなら、興味あるかも」
💚「ふはっ、何それ」
🖤「俺は真剣だから」
💚「はいはい。じゃあ、今度また一緒に出掛けようか」
🖤「じゃあ、約束」
💚「ん」
小指を出してきた目黒に、阿部も小指を絡ませる。
大人になっても指切りをするとは思っていなくて、少し気恥ずかしさはあるけれど目黒は至って真剣な顔をしているから、胸の内に秘めておく。
そのまま二人で隣町まで向かい、宇宙科学館へと入っていく。お目当ては、プラネタリウムだ。
「あと15分ほどで上映が始まります」
💚「時間、ちょうど良かったね」
🖤「ですね」
💚「チケット買ってくるよ」
🖤「待って。俺、もう買ってあるから」
💚「えっ、早っ。準備いいね」
🖤「それだけ楽しみだったってこと。ほら、行こう」
阿部の手を握ってプラネタリウムの入口の方に行き、係員にチケットを見せて中に入る。中は青みがかった間接照明が館内を静かに満たし、まるで夕暮れ前の空のような穏やかな明るさを作り出している。
広々としたドーム状の室内に入り、幅広の階段をゆっくりと降りていく。
🖤「ここです」
目黒が案内してくれたのは、足を延ばしても平気なくらい大きな楕円形のソファシートが並んだ場所。二つのソファで一つになるようにくっつけて置かれているが、ソファ自体は一人用のサイズだ。
💚「うわ、凄いね。贅沢だ」
🖤「これでゆったり見られそうだなって。それでここにしたんです」
💚「なるほどね……わ、ふかふかだあ」
靴を履いたまま仰向けに寝転がってみる阿部を見てから、目黒も同じようにソファに寝転がっている。
🖤「ホントだ」
💚「ヤバ。これ寝ちゃわないかな……」
🖤「いやでも、このまま寝れたらめっちゃ気持ちよさそう」
💚「分かる。絶対いい夢見れる」
小声で話しながら、ふふっと笑い合う。
それから間もなく、室内の照明が落とされて天井に星空が映し出される。満点の星空は、どこで撮影されたものだろうか。
「目を閉じて、一度だけ深く息を吸ってみてください。次に目を開けた時、そこには昼間とはまったく違う世界が広がっています。夜空は、静かにあなたを待っています。今宵は星空の旅へようこそ。さあ、果てしない宇宙への旅を始めましょう」
ゆったりとしたBGMと共に、落ち着いた男性の声で物語が紡がれていく。
星空の東西南北にある秋の星座についての紹介がなされ、その度に大きく星座が映し出される。知っている星座が主だけれど、初めて知る形や、成り立ちなどを聴くのはとても楽しく、先ほどまでの眠気はどこかへ消えていた。
話題はアンドロメダ銀河へと移り、アンドロメダ座の話になる。
「アンドロメダ姫はこのケフェウス王とカシオペア王妃の娘でした。家族仲良く並んでいますね。さて、アンドロメダ座の絵をよく見てみると、彼女の両腕が鎖に繋がっているのが分かりますか。実はある恐ろしい怪物に生贄に差し出されている姿だったのです」
導入部分が話され、そこからアンドロメダ姫についての神話が語られ、映像が星空から神話の紙芝居へと変わる。
美しいアンドロメダ姫の母であるカシオペア王妃が、ポセイドンの孫娘である海の妖精よりもアンドロメダの方が美しいと自慢したことでポセイドンの怒りを買い、ポセイドンは海の怪物である化けクジラを送ってカシオペア王妃の納める国の海岸を荒らし続けた。
困った王が神に相談すると、災いを止めるにはアンドロメダを怪物の生贄として捧げるしかないと告げられる。
そしてアンドロメダは怪物の生贄になるために、海岸の岩場に鎖で縛り付けられた。
💚「っ……!」
その姿を見て、阿部は口元に手を当てた。
それは先ほどまで描かれていた愛らしいアンドロメダではなく、自分の姿をしていたから。
岩場に鎖で縛り付けられる自分の姿を見つめながら、阿部は動く事ができなかった。
【姫、迎えに行くよ】
突如として耳元で聞こえた男の声。
瞬間、目の前が真っ暗になり、阿部の目に映ったのは騎士のような恰好をした長身の男。
💚「え……?」
「ようやく見つけた。我が姫」
💚「は? 姫って、なに?」
「自分の姿を見てみろ」
言われて自分の体を見ると、両手が広げられた状態で、鎖で縛られている。
💚「っ! 外れないっ」
ガチャガチャと鎖の擦れる音がする。
男の手が伸びてきて、阿部の頬を包み込んだ。
「この時を待ちわびていた。我が生贄となりし姫よ。今はまだ直接会えないのが残念だ」
💚「俺が姫って、本気?」
「我が生贄は全て、姫である」
💚「そんな無茶苦茶な……」
「我が名は《夕星-ゆうづつ-》。逢魔時(おうまがとき)に相見えよう」
夕星と名乗った男の顔が近づいてきてぎゅっと目を瞑り、ハッとして目を開くと天井に星空が輝いている。
🖤「阿部ちゃん、大丈夫?」
こそっと、隣の目黒が心配そうにこちらを見ている。
反射的に大丈夫と返そうとしたけれど、それよりも早く目黒が口を開いた。
🖤「じゃ、なさそうだね。他の人の邪魔になっちゃうから、終わったら話、聞くから」
有無を言わせぬ目黒の言い方に、阿部は思わず頷いた。
それから、ナレーションを聞きながら星空を見つめているけれど、どうにも落ち着かない。本当は楽しみたいのに、できない。
無意識に、右手首をさすっている。それは先ほど、鎖が繋がれていた部分。今は何もないけれど、違和感が拭えなかった。
それから10分ほどで上映が終わり、仄かに明るくなると目黒はすぐに立ち上がり、阿部の手を握って歩いて行く。
人のいなさそうな場所を捜して歩いて行って、庭の片隅にあるがゼボと呼ばれる屋根と柱と装飾の付いた囲いがある建物の中のベンチに腰掛ける。
🖤「阿部ちゃん、どうしたの? 具合悪くなった?」
答える代わりに、阿部はふるふるっと頭を横に振る。
🖤「……話せそう?」
💚「……ちゃんと、話すよ……さっき、アンドロメダの神話の話してたでしょ。それで、アンドロメダが生贄になった話の時に、その姿が俺に見えたの」
🖤「……えっ……?」
💚「鎖で繋がれてる俺で、ビックリしてたら耳元で男の人の声が聞こえた」
🖤「……」
💚「そしたら、真っ暗な空間にいて、ようやく見つけたって。俺、そこでも鎖で繋がれてて……俺の事、生贄だって言ってた」
🖤「生贄って……」
💚「迎えに来るんだってさ」
🖤「……いつ?」
💚「今はまだ直接会えないらしいけど、そう遠くないんじゃないかな」
🖤「回避する方法は?」
もう一度、阿部はふるふるっと頭を振った。
💚「異能だと思う。でも、どんな異能なのか分からない……逢魔時―――多分、現れるとしたら夕方、昼と夜が切り替わる時間」
不安そうな阿部を見て、目黒は阿部の頭を引き寄せるとぽんぽんと背中を優しく撫でる。
💚「……めめ……?」
🖤「大丈夫。俺も、みんなもいるから。生贄になんかさせない。絶対」
💚「……うん……ありがと……」
🖤「ごめん、俺が行こうって誘ったから……」
💚「めめのせいじゃないよ。ようやく見つけたってことは、多分、波長が合う人を捜してたんだよ。それがたまたま俺だっただけだし、きっと、ここのプラネタリウムだけじゃないと思う」
🖤「……一回、帰ろう」
💚「……うん」
事務所のドアを開けると、中にいた深澤も渡辺も宮舘も、驚いたように目黒と阿部を見た。
💜「阿部ちゃん、めめ、どうした? 今日、休みでしょ」
🖤「ちょっとマズいことになりました」
❤️「マズいこと?」
🖤「阿部ちゃん、生贄にされるかも」
💜「……詳しく聞かせて」
ソファに座って、先ほどの出来事を目黒から伝える。
阿部は、遠慮しているのか申し訳なさそうで、この調子だと「大丈夫」だとか「やっぱり聞かなかったことにして」と誤魔化してしまいそうだったから。
けれど、ここにいる皆がそれを許さない。
大切な仲間の危機を、見過ごせる筈がないのだから。
💙「んだ、それ……」
💜「阿部ちゃん、心当たりは?」
💚「ないよ。だからビックリして……あの場に本人がいなかったって事は、精神に関与する系の異能か、もしくは、電波に乗せて異能を使ってたか……だとしたら、俺が引っかかるのも頷ける、かも」
💙「そんな悠長に分析してる場合か? 狙われてるのは自分だろ!」
💚「だからだよ。狙いが俺なら、対策もできる」
💙「お前……自分が犠牲になるくらいならいいとか、思ってないよな」
💚「……」
💙「阿部!」
💚「……あの人、夕星って名乗ってた。ちょっと調べてくる」
スッと立ち上がって、渡辺の方を見ずにコントロールルームに向かって行った阿部に、深澤が後を追って行き、苛立ちを隠せない渡辺はダンッとテーブルを拳で叩いた。
❤️「翔太、落ち着きなよ」
💙「落ち着いてられるかよ! なんであいつ、あんな平然としてられんだよ!」
❤️「……気付いてないの? 阿部の手、震えてたよ」
💙「……えっ……?」
🖤「しょっぴー、頭に血が上りすぎ。いつもなら見逃さないのに。阿部ちゃんが心配なのは、みんな一緒」
💙「……悪い」
❤️「とにかく、俺たちにできる事をしよう。今はまだってことは、今日中にどうこうって事はないと思うから。目黒。ラウールと一緒にそのプラネタリウムのこと調べてきてもらっていい?」
🖤「はい」
❤️「翔太は、他のみんなに連絡。緊急で集まってもらって」
💙「……わかった」
❤️「じゃあ、動こう。阻止する為には動くしかない」
不安を払拭するように、大丈夫だと言い聞かせる為に、今はただ、ガムシャラに動くしかないのだ。
コントロールルームに入り、椅子にちょこんと座った阿部を見つめる深澤。
💜「らしくないじゃん」
💚「……何が?」
💜「なべとああやって言い合うの。いつもならサラッとかわすのに」
💚「そりゃ、生贄なんて言われて、俺だって余裕ないよ」
💜「まあね。怖いし、焦りもするよね。でも、そのままじゃ阿部ちゃんの力は発揮できない。阿部ちゃん自身が諦めたらダメなのは、わかるよね?」
💚「……諦めるつもりは、ない。でも正直、俺で良かったって思ってるのも、事実」
💜「犠牲になるのが自分だから?」
💚「……それと、俺だったらもしかしたら、何とかできるかもって」
💜(……否定はしない、か)
自分が犠牲になることに対して否定の言葉がないということは、最悪そうなっても構わないと思っているということ。
それは絶対に阻止しなければならない。
💜(って、言って聞くなら苦労しないけど。阿部ちゃんはみんなに迷惑がかかるくらいなら自分を犠牲にしちゃうからな)
それは、ずっと一緒に過ごしてきたから分かっている。
深澤と阿部は、小学生の時に通っていたダンススクールで同期だった。ずっと、一緒に過ごしてきた。
住んでいる地域はバラバラだったから学校は違ったけれど、切磋琢磨して二人で楽しいことも苦難も共有してきた。だからこそ深澤は阿部の事が大事で、この関係を守り続けたいと思っている。
💜「わかった。阿部ちゃん、俺はここで待ってるから、調べて来て。でも、絶対無茶しちゃダメだからね」
💚「……ん、わかった」
微笑を浮かべている阿部に拳を付き出すと、グータッチしてくれた。
そして阿部の目が緑色に光り、電脳空間に入ったことを知ると、深澤は椅子の手すりに置かれた阿部の左手に自身の手を重ねた。
💜「阿部ちゃん。絶対、護るから」
それは、深澤の決意。
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